op.6-2 少年少女闘技大会:初戦②
ハルが、木製剣を片手に初めて『闘技場』に足を入れる。
ニールセンやダイヤとの稽古ではない、初めての対人戦、初めての公式戦で、ハルが相手をするのは、つい先ほど出会った少女・いくみだった。
いくみはファッションこそかなり気合が入っているが、体格はハルよりも、なんなら皐月やマッキーナよりも背が低くて小柄な印象だ。身長百五十センチ前後といったところか。
しかし、にこにこと、これから剣を振り下ろす少女とは思えないほど晴れやかな笑顔を浮かべているいくみに、ハルは勘付いた。
──あ、この子。多分めっちゃ『強い』タイプ。
「両者、構え!」
審判役の男が声を張る。
他のフィールドでもあちこちで試合が繰り広げられていて、観客もまばらに散らばっている喧騒の広場。
ハルは、その剣を両手に握りしめて──構える。
「いざ、尋常に。──始めっ!」
⁂
刹那。
「──【言ノ葉拾弐花月流・壱ノ花】」
いくみの振るった『剣撃』が。
「【水仙】」
ハルの『星撃』をも超える刹那で。
(──ひ、えぇえっ!?!!?)
寸でのところで、ハルは自身の『星撃』によっていくみが放った剣撃を、剣の全身でいなした。
しかし、いなした間にも、剣の本体がハルの目前にまで迫ってくる。
ガギンッ! と木製からは絶対に発されないような効果音が、両者の剣から鳴り響いて。
(な、んだっ、それ!?!!?)
光の速さ、とはこのことか。
小柄な少女からはおよそ想像もつかないような、光の速さと鉛の重さを併せ持った剣撃が、星の剣士に息吐く暇もなく襲いかかってくる。
いや、確かに僕は『剣士』としては初心者だけど!
相手がいくら玄人だからって、その動き! その剣撃! 物理的に不可能じゃない!?
(まさか……『メトリア』!?)
自分もメトリアを使っておきながら、相手のメトリアにこれでもかと仰天する新米剣士・ハル少年だった。
そういえば、ニールセンだって言っていた。モデラにもメトリア使いは居るのだと。
くるり、とハルの頭上を舞った少女が、
「【言ノ葉拾弐花月流・弐ノ花】」
──一閃。
「【勿忘】」
空から放たれるは、無数の『花びら』が如き剣撃。
一直線に伸びてきた、先ほどの【水仙】とはまた違う色合いの剣撃を、ハルは地上から受け止めるしかない。
何だこれ何だこれ何だこれ!? 『星撃』なかったら死んでるよ!?
しかも、まさかの『技名』付き。もし近くでダイヤが見ていたなら、いかにも大喜びしそうな展開だ。
「【参ノ花・三枚】」
一閃。
「【蓮華】」
二閃。
「【花菱】」
三閃。
「【花水木】」
メトリアで応戦する暇がない。いくみは、これでもかと言わんばかりに自身の剣撃、いや『剣技』をハルに見せつけてくる。
(うわわわわわわわわわあっ!?)
怒涛の攻撃に為すすべなく、剣で受けきれなかった【花水木】のひとつが足に当たってよろけてしまう。
たんっ! と華麗に着地したいくみが、
「【言ノ葉拾弐花月流・肆ノ花】」
わずかに一歩、踏み込んで──迫る。
「──【杜若】」
──剣撃が、メトリアが。
ハルの胴体を、剣越しに突き放して。
「…………へ?」
花に吹雪いたハルが、着地した先は──すでにフィールドの外側だった。
小説を「ブックマーク・評価」などで応援していただけると執筆の励みになります。