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op.4-1 「やればできる」①

 ヒロイン・皐月の活躍で、戦闘不能だった状態からほんの少しだけ回復を見せた主人公(ハル)に対し、


「見ろ」


 告げるなりニールセンは、エプロンの胸ポケットから何重にも折り畳まれた紙切れをハルの目前に掲げる。

 服のポケットから紙切れが出てくる流れに、若干の既視感(デジャヴ)を覚えながらも、ハルは横から割り入ってきたダイヤと共に、その紙切れに書かれた文章を読み取った。


 ──【モデラ自衛団定期主催『少年少女闘技大会』】、と。

 紙にはそう、記されてあった。


 ちなみに開催日はちょうど来週の二十一日。


「と、闘技大会……」

「出ろ」


 端的に大会への出場を促され、ハルは静かに眉をひそめる。

 闘技大会、なんてものはハルには初耳だったが、なにせこの全身筋肉たるニールセンが誘うようなイベントである。どういった趣旨の大会なのかは、流石の無知な少年にでも容易に想像できるものだった。


「お前らと近い年齢(とし)の奴らが出場()るような大会だ」

 ニールセンが言った。

「モデラ自衛団は剣の道場を経営(やっ)てる。お前らのように、日頃から鍛錬を積んだ子ども(ガキ)が大勢いる」


 ──いや、『日頃』と言われても。僕はまだまだ、剣術始めたての素人(ビギナー)だと思うんデスケド?


 そして、ニールセンの言葉に目を輝かせたのはハルではない。

 うおおお、と元気な歓声を上げたダイヤが、


「それ、俺も出ていい大会(やつ)っ?」

「ああ」


 主催者に話を付けておいてやる、と言い加えたニールセンの返事にダイヤはその場で跳ね上がった。


「すげえ〜っ! 道場とかあるんだな!? これってもしかしてあれじゃねえの、漫画のお約束、『ライバル』登場の流れじゃねえの!?」


 やっぱり漫画で例えてくるダイヤに、ハルは呆れてため息を吐く。

 ……なんだったら、『闘技大会』というイベント自体がすでに漫画のお約束(テンプレ)じゃない? などというありふれたツッコミは、内心だけで済ませておくとして。


 ハルはソファに腰掛けたまま、紙切れを持ったまま仁王立ちしているニールセンを見上げた。


「て、店長……」

「おう」

「それ、出なきゃ駄目……デスカ……?」


 おそるおそる確認してみれば、ニールセンは沈黙だけでハルに肯定の意を示す。

 そして、続けた言葉が。


()は二十の時から軍隊にいた」


 ──うん? ()? 奴って誰のことだ?


「剣を始めたのも二十の時だ。子ども(ガキ)の頃は剣すら持ったことがないらしい」

「……」

「人間はやればなんでもできる。だが、やらなければ何もできない」


 ──ハルは次第に、ニールセンの言う『奴』というのが、かの『英雄』の話であろうことを察し始めた。

 どうして酒場の店長がそんなことを知っているのかは知らなかった。巷では評判と噂の『マイスター伝説』にでも記してあるのだろうか。

 この時点でハルはまだ、ニールセンが実は王国軍の兵士であることも、あの『大陸戦争』に至っては、実はウィルの部隊に属していたという事実もまだ把握していなかったけれど。





 ハルは眉をひそめたまま、ニールセンに言い返してみる。


「それは、父さんがそもそも『やれる』人間だったから、出来たってだけの話じゃない……?」

「ああ」


 …………へ。あれ、肯定した?

 この「やればできる」おじさん、「やれる」人だからできたんだってあっさり認めちゃったよ!?

 しかし──


「だが、お前はまだ何もしていない」


 ニールセンが言葉を続けた。

 首を傾げるハルに、ニールセンはこう言ったのだ。


「やればできるというのは、『やる気』があればできると言う意味だ」

「……え」

「やる気がない奴は、いつまでやってもできない」


 ──ハル(おまえ)はまだ、自分の意志(やるき)で『剣』を振っていない。



 ハルは、空色の瞳を見開いた。

 初めてニールセンから稽古をつけてもらった時、そして、以降も何度か手合わせしてもらった時。

 さらには、ダイヤも稽古に混ざりながら、散々その腕前を馬鹿にされて笑われてきた、昔の記憶を刹那で蘇らせていく。


(そうか……僕はあの頃はまだ……)


 あの頃はまだ──『星のメトリア』を宿していなかった。

 指導者(ウィル)にも出会っておらず、術士(マッキーナ)とも関わりを持たず、天文台で『星剣(せいけん)』を手にすることもなく。

 顔も名前も知らない父親が、かつてどんな人物だったのかも知らないままで。


 あの頃のハルはまだ、メトリアを行使する意味も。

 ──『()()()()()()()()()()()()()()、ただの『少年』だったのだ。



「メトリアの有無など瑣末ごとだ」

 ニールセンは。

「だが、『やる』きっかけにはなる」


 ハルに──小さな『英雄』に問いかけた。


「やるのか?」

「あ……」

「お前は、『今』、やるのか?」


 ──「やればできる」のかどうかは。

 実際に行動(やっ)てみなければ決してわからないのだと、ニールセンは告げたのだった。





 ニールセンの強面仏頂面に促され、ハルはソファの脇に立てかけてあった剣を見据える。

 そして、ハルが剣の次に見据えたのは。


(……皐月)


 同じ家で生活を共にする少女。

 幼い頃に、母親を『魔獣』で失ってから。

 初めて──この世界で唯一の『家族』のような、かけがいのない大事な女の子。

 生まれ育ちも、髪の色も目の色も違う。おまけに、皐月について知らないことも、まだまだたくさんあるけれど。


(『マイスター』とか『英雄』とか、『魔神』とか……)


 ハルにはまだ、あの天文台で契約した『星獣(せいじゅう)』アストロが言うところの、『混沌』なる存在に立ち向かえるほど、大して強い意志は持ち合わせていないけれど。



 もう、二度と失いたくないのだ。

 自分にとって大切な人を、家族を、友だちを。

 今度は、今は──『星のメトリア』があるのだから。

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