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ep.7-2 図書館:メトリアのADSR②

「あなたの『先代』も同様ですよ、少年」

「……センダイ?」

「ええ。この『暴君』も、あなたの先代――『マイスター』こそ、量に物を言わせた『アタック』一点張りで、このエレメント協会ごと我々術士(ライター)の面子を潰してくれた、営業妨害甚だしい害悪だったわけです」


 まあ、その害悪で『世界』を救ったのでしょうけれど――と。



(先代……まいすたー?)


 不思議そうに、ハルが空色を丸くしていると。


「――ハルはまだ『星』に選ばれたばかりでね」


 ウィルが言った。

「メトリア量すら計測していない、素人(ビギナー)そのものなんだ。まずはご当主殿、『計測器(メトロノーム)』の借用と測定をお願いしても?」

 マスキードはウィルを一瞥し、

「明日計測いたします。本日は業務時間外ですから」


 朝九時から夕方五時までの営業だと、マスキードは気怠そうに答えた。今は残業の最中だと、ウィルにそれとなく主張するように。


 ──すると。

「つまりね」

 マスキードではない。口を挟んだのは男性だった。


 男性が飲み物を並べたお盆を持って、ハルたちのテーブルに歩いてくる。ウィルにはコーヒー、ハルにはカフェラテ、そして妻にはレモンティーをそれぞれの目前に置いた。


「炎を出す、水を出す、だけではメトリア使いとしては不足なんだ。メトリアの性質を深く理解して、ケースに応じた有効なメトリアの使い方を考える――考え続けるのが、僕たち術士(ライター)の仕事なんだ」


 男性の声色は、アレグロで出会った誰よりも穏やかだった。

 やがて、机上には注文した料理が揃っていく。ハルはミートドリアを、ウィルはサンドイッチを注文していた。


「夜なのにサンドイッチって、足りなくない?」

「メトリアを大して消費していないから問題ないよ」


 その不可解な返事に、メトリアの貯蔵限界(ストレージ)とやらが、日頃の食事量と何か関連しているんだろうか、とハルは首を捻らせる。

 しかしマスキードは、ウィルの主張をあっさり否定した。協会で立証されている事実ではない、と。


「メトリアの発現の有無に関わらず、衣食住の追求はいち人間として当たり前の職務です。職務放棄している人間の話に耳を貸してはいけませんよ、少年」

「し、辛辣……」

「……まあ、職務放棄している『娘』なら、うちにも居ますけれど」


 ビブリオ家当主はそう呟き、茜色の瞳を揺らす。

 ハルが言葉の真意を確かめる前に、マスキードは席を立ち、台所の方へと消えていってしまった。





 ――マスキードはまったく笑わない女性だった。

 毒を吐きながらもあくまで仕事には忠実で、それでも気怠そうに。『炎』使いだというわりには、その瞳から情熱のかけらも感じさせない、とても冷めた女性だった。


 町長だってもう少し笑うけどな、とハルは内心でひとりごちながらスプーンを手に取った。


「……ウィンリィさん」

 お盆を片手に佇んでいた男性が。


「すまないが、(ハル)の前では『ウィル』と呼んでくれないか」

「失礼。ウィルさん。あなたに一つ、折り入ってお願いしたいことがあるんですが……」

「……ああ」


 ウィルはその瞬間、にやりと。

 コーヒーカップを手にしたまま笑い始める。


 ――ドリアの一口目をスプーンで掬って、はむ、と。

「実は、私も折り入って君達に相談したいことがあったんだ」

 ――あっつ!

「前に図書館で拝見した……なんて名前だったか? 貴殿らの……」

「『マッキーナ』です」

 ――うん。熱い。でも、美味しい。

「そうそう、マッキーナ。あの『少女』なんだが」

 ――あれ、ウィルさん、サンドイッチ食べないの?



「……借りても、構わないかね?」



 生まれて初めての喫茶店でドリアを平らげるなり、ハルは『パフェ』と書かれた項目がメニューにないか調べ始める。

 ……あれ、パフェ、無いな?

 ウィルさんの嘘つき! と不満げにハルが睨んでみれば、そこには固い握手を交わす男二人の姿があった。


 マスキードの旦那さんが、

「『ハル』くん、だったかな?」

「う、うん」

「ハルくん。うちの娘をよろしくね」


 そう言って笑いかけられたのを、ハルはスプーン右手、メニュー左手で、きょとんと見返した。


 そうして、しばらく店内は沈黙が続いたが、ハルはスプーンをテーブルに置いてパフェの代わりになる糖分の品を男性にたずねたのだった。

 ……ウィルがいかにも悪そうな笑顔を浮かべていることに、まったく気がつかないまま。

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