op.5-2 工業都市モデラ②
──その都市は、一言で表せば。
住民全員が『店長』だったのである。
「…………へ……………………え?」
茫然自失、とはこのことだ。
すれ違う人、前方の道を歩いている人、立ち並ぶコンクリートの建物に入っていく人。視界に映るほとんどの人が、あのニールセンではないかと見間違うほどに。いや、なんだったら、大陸世界とは違う、『神様』たちが暮らす世界とかからやってきた、店長の転生か転移なんじゃないかと勘違うほどに。
会う人会う人すべてが、芸術的なまでの『筋肉』を、その身に宿していたのである。
呆然と駅前で立ち尽くすハルに対して、ダイヤはやっぱり元気だった。
「すっげえ! 俺、『七都市』って初めて来たよ。なんか建物もでっけえし! つーか、住民ごっついし!」
──うん。確かに『ごっつい』ね?
「俺の親父が言ってたぜ! モデラは大工さんとか、ものづくり職人みたいなおっさんがいっぱいいるって!」
ダイヤの言葉に、ハルははっとする。
そうだ、この町はあくまで『工業都市』なのだ。サントラの人々の主な仕事が農業ならば、この町の人々が主戦場としているのは『工業』なのだ。
ハルの日頃の荷物運びなど、比べ物にもならないような力仕事が、この町にはたくさん溢れているわけで。
そんな力仕事に従事する力自慢たちが、この町には集まっているわけで。
(や、やばい。この町……僕みたいな脆弱者はお呼びじゃなかった!?)
メトリアに造詣のない人間など、『魔法都市』ではお呼びじゃなかったように。
ど、どうしよう。ひょっとして、例の『モデラ自衛団』とかも全員こんな感じ!? 大会の参加者も、みんなして筋肉ムキムキとかだったらどうしよう!?
カタカタと、歯を鳴らしてその場で震えているハルの、服の裾を摘んできたのは皐月だった。
「ハル。早く行かないと遅刻する」
そう告げた皐月の手には、大会の詳細が書かれた紙切れと、ニールセンからあらかじめ受け取っていたモデラへの『入場券』が握られている。
アレグロでは協会本部への『記帳』を必要とするように、モデラでもまた、他所の人間が都市に入るためには、『入場券』というものを町長から取り寄せる必要があるらしい。
皐月とダイヤに促され、ようやく重い足を引きずり始める小心者のハルだった。
この先で待っていると思われる、全身筋肉集団──『モデラ自衛団』の筋肉をその脳裏に思い浮かべながら。
⁂
ハルたちがたどり着いたのは、大会の会場となっている『大広場』だった。
サントラで遊んだり稽古場として使っている広場よりも、はるかに広々とした大地が、新たな三人の冒険者を迎え入れる。
広場にはすでに大会の準備らしきものが色々施されていて、大会の出場者と思わしき木製剣を携えた子どもたちや、大会を運営するのであろう大人たちが、あたりをうろついているのをハルは眺めて、そして吟味する。
…………ふむ。
駅前よりは、『筋肉』の度合は落ちている。
(よ……良かった……)
子どもまで全員店長だったらどうしようかと。
自分と近しい年頃、そして近しい体つきをした少年少女たちを見て、ハルはゆっくりと、安堵の息を吐いたのだった。
『少年少女闘技大会』は、いわゆるトーナメント形式だった。
広場にはいくつも小さな『闘技場』が用意されており、同じ時間に複数の試合が行えるようになっている。
一回戦、二回戦、準々決勝、準決勝──そして、決勝。
凄まじい回転率で試合が繰り広げられ、丸一日かけて、優勝者を決めるところまで進行するという過密スケジュール。
しかも、勝ち抜き。一度負けたら試合終了。
「結構キツくない、これ……?」
早くも弱音を吐いているハルに対して、ダイヤはやっぱり前向きで。
「体力勝負ってやつだよな! 俺は得意だぜ、そーいうの」
それに、と言葉を続けては。
「俺は体力で勝負するけど、お前は魔力で勝負すれば良いんじゃね? ほら、メトリア禁止なんてルール、どこにも書いてないじゃんよ」
──その『魔力』に難ありという結論が、先週付いたばかりでは?
「大丈夫だって! 店長にいっぱい鍛えてもらったじゃん。いっぱい経験値上昇したんだから、五試合連続で持つように、どーにかこーにかMPのやりくりしろって!」
雑魚戦で魔法を消費するやつは初心者だと、相変わらずの漫画脳解説が展開されていく。……うん、でも冷静に考えたら、漫画が情報源といえども『正論』だな全部! 全然馬鹿にできない解説だったな! しかも、やっぱり漫画よりもRPG要素の方が強めだな!
──どん! どどん!
ダイヤとそんなやりとりをしているうちに、突然、地響きが会場中に鳴り渡る。
その地響きは、広場の中央最奥部に置かれた、大太鼓によるものであるとハルはすぐに理解した。広場に掲げられている大時計を見るに、おそらく大会開戦の合図なのだろう。
そして、大時計と大太鼓を取り囲むように──ざざっ! と。
子どもたちの目前に立ち並ぶは──『筋肉』の大群。
「一同、注もぉくっ!」
軍隊さながらの整列を見せた、その『筋肉軍団』の一人の男が、拡声器さながらの豪声を張り上げて。
「これより、モデラ自衛団定期主催、少年少女闘技大会冬期を執り行う!」
子どもたちに告げる。
「我らが自衛団の長にして、モデラの象徴たる御方より、ここに開催の狼煙を頂戴する!」
そして──
「一同、敬れぇいっ!」
──ざんっ!
ハルたち三人の部外者を除いて、その広場にいた全員が。
立ち並ぶ軍団をかき分け、中心に姿を表した、その『長』の登場に右足を鳴らした。
背筋をピンと伸ばし、目前の男たちさながらの仁王立ちを決め込む子どもたち。
ハルが仰天したのは、そんな異様な『光景』──ではなく。
⁂
「え…………?」
屈強な男たちに囲まれ、子どもたちに敬愛された──その『人物』。
モデラ自衛団の長、そしてモデラの象徴と呼ばれた、その人物は。
皐月のように、いや、皐月以上に──『花』の如く可憐な。
「モデラ自衛団長、『言ノ葉拾弐花月流』二代目当主、言葉まどかだ。現時刻を以って、ここに少年少女闘技大会冬期の開催を宣言する。──一同、『剣』を持ち『義』を為し、ここに『全霊』を示せ!」
──女性、だったのである。
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