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ハルのメトリア 〜英雄の子、ふたたび英雄となる?  作者: 那珂乃
vol.3「少年隊結成」編

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op.18 遠征開始

 竜暦(りゅうれき)一〇四五年、四月四日。


 ギルド『死神局(デステーション)』との合同任務を当日に控え、サントラの駅は朝から賑わいを見せていた。

 サントラ少年隊の面々は、それぞれがズボンやパーカーのポケットに収まりそうな程度の手帳を持っている。


「えーと……じゃあ今日の予定を確認するよ」


 電車を待ちつつ、ハルが金色の前髪をしきりに触りながら。


文化都市(ダンテ)までは電車で……工業都市(モデラ)で一回乗り換えがありマス。町に着いたらそのまま徒歩でギルドまで向かいマス」

 慣れないことをすると不自然さが際立ってしまうもので、ハルはリーダーの役目を果たしながらもどこか口調がぎこちない。

「たぶん昼頃に到着するから、ギルドで相手チームと……顔? 合わせ? して、ええと、一緒にご飯食べながら……ミー? ティング? っていうのをするみたいデス」


 手帳にあらかじめ記した内容をそのまま読み上げているだけなのに、聞き慣れない単語があるたび台詞が立ち止まっている。

 ちっとも頼りがなさそうなリーダーを、ウィルと、見送りにわざわざ来てくれた長老(ハモンド)町長(ノウド)が顔を見合わせつつ苦笑した。


「それで〜……魔境への探索は今日のうちにスタートするみたいデス。魔境はギルドとか集落のある場所から結構離れてるから、相手チームの人がトラックでそこまで運転していってくれて──」

「それって、普通に夜なっちまいそうじゃんな? 良いのか?」


 まだハルが話している途中だったが、ダイヤが抱いた疑問をストレートで口に出す。

 その疑問に答えたのも、ハルではなくマッキーナだった。


「魔獣は夜行性が多いから、本来は夜に魔境を出歩くのは避けるべきなのよ。でも今回は魔獣の生体調査が目的だから、魔獣と遭遇(エンカウント)しないと話にならないってわけ」

「おお〜……じゃあもう、魔獣とバトるのは……」

「ほぼ確実。かなり危険な任務になるわね」


 うへえ、とダイヤが額を押さえている間にハルのもとへてててと掛けてくる人物がいる。皐月だ。彼女の後を追うように、ふわふわぬるりとナマズ妖精・げっぱも空中を舞っている。


「これ、朝ごはん……と、おやつ。チームのみんなで食べて」


 皐月が持ってきた籠の中には、手作りのハンバーガーとアップルパイが敷き詰められていた。


「ありがとう皐月」

「新しい場所に行くときは絶対地図確認して。ハル、すぐ迷子になるから」

「う、うん。でも今日はウィル先生もみんなもいるからだいじょーぶ──」

「お財布はポッケ入れっぱなし、駄目。落としちゃうから。ちゃんとリュックにしまって?」

「は、はい」

「忘れ物してない? ついでにリュックの中身見て。水筒は、タオルは、都市の入場券は?」

「…………」


 注文が多い同居人だった。おかーさんかな?

 そしてハルに注文をつけるのは皐月だけではない。


「ほっほっほ、ハルよお。お土産ちょうだい」


 のっそりのっそりと身体を揺らし、白くて長いあご髭をさするハモンドが言った。


「ダンテには確かのう、年季物を揃えた老舗の酒屋があるんよ」

「ああ、そう……」


 ──なるほど、酒を買ってこいと。長老、それ十五歳に頼むような()()()()じゃないんだよなあ……。

 そうこうしているうちに、遠くの方から汽笛が聞こえてくる。


「ええと……い、行ってきます!」


 停車し開かれた扉を前に、ハルが笑顔で小さく手を振った。

 いってらっしゃいの言葉を背中に受けながら、ハルは仲間たちとともに新しい旅路へ出発したのだ。サントラ少年隊として初めての遠征、初めての合同任務、そして多くの波乱が待ち受ける冒険の旅へと。





 サントラ駅は始点につき、少年隊一行が車両に乗り込んだときには無人である。

 ひとつの列に三人ずつ座れて、互いが向かい合わせになるようなシートに陣取ったなら、


「じゃ、やるか」

「なにを?」

「トランプに決まってんだろ馬鹿たれがぁ!?」

「大陸イチ馬鹿だと言われたくないやつに言われたけど!?」


 大真面目な顔でトランプカードを取り出すダイヤである。


「旅行だろ? 電車だろ? 人数いるだろ? ……トランプだろ?」


 だろ? じゃないだろ!?

 ハンバーガー食わせろ早起きしてまだ何も食べてないんだからとか、完全に旅行気分でこれから任務だっていう緊張感が全然ないねとか、さまざまなツッコみがハルの脳内をよぎった。

 しかし隣に腰掛けたウィルは、悠々と紙コップでコーヒーを嗜みながら新聞を読んでいて、ダイヤの遊戯を咎めるつもりは毛頭なさそうだ。


「なににすっか? この面子でトランプは初めてだし、やっぱ王道のババ抜きか? へへ、おっちゃんもやるよな?」

「……いや」


 ウィルは新聞に目線を落としたまま。


「子どもたちで楽しみたまえ。七並べならまだしも、心理戦を主とする遊戯には私は混ざれないんだ」

「そうなのか? はっはあ、さてはおっちゃんゲーム苦手な人?」

「逆だ。むしろ負けるほうが難しい。『水』の流れで人の心理が読めると言っただろう? 生まれてこの方、家族以外の相手にボードゲームおよびテーブルゲームで負けを喫したことはほとんど無い」


 ウィルの返事に少年隊一同は思った──楽しくない人生を謳歌するおっさんだなあ、と。



 かくしてババ抜きに四人で興じてみれば、言い出しっぺのダイヤが真っ先に手札をゼロにする。


「よっしゃ、あがりぃ!」


 心理戦が絡むのは終盤であって、最後の二人になるまでは大概ババ抜きとは運ゲーである。

 そして少し経てば、


「あ。揃った」


 さほど感動しない声を上げ、マッキーナが同じ数字のカードを膝上に落とす。

 残されたのはハルとムンク。

 ハルが残り一枚となったところで、ムンクの手元にあるであろう、二分の一のあがり札を選択しなければならない。



 ──果たして。

 道化師(ジョーカー)を最後までその手に残してしまうのは、いったいどちらか。



 ウィルも新聞の先を透視するように、事の成り行きを見守っている中。ハルはぎぎぎと奇声を漏らしつつ、ゆっくりと自分から向かって左側のカードを抜き取った。

 それは、遊戯のみでの定めなのか。あるいは、今から起こるであろう困難の道のりを暗示していたのだろうか……。

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