op.22 顔合わせ
食堂に集いし、サントラ少年隊とチーム道化師。
テーブルに並べられた食事を囲みながら、合同任務の打ち合わせはふんわりした雰囲気のまま始まった。
「は、初めまして! サントラ少年隊のリーダーのハル、デス……」
ハルは同居人に持たされたアップルパイを皿に置いてから、どぎまぎした面持ちで名乗りを上げる。
サントラ少年隊のメンバーは四人。チーム道化師も四人。おまけにウィルや楓、楓が連れてきた奏にBコンビと、自己紹介を始めれば自然と大勢の視線が集まるため、ハルはとても緊張した。
「うぃっす。よろしくっす。ちなみに何歳?」
「じゅ、十五歳……」
「うへ〜若え! 超若え! 良いなあ、俺も十五歳に戻りてえ〜」
チーム道化師のリーダー、ジュンが質問を投げ掛ければ、ハルの返事に大袈裟なリアクションを取る。わざとらしいというよりかは、もとよりジュンはお調子者のムードメーカー的な性分をしているようだ。
ジュンの両脇に腰掛けたサラやエージも「あたしも少女だった時代に戻りたいわ〜☆」「俺は戻りたくないな。なんていうか、かなり突っ張ってたからさ。はは」などと頬杖ついている。
……ハルが内心でホッとしたのは、彼らが誰一人として、この金髪碧眼を見てもなんの詮索もしてこなかったことだった。
王子よりも有名らしい、自分と瓜二つの顔をした王国の英雄。マイスター。ハルが一度も直に会ったことがない父親。
そんな男を彼らはそもそも知らないのか、あるいは知っていても関心がないのか、はたまた楓からすでに事情を聞いていて、だからこそわざわざ口に出さないだけなのかは図りかねた。
「ええと、じゃあ、僕の仲間を紹介シマス」
ハルは自分と同じ列で並んで座る、メンバーたちをそれぞれ指差しながら。
「このギザギザした頭してるのがダイヤ。僕の幼なじみで、えっと、運動神経がすごく良いデス。でも頭は悪いデス。やたらゲームやりたがるくせに弱いんデス」
「おい」
「で、逆に髪がストンとまとまってるのがムンク。最近までハンター協会にいたから、魔獣に強いデス。慣れっこデス。あとゲームもすごく強いデス。好きな漫画は女の子がいっぱい出てくる日常系らしいデス」
「おい」
「こっちの女の子がマッキーナ。術士デス。物知りだしメトリアのこととか、分からないことがあるとすごく丁寧に教えてくれるけど、けっこう怒りん坊だから皆さんも気をつけてクダサイ」
「おい」
「そして、僕たちの指導者を自称してるウィル先生デス。なんでも知ってるような顔して無茶振りばっか言うくせに、いつも肝心なときに限って大事な話を教えてくれない、もんのすごく意地悪な暴君先生デス」
「……」
メンバー紹介と称して、仲間の全員に喧嘩を売っていくスタイルを見せつける。ちなみに、ハル少年はあくまでもリーダーとしての役割をまっとうしているだけで、喧嘩を売っている自覚は一切ない。
⁂
「こほん、じゃ〜次は俺たちな! リーダーの俺様が直々にメンバー紹介を──」
「サラ=ハーティアですう〜☆ よろしくねボーヤたちっ☆」
今度はリーダーの言葉を遮り、チーム道化師の面々が順番に名乗り始める。
「このギルドができるまでは違うお仕事してたの〜☆ なんていうのかしらね、大人の飲食店? あ、身体使うアレじゃないわよ? スナックとかバーとか、そんな感じの? だからボーヤたち、ご飯が美味しくて可愛い店員がたくさんいるお店を知りたかったら、私がおすすめ教えてあ・げ・る☆ でもお、大人になってからねえ☆」
少年たちに向かって、つけまつげをパタンとウインクさせたパーマ女を、マッキーナは冷ややかな視線で見返した。
「俺はエージ=クランブ。別にこっちが大人だからって、敬語とか使わなくて良いからね。人生の先輩か後輩かで、上司か部下かでいちいち立ち振る舞いを変えなきゃいけない社会なんて面倒だろ?」
エージは丸刈りの頭を撫でながら、穏やかな笑みを浮かべている。
……その右腕全体に刻まれた、ドラゴンの鱗らしき刺青がひどく気になったのは、はたしてハルだけなんだろうか。
「で、この生意気なチームのツッコミ担当がナギサだ。十五だっけ、十六だっけ? きみたちと同じくらいの年頃だから、仲良くしてやって」
「ツッコミ担当ってなんだよ? そんなもん引き受けた覚えはないぞ」
ナギサはハルに差し出されたアップルパイを遠慮なく受け取れば、自分の代わりに紹介を済ませたエージへ不満げに言葉を返す。
「あと俺たちが共有すべき情報は性格とか前歴よりも、メトリアとか戦闘スタイルとかだろ? 今から合同任務なんだから」
「おお、確かに」
「ジュンは『大地』、サラは『炎』、エージは『風』のメトリアをそれぞれ持ってる。俺はもっぱらマネジメントと、任務に同行して後方支援に徹してる……っつーのも、道化師は使う武器としても近接系ばっかでさ。狙撃とか魔獣の群れを広範囲攻撃で一掃……みたいな芸当ができない。魔境みたいな場所では特に、状況を客観的に見てリアルタイムにナビゲートする役割が必要なチームだ」
誰に促されるわけでもなく、ナギサはアップルパイを頬張りながらスマートにメンバーの情報を開示していく。その様子から、こういった打ち合わせ形式には誰よりも慣れていそうだ。
なるほど、戦闘に直接混ざらず事務職をメンバーに加えるという手もあったのかと、ハルは同じ年頃の大人びた少年を見て感心した。
⁂
「お前らは? メトリアとか持ってんの?」
「え、あ! えーと、その……」
ナギサに問いかけられ、ハルはついしどろもどろになってしまう。
「ダイヤは『大地』で、槍を使うかな。ムンクはさっきも言ったようにハンターだから、弓で遠距離攻撃とかできるよ。メトリアは『風』……あ、マッキーナは『炎』なんだけど、マッキーナはむしろ武器で直接敵と戦うみたいなのは苦手かも」
「そうだろうな。術士はだいたい支援に特化した術式組むことが多いから。……でも、ふうん。そっちもエレメント・メトリアが一通り揃ってんじゃん」
明らかに慣れていないハルの説明にも、ナギサは納得したように頷いてくれる。
しかし、問題はこの後だった。
「で、お前は?」
「……」
「剣士か。メトリアはあるのか?」
自分が座っている椅子から近い壁に立てかけておいた星剣を一瞥し、ナギサが真顔でたずねてくる。
ハルは返答に迷いながらも、今更隠し立てる意味もないと。
「ほ……『星』……」
「…………ああ、ごめん。よく聞こえなくて。もっかい言ってくれる?」
「『星のメトリア』、デス」
「…………………は? ……………………はあ???」
明らかに。
ナギサは明らかに初耳だと言った様子で、張り付いた笑みを浮かべるハル、周囲で何食わぬ顔をした少年隊、そして自分達とは別のテーブルに腰掛け様子を見守っていたウィルと楓の両者へと、視線を次々巡らせていく。
どうやら初耳だったのはナギサだけではなかったようだが、ジュンたち大人三人組は「どしたんナギサ? それってどういうツッコミ芸? ハトに豆鉄砲?」などとふざけていて、ハルの発言がもたらす意味をあまり理解していないようだった。
そしてテーブルには座らず、楓の背後で両脇を挟むような形で立っていたBコンビ。ロディはあからさまに驚いた表情で口を大きく開けていて、ダニエルは過剰な反応は見せなかったものの、眉をわずかに上げることで意外という心境を示した。
シャラン王国、そして大陸世界でただひとりしか存在を確認されていないはずだった『星』の使い手。
その二代目の存在を目撃した、ギルド死神局が面々の反応はさまざまであった。
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