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4.ナナと黒猫シスターズ

よろしくお願いします!

 きょうのレオポルドは忙しいらしい。


 エクグラシアの王都シャングリラに本拠地を置く魔術師団を構成する魔術師たちは、総勢三十人ほどだが、主要都市や国境地帯に派遣されるものもいるため、ふだん『塔』に詰めているのは十五〜二十名ほどだ。


 全国各地からの報告書と、『塔』の魔術師達から上がってきた書類の決裁が重なり、レオポルドは朝からひたすら書類仕事だ。


 すべてに目を通して内容をまとめたら、王城のほうにも提出しなければならない。


 いつもはおとなしくレオポルドの膝の上で丸まっているナナも、さすがに退屈したのかレオポルドの膝からするりと飛び降りると、「お散歩いってくる!」と師団長室を飛びだしていった。


 レオポルドは返事をしなかったが、手に持った書類を見つめたまま、眉間にシワを寄せて小さくため息をついた。


「師団長……寂しいでしょうけど、もうすぐお昼ですからナナはすぐに戻ってきますよ」


 見かねたマリス女史が声をかけても、レオポルドの表情は変わらない。


「……サルカスからの報告はどうなっている」


 ふいっ。顔をそらしたレオポルドを見て、マリス女史と副団長のメイナード・バルマはコソコソと書類のかげで話しあった。


(照れてます……やっぱり寂しかったんですね!)


(近くで見ていると、ホントあの人おもしろいよね)


 鉄壁の無表情なのに、自分の使い魔の白猫ナナに関しては、ウチの師団長は感情が豊かになるようだ。


 それも表情はまったく変わらないのに、ふとしたしぐさや目線の動きで感情がダダ漏れになるのだから、おもしろい。


 ナナに何か食べさせている時の目元は、これがあの鬼の師団長と同じ人物かと思うほど柔らかいし、眠るナナをそっと抱き上げる手つきは、信じられないほど丁寧で優しい。


 表情はまったく変わらないのに!


 お前、どんだけその猫大切なんだよ!


 そう言いたいが、言えば殺されそうなので言わない。


 レオポルドが師団長になってからずっと、その下で副団長をつとめてきたメイナードには、その辺がよく分かっていた。






 ナナが塔の周りをトコトコと歩いていると、声が聞こえてきた。


「ほら、あの白い毛のみすぼらしいこと!どうやって脱色したのかしら」


「ねぇ、毛染めを買ってあげたら?」


「まぁ染めたとしても、アタクシみたいなつややかな毛並みにはならないでしょうけど!」


 ナナがお散歩していると、いつも絡んでくる黒猫たちだ。


 魔力も食うし、『エンツ』の呪文や便利な魔道具もたくさんある現代では、『使い魔』を持つ魔術師はほんの少しだ。それでも『塔』には魔術師が集っているだけあって、『使い魔』をもつものが何人かいた。


 黒猫のメル、リル、ノルは、『塔』に住み着いている、ナナにとっては先輩格の『使い魔』だ。ナナは挨拶することにした。


「おねーさんたち、こんにちわ」


「あらやだ、話しかけてきたわ」


「口きかないほうがいいわよ、『役立たず』がうつるわ」


「ホントに、なんであんなのがレオポルド様の『使い魔』なの?」


 はたから見たら白猫が一匹と黒猫が三匹、ひなたぼっこしながらミャーミャー言っているようにしか見えないが、黒猫たちは不満たらたらだった。


「『使い魔』ってのはねぇ、ご主人様のお役に立ってこその『使い魔』なのよ」


「あんた、魔法も使えないし、毎日食べて寝ているだけじゃない……しかもレオポルド様の膝の上で!」


「おまけに、レオポルド様のお食事を分けてもらって一緒に食べているんですって⁉きぃ……うらやまし……くなんかないんだからね!」







 白猫はその場に座ると、小首をかしげた。


「おねーさんたちは魔法使えるの?」


 はたから見たら白猫が一匹と黒猫が三匹、ひなたぼっこしながらミャーミャー言っているようにしか見えないが、黒猫たちは白猫を思いっきり馬鹿にした。


「聞いた?『魔法使えるの?』ですって!」


「魔法が使えないなんて『使い魔』じゃないわよ!ウケる~!それ、ただの『飼い猫』だわ!」


「ほんと、毛も白いし、『使い魔』とはとてもいえないわよね。ねぇ、メル見せてやったら?」


 メルが得意気に尻尾を揺らすと、鬼火のような小さな炎がポッとあらわれた。それを見て白猫は目を丸くした!


「火だ!」


「アタクシ、炎魔法が得意なのよ」


 リルがその小さな舌を突きだして、自分の手で顔を撫でると、雫が白猫の顔に降りかかる。顔が濡れあわてた白猫は、目をパチパチさせた。


「なんか顔にかかった!」


「ふふん、アタクシ水魔法でちょっとした雨ならよべるのよ」


 ほんの一瞬、しかも猫の額ほどの面積に降る、ちょっとした雨だけだが。


 メルとリルが新入りの白猫をじゅうぶん驚かせたので、ノルはとっておきの魔法を使うことにした。


 ノルがひげを震わせると、白猫の周囲に小さな火花が散った。バチッと音がして白い毛が逆立ち、白猫はびっくりした。


「ふわっ⁉今のなに?」


「アタクシは風魔法……小さいけど雷が作れるの。ふふ……こわがらせたかしらね」


 そう言ってノルが自慢気に白猫をみやると、白猫は黄緑の瞳をキラキラと輝かせて、ミャアと鳴いた。


「すごいーおねーさんたち、猫又みたい!」


 傍から見たら白猫が一匹と黒猫が三匹、ひなたぼっこしながらミャーミャー言っているようにしか見えないが、黒猫たちは白猫の言ったことが分からなかった。


「ねこま……?」


「何いったか分かる?」


「分かんないけど……あんまほめられてる気はしないわね」






 黒猫たちがニャゴニャゴ会話していると、そこへ魔術師団長の『エンツ』が飛んできた。


『ナナ、昼食だ……戻ってこい』


「あ、レオポルドが呼んでる。じゃあおねーさんたち、バイバイ」


 白猫はすっと立ち上がると、見事な転移魔法陣をさっと展開し、それをまばゆく光らせて一瞬で姿を消した。


 とっさのできごとだったので、黒猫達は何も反応できなかった。


「は?」


「……えっ、転移?あの子、『転移魔法』使えるの?」


「嘘でしょ⁉ただの『使い魔』のくせに、『転移魔法』ですって⁉」


 あとに残された黒猫たちは落ちつきなく、ギニャーギニャーと騒がしかった。

ありがとうございました!

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