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op.4-2 「やればできる」②

 もう、二度と失いたくないのだ。

 自分にとって大切な人を、家族を、友だちを。

 今度は、今は──『星のメトリア』があるのだから。



「…………ぐ、ぬう」

 まだ不満げな表情を残したまま、それでもハルは。

「と、とりあえず……出るだけ出てみマス」

「出るだけでは駄目だ。優勝しろ」


 ──む、無茶な!?

 優勝まで行っちゃう!? モデラって『七都市』でしょう!? さささささサントラですら一番になれていないのに!?


「甘えるな。()()()()()()()()()()()()

 いつもの口癖を言い放ち、

「メトリアの使い方ももう少し覚えろ。モデラ(あっち)にもメトリアを持ってる奴は居るからな」


 ニールセンは、まだ手が付けられてない夕食が並んだ食卓の、端の方にぼろぼろの紙切れを置いて。

「明日も稽古だ。仕事もサボるなよ」

 ずしり、ずしり、と。

 廊下へ出ていったニールセンが、そのまま振り返ることなくハルの家から去っていく。


 服の布越しからでも浮き出てきそうな背筋が、遠ざかっていくのを眺める少年少女。

 ……そういえば、実は店長も冬場にしては結構な薄着だった。ダイヤの馬鹿とは違って、流石に袖は付いているけれど。せめて長袖は着ようよ二人とも?


(店長……『メトリア』持ってたんだなあ……)


 メトリアを持っていると言うことは、ニールセンもまた、何かしらの神様と『契約』しているのだろうか。

 いや、そういえばウィルさんが言っていたっけ。

 確かメトリアには、神様と契約する()()()()()でもメトリアが発現するパターンがあると――





「おい、見ろよハル!」


 ニールセンが去った後、置いてかれた紙切れを眺めていたダイヤが。


「『賞金』だってよ! 優勝すると金貰えるぞ、おい!」

「……」

「頑張ろうぜ〜主人公! お前、王都に行きたいって前から言ってたもんな」


 バトルで勝利して荒稼ぎしようぜ! などと騒ぐダイヤの屈託のない笑顔にハルは脱力する。

 この友人は『星剣(せいけん)』こそ目撃しているものの、およそ二ヶ月前に経験したハルの冒険譚(ものがたり)も、その冒険の果てで知った決して小さくない使命も、ましてや、ウィルから『都会暮らし』をしたければ『資金集め』をしろなどというお達しがすでに出ていることなど、何ひとつとして知り得ていないはずなのだ。



 ──何も知らないはずの友人(ダイヤ)が。

 主人公(ハル)よりも遥かに、次の物語(ドラマ)で果たすべき目標(ミッション)を理解している。



(ダイヤ…………お前、ちょっっっっっとだけ見直した…………)


 まあ、漫画脳の馬鹿であることに変わりはないのだけれど。

 ひとりでに尊敬の意を示し始めたハルの、そんな心境など当然図れやしないダイヤは──


「なあ、皐月ちゃん! 皐月ちゃんも大会(これ)、応援しに来ねえ?」


 ダイヤに突然話を振られ、皐月が驚いたように桜色の瞳を瞬かせる。


「え……あ」

「せっかくの主人公の晴れ舞台だぜ? ヒロインも観に来いって! あと俺も、皐月ちゃんの応援パワーにおこぼれ預かりたい次第!」


 おこぼれ預かりたい次第、なんて言葉が、よくもまあこの馬鹿(ダイヤ)の口から出てきたものである。


 ハルはソファに腰掛けたまま、その場で立ち尽くしている皐月を横目で観察した。

 皐月はその場でもじもじしたまま返事を保留している。いくらハルの晴れ舞台、ついでに『剣士』としてのデビュー戦だからと言って、やはり皐月はサントラの町を出ていく勇気が持てていないようだった。

 ハルは少し迷いながらも、かつてのウィルの証言を思い出し。


「モデラって確か、『極東』の出身の人が多いんじゃなかったっけ?」


 大陸の『極東』に位置する島国──皐月の生まれ故郷でもある、この大陸の『外』の世界。


「も、もしかしたらさ。同じ故郷(ふるさと)の友だちとか、できるかもよ……?」


 なにせ、この闘技大会は『少年少女』が出場するとすでに決まっているのだから。

 ハルやダイヤ、皐月と近しい年頃の子どもが、かの大会には集結しているということだから。

 ダイヤが脇で、「だよな〜、新たに登場した『ライバル』がそのまんま『戦友(とも)』になるのも鉄板(おやくそく)だからな〜」などと勝手に納得しているのを無視して、ハルは皐月に言葉を続ける。


「それに、ウィルさんも言ってたじゃん。庭の『みかん』、モデラに持っていけば売れるかもって」

「……………………むう」


 セーラー服のスカートを、ぎゅうと両手で握りしめている皐月に。

 ハルは少し、いやだいぶ、迷った末に告げたのだ。


「さ……皐月は、僕が守るから!」





 ──言ってしまった。

 自分で口にした発言に赤面するハルと、発言そのものに赤面する皐月と、赤面する二人に赤面するダイヤの、三人の真っ赤な顔がリビングにあって。

 しばらくの沈黙を重ねた末に、皐月が、ぶんぶんと首を縦に振り回す。


 そして、

「…………行く」

 行きます、と。

 ついに皐月が、サントラの町を出ることを決心した頃には、すでに時刻は夜の十時を回っていたのだった。





 そして──やはり。

 ハルはまだ、知る由もなかったのだ。


 自ら下した選択が、ハル自身、そして皐月にとっても、この先待っている新たな物語の、大きな未来の分かれ道であったことを。


 『少年少女闘技大会』の開催地──『工業都市』モデラ。


 かの地ではハルと『メトリア』をつなぐ物語において、決して欠かすことのできない、重要な登場人物(ひとびと)との出会いが彼らを待ち受けていた。

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