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5.メイナード・バルマ副団長の近頃の楽しみ

よろしくお願いします!

 厳しいレオポルドのもとで仕事をするのはさぞ大変だろう、と王城医師団のララロア医師からは心配されるが、魔術師団で働くメイナード・バルマ副団長にはとっておきのストレス解消法がある。


 団長補佐のマリス女史と師団長がいないとき、『本日のレオポルド』について話すのだ。


「きょうさぁ、師団長室に戻ってきたときナナの姿がみえなかったの。そしたら師団長の瞳が曇ってさぁ……そのとき本棚のうえで休んでいたナナが、師団長の背中にジャンプして飛びついたもんだから、師団長ってばしばらく固まって動けなかったんだよね。あれ絶対、気落ちしたところに飛びつかれて、うれしさ倍増したんだと思うよ!」


 メイナードが目撃した『本日のレオポルド』について得意げに披露すると、いつもは「くぅ、その場にいなかったのが悔やまれます!」と悔しがるマリス女史が、きょうは余裕の表情だ。


「ふふふん、きょうの私はすごいネタを持っているのですよ!」


「えっ、何?」


「ふふふ……でもこれは……あぁっ!話すのがもったいない!」


 いつも完璧なクールビューティーのマリス女史が、みもだえして声を震わせる。気になる、めっちゃ気になる!


「えええ、教えてよ。こないだ遠征先で師団長が表情ひとつ変えずに、ナナと猫じゃらしで遊んだの教えたでしょ」


 そう、あれはすごかった。休憩中に彼の使い魔であるナナが、道端でユラユラと風に揺れる草をみつけた。


 そのまま飛びだそうとするナナを、レオポルドはがっしり捕まえるともがく白猫を押さえつけてその草を摘みとった。


 その姿は朝靄のなか湖のほとりでスターリャの花を摘むという、伝説の水の精霊のように麗しい。


 あいにくレオポルド本人は花とたわむれるような風情のある男ではない。


 彼はふたたび座ってほおづえをつくと摘んだ草をユラユラと揺らし、ナナがそれにじゃれつく様子を無心にながめだしたではないか!


 そのありえない光景に自称『レオポルド様親衛隊』の美魔女たちは凍りついた。なにしろ休憩時間が終わるまでレオポルドはずっとそうしていて、だれも彼に話しかけることができなかった。


「ん~まぁ、しょうがないですねぇ……」


 マリス女史はもったいぶってため息をつくが、話したくてすでに口がむにむにしてしまう。


 内勤のマリス女史にくらべれば、遠征にも同行するメイナードのほうが貴重なシーンを目撃する確率は高い。今後の情報提供にも期待して、マリス女史は話しだした。


「じつはですね、このまえ師団長に『三つ編みのやりかたを教えて欲しい』と頼まれたんですよ」


「三つ編み?」


 髪の毛を手にとり指ですいて三本の束にわけ、右の束と左の束を交互に真ん中の束に重ねていくのが三つ編みだ。


 重ねると真ん中の束は左右に移動するので、続けていれば三つ編みができる。メイナードも娘がいるので、三つ編みのやりかたはわかるのだが。


 レオポルドが三つ編み?


 精霊のように美しい……とさえいわれるレオポルドは、ああみえて自分の服装にはかなり大雑把で無頓着だ。


 服は清潔で暑さ寒さをしのげればそれでよく、クローゼットにならぶ服をみて悩むこともない。


 わりとめんどくさがりのレオポルドは、よけいなことは考えない。自分の服装などどうでもいいのだろう。


 手を伸ばして自分の手がふれたものが問題なければそれを着る。チェストに入っている服は、何も考えず一番上に置いてあるものを着る。


 レオポルドがちゃんとしてみえるのは、公爵家がそろえる服がちゃんとしているからだ。それにたぶんボロ切れをまとっても彼は美しい。


 むしろあれだけ美麗な姿形だと、彼が何を着ようとみな顔しかみない。


 それでもたまにレオポルドが出席する夜会では公爵家のスタッフも気合をいれて、服の細かい刺繍や髪にさりげなくほどこす編みこみまで、本人に嫌がられない程度に手がつくされる。


 ふだん師団長を見慣れているメイナードですら、その綺羅綺羅しい姿に「すごいな」と思うのだが。


 そんなレオポルドが自ら三つ編みを……マリス女史にやりかたを聞くぐらいだし、いままでしたことはないだろう。


「師団長が三つ編みをするの?」


「ええ、簡単ですからその場で教えたんです。師団長が真面目な顔で自分の髪を編んでたらナナが近寄ってきて、毛先にじゃれつきはじめて……ああっ、そのときみた師団長の顔といったら!」


 うなずいたマリス女史がそのときのことを思いだし、ほほを紅潮させるとメイナードはたまらず口をはさんだ。最後まできかなくても情景が目に浮かぶ。


「わかっている、無表情だったんだろう!」


「そうなんです!無表情のままときどきわざと毛先を揺らしたりして、じっとナナの様子を見守るんです。表情はぜんぜん変わらないのに、黄昏色の瞳が不思議な色にゆらめいて!」


「うわ、なにその情景……たまんないよ!」


 こんな話はほかでできない。できないからこそ面白い。


 厳しいレオポルドのもとで仕事をするのはさぞ大変だろう、と王城医師団のララロア医師からは心配されるが、メイナード・バルマ副団長とマリス女史は、白猫のナナが塔にやってきてからというもの、毎日のレオポルド観察が楽しくてしかたなかった。

ありがとうございました!

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