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ハルのメトリア 〜英雄の子、ふたたび英雄となる?  作者: 那珂乃
vol.1「ハルのメトリア」編

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ep.13-2 精霊都市ラルゴ②

 ──それは竜歴一〇四四年、十二月十九日。


 最終列車サントラ行きでの、単なる偶然がもたらした出会い。

 たまたま見かけた犯罪現場(カツアゲ)から、()はこの見知らぬ少年を救い出した。


 無論、顔を見れば彼こそが目的の『少年(ハル)』であるのだとすぐに悟ることができた。

 しかし、ノウド君から『流星』の報告を受けた私は、その少年には彼を通して自宅待機を言いつけていたはずだったから、そんな夜更けの電車にまさか彼が乗っているはずもないと思っていたんだ。

 私だけではない。少年もまた、私と同じ電車に乗り合わせていたなんて、まるで思いもしなかっただろう。


 ──だが。

 たまたま出会ったこの私に、少年はたずねたのだ。


「……()()()()()?」


 その空色の瞳、その金色の髪──『水』を、揺らめかせながら。





「私が『何者(だれ)』なのか、本当は初めから知っていたんじゃないのかね?」


 空色の瞳が揺れる。


「ノウド君から話に聞いていた、メトリアの『専門家』──としてではない」

「え……と」

「『(ウィル)』という人間そのものを、初めから知っていたんだろう」


 マッキーナが驚いて、ハルの顔を覗き込んでいる。

 あたかも、私のことをまるで知らないような振りをして。私がどこからやってきて、かつて何をしていたのかを知らない振りをして。


 ──自分(ハル)は、(ウィル)とはまるで関係がない人間であるかのような顔をして。


「なあ。教えてくれないか」

 私はたずねた。

「──()()()()()()?」


 私が、君の元へ会いに来ることを。


「私が君の『指導者(せんせい)』だと、いったい誰が教えてくれたんだ?」


 この少年は、私を信用していない。

 かといって、町長(ノウド)を信用しているわけでもない。

 店長(ニールセン)でも、長老(ハモンド)でも、そして──同居人(さつき)でも。

 それでもこの少年は、ここまで私の後を付いてきた。何の文句も不満も垂れず、疑わず、それが『正解』なのだと自分に言い聞かせながら。


 ──つまり、今。

 この少年が誰よりも──いや。

 『何』よりも、信用しているのは。





「…………『流星(ほし)』だよ」


 ハルは答えた。

 戸惑いながらも、ゆっくりと。


「あの流れ星が、教えてくれたんだ」

「……星が?」

「もうすぐ先生(ウィル)が会いに来るから、会ったらおじさんの言う通りにしろって」


 蒼い髪、蒼い目の。

 変な格好のおじさんが会いに来るって。


「……風貌(みため)まで教えてくれたのか?」

 ハルがゆっくりとうなずいて。

「『友だち』だって、言ってたよ」


 この世界で、ただ一人の友だちだって。

 あの『流れ星』が、ハルにそう、教えたのだと。


「……それ……『予言』ってやつ…………!?」


 ハルの証言を聞いたマッキーナが、真っ白な空間で唇を震わせて。


「伝説にも書いてあったわよね!? マイスターには星の声が聞こえるって、未来のことが分かるって……」

「いいや」

 私は、それまで浮かべていた笑みを引いて。

「確かにマイスター(あいつ)は、予言じみたことはしばしば口にしていたよ。だが、それらはあくまでも、『流星』による作り話の域を出ない内容ばかりだった」

「はあ? どういうことよ」

予言(フィクション)現実(ノンフィクション)にするために、あいつが自分で行動を起こして、その予言を叶えていたということだよ」


 予言──『予告』。

 むしろ、『願い』と言った方が正しいか。

 あの青年は、それらの願いを、他でもない自分自身で叶えていたのだ。


 王国に勝利をもたらす願いも。

 暦の読み方を変える願いも。


 そして──「明日死ぬ」という、願いも。


「だが、今回(ハル)の予言は違う。予言と呼ぶには、あまりに具体的が過ぎる」


 それも、神の代弁者であるべき『流星』ときたら。

 (ウィル)が『友だち』だと、そう言ったのか?

 私の本名(フルネーム)──ウィンリィ・ドーラ、ですらなく。





「…………なんて、ことだ……」


 少年少女がいる手前、大袈裟に頭を抱える動作はできなかった。私は奥歯を噛み締めて、十五年越しにあの大馬鹿糞野郎を呪う。


 いや……まだ『十五年』は経過していない。

 ハルも、この春を迎えるまでは十四歳。そして、あいつが『英雄』となったのは、夏の話なのだから。


 ハルはふいに、足を進め始める。

 勝手に進んだら危険だと引き留めるマッキーナをよそに、ハルは何もない町を、地面を、空気を、たった一人で進んでみせる。


 ──この世界(まち)の歩き方を、初めから知っていたかのように。


「……な、んで…………?」


 その背中を、マッキーナが呆然と見つめる。

 その方角、その道のりは、まさしく天文台への道すじを示した『羅針盤(コンパス)』や『星地図(バイエル)』のそれとまったく一致していた。


 地図がまるで読めない少年だった。東西南北、方角がわからないと言っていたはずの少年が、あたかもこの未開の町を──自身の『故郷』であるかのように。

 寄り道もせず、誰かに道をたずねることもせず、初めからその道を辿るつもりであったように、ハルはひたすら前を進んでいく。


「……行くぞ、マッキーナ」


 私も歩き出す。

 私やマッキーナが、ハルに後を追わせるのではなく。

 自分たちの方こそ、ハルの後を追わなければいけないと。


 ──この冒険の、そして、あの伝説(ものがたり)の本当の『結末(エピローグ)』を、私はこの目で確かめなければならないのだから。





(……上等だよ、『クラウス』)


 (はなだ)色の瞳が、十五年前の『空』を思い出す。


 私は決して、英雄でも、この物語の主人公でもないけれど。

 あのときの星天が、あのときの青年(クラウス)が、最後に残していった一欠片の『星』を、私だけは決して忘れるわけにはいかない。

 あの星を今度こそ拾い上げて──決して、離さないように。


 もしも再び、人が国境を越えて争う時代が訪れようと。

 再び災厄が──『魔神』が、この大陸世界を堕とそうと。


 再び『流星』に導かれ、メトリアを宿した少年を。

 王国でも、人間でも、神々が作った大陸世界でもない。

 そんな──誰にでも救えるようなものじゃなく。


 私が必ず──『主人公(ハル)』を、この物語から救い出すのだ。

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