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7.魔導列車とレオポルド

 床に手を伸ばしたレオポルドがナナを抱きあげると、バルコニーのほうから「カアァ!」とカラスの鳴き声が聞こえる。


『ルルゥ⁉』


 黒くつややかな羽をひろげて鳴くオドゥの使い魔をみて、レオポルドがバルコニーに面した窓を開けてやると、ルルゥは部屋にはいってくるなりナナにカァカァとわめいた。


『あんたどこに行こうとしてんのよ、また変なこといってレオポルド様を困らせてたんでしょ』


『そんなことないよ、探検だよ探検。それに運転席っておもしろいんだよ、レオポルドにもみせたいもの』


『それが変だっていってんのよ。レオポルド様はねぇビロードの生地に包まれた宝石のように、ゆったりと貴賓室に座られているほうがお似合いになるのよ!』


『それはみためだけでしょ?レオポルドはルルゥの好きなキラキラ宝石じゃないんだから。ちゃんと動くもん!』


『んまっ、あんたホント生意気!』


 レオポルドの腕に抱かれたまま、一匹と一羽はニャゴニャゴカァカァ……と言い争いをはじめた。


「……いくぞ」


 顔をしかめたレオポルドがひと声発すると、さしのべた腕にルルゥが舞い降りる。白猫を抱いたレオポルドは、肩に黒いカラスをとまらせて車両をでた。


 シャングリラを発車したばかりでまだざわざわとしていた車内が、レオポルドが一歩一歩進むにつれて静まりかえっていく。乗客たちの視線を集める魔術師団長の肩には、一羽の大きなカラスがとまり、あれは魔術師団長の使い魔ではないか、とひとびとはささやきあった。


 つややかな黒い羽根といいあちこちに視線を走らせる黒い瞳といい、どう見てもルルゥのほうが使い魔っぽい。彼の使い魔が腕に抱く白猫のほうであることに、気づく者はあまりいない。ひとびとの視線に気をよくしたルルゥにむかって、白猫はブツブツと文句をいった。


『なんでルルゥはここにいるのよぅ?オドゥに見送りでも頼まれたの?』


『〝銀の魔術師〟の肩にとまるアタシってイケてるわよねぇ。見送りなんかじゃないわよ、お目付け役……つまり監視。ふたりだけじゃ心配だってオドゥがいうんだもの』


『ええー』


 ナナは不満そうだがルルゥのほうはカァカァ……と鳴いたあとは、乗客たちの視線を意識してクチバシを閉じたためそれ以上会話は続かなかった。


 多少の揺れはあるものの、魔導列車の通路を歩くのにはそれほど支障はない。レオポルドが乗客たちの視線を一身に浴びたまま先頭の客車を抜けると、魔導機関を動かしている技師のひとりがふりむいて目をみひらいた。


「これは……アルバーン魔術師団長!このような場所にどういったご用件で?」


 レオポルドはナナにアドバイスされた通り、その技師にむかって礼をいった。


「この列車に乗車させてもらった礼をいいにきた。感謝する」


 とたんに技師は顔をほころばせると、きさくなようすで魔導機関車へと手招きした。


「そうでしたか、ではぜひ中もご覧ください」


「いや、仕事の邪魔をするのは……」


 魔導列車の駆動系をつかさどる機関車の内部に足をふみいれることに、レオポルドは困惑したが技師は誇らしげに胸をはった。


「あなたのお父上が創られた魔導列車に、あなた様をご案内できるのは私どもにとっても光栄です。さあどうぞ!」


「…………」


 レオポルドは反射的に断ろうとしたが、腕に抱いたナナがうれしそうな声をあげた。


『すごいよレオポルド、なかをみせてもらえるって。うわぁ、わたしレオポルドと一緒にきてよかったぁ!』


 レオポルドはあきらめた。もともと魔導列車の中をみたがったのはナナで、自分はそれについてきたにすぎない。


 ナナに魔導機関車の内部をみせるだけだ……そう自分にいい聞かせて技師に返事をする。


「猫が一緒でもかまわないだろうか?」


「もちろんですとも。やぁ、かわいこちゃん……肩のカラスも美人さんだ!」


 ルルゥは暗い魔導機関車のなかにはいるのはイヤだったが、そのひとことで機嫌をなおした。


『あら……みる目がある技師さんねぇ』


 そうしてレオポルドは生まれてはじめて、エクグラシア全土を走る魔導列車の先頭にあって駆動系をつかさどる魔導機関車の内部に足をふみいれた。





 線路を走る車輪の音、ひとびとのざわめき、カーブにさしかかるたびにきしむ車体……そういった音を耳にしながらやってきただけに、魔導機関車の内部が静けさに満ちているのは意外だった。


 運転席のほかに作業台や仮眠ベッドもある車内はひろく、自分たちを案内した技師のほかに三人が働いている。


「作業しながら聞いてくれ。グレン老のご子息、アルバーン魔術師団長がいらっしゃった!」


「なんだって⁉」


「あのグレン・ディアレスの息子さんだと!」


「ほんとうに?」


 呼びかけた技師の大声に全員がふりむいて、ささやきを交わすとそのうちのひとりが笑顔で進みでる。


「乗車されるという話はうかがっていたが。これは光栄だ、よろしくお願いしますアルバーン魔術師団長」


「きょうは乗せてもらって感謝している」


 レオポルドがもういちど礼をいうと、技師はニカッといい笑顔をみせた。


「いいえ、こちらこそ・きょうは私どものグレン老への感謝を、ようやくご子息に伝えることができます」


「グレンに……感謝?」


「そうです。人や物の輸送が大きく進歩したことで、貧しかった辺境にも物資がいき渡るようになった。王都はそうでもないかもしれませんが、三十年前といまでは辺境の暮らしは大きく変わりました」


 いくつかの操作を終えると手が空いたのだろう、もうひとり近寄ってきてレオポルドに握手を求める。


「おお……。本当だ、グレン老とおなじ銀髪だ。あなたを乗せて走れる日がくるなんて光栄です!」


 技師たちはレオポルドに駆動系の機構をみせながら、まるでグレンその人に話すかのように熱く語った。


 効率よく引かれた魔導回路は、魔石の力を無駄なく動力として利用している。魔石自体は高価だが、大勢の人や物を輸送することで採算がとれるように設計されている。


 動力源に魔石をつかっているため操作方法を覚えれば、魔力持ちでなくとも魔導列車を動かすことができる、それは魔力を持たない自分たちには、可能性をひろげてくれる夢の乗りものにみえたと。


「こどものころは王都からの魔導列車が鉄橋を渡るのをながめ、いつかあれを動かす仕事につきたいと思っていました。夢を叶えたのはようやく五年前です」


 五年前ならレオポルドが魔術師団長となったころとたいして変わらない。


 いちばん年若い技師が目を輝かせて語り最後に交代すると、ずっと運転席に座っていた年配の技師がレオポルドの前にやってきた。


「こうして私がこの仕事にたずさわる最後の年に、ご子息を乗せることができたのも、なにかの巡りあわせかもしれませんな。グレン老は魔導列車の設計だけでなく、エクグラシア全土を回って線路の建設計画を建てたのです」


「エクグラシア全土を……?」


「そうです。どの山にトンネルを掘るか、川のどこに鉄橋を建設するか……風を詠み地盤を調べ、念入りに計画を建てておられた。私はまだ見習いの時分にいっしょに作業させていただきました」


 老技師は何本もの赤い線が書きこまれている、古い色あせた地図をとりだした。


「魔導列車の開発にとりかかる前に、グレン老はすでに路線図をひいておられました。あのかたには明確な目標があられた……でなければあれほどの結果はのこせません。まだこの地上に何もないとき、グレン老の頭のなかではすでに魔導列車は走りだしていたのです」


「あとでその話をくわしく聞かせてほしい」


 レオポルドの頼みに老技師はおだやかにうなずく。


「かしこまりました。次の停車駅ルルスでしばらく休憩いたします。そのときでよろしいですか?」

ちょっとづつこちらも進みます。

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