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3.サリナとオドゥと猫

よろしくお願いします!

 シャングリラ王都十番街の貴族街に、現国王アーネストの従弟でもあるアルバーン公爵の邸宅がある。


 その日、公爵令嬢のサリナ・アルバーンは前日の夜会の疲れもあって、のんびりとした目覚めだった。お茶を持ってきたリサが、まだぼんやりとしているサリナに笑顔で教えてくれる。


「サリナ様、今日はいい知らせがございますよ」


「あらなぁに?」


「レオポルド様がお戻りです」


 レオポルドはアルバーン公爵の甥ということもあり、公爵邸に自分の部屋を持っていたが、ナナという白猫を拾って以来、彼は魔術師団の師団長室で寝泊まりするようになった。


 ナナは師団長室の方を『住処』と認識しているらしく、アルバーン公爵邸に連れてきても、いつの間にかひとりで帰ってしまうのだ。久しぶりの従兄の帰宅に、サリナはあわてた。


「なんですって!もう……早く支度するわ!ねぇ、この間買ったばかりのレモンイエローのワンピースなんかどうかしら?」


「おいそぎにならなくとも大丈夫ですよ……レオポルド様はオドゥ・イグネル様と一緒に厨房におこもりです」


 サリナはそれを聞いて、悲鳴をあげたくなった。オドゥは王都錬金術師団の錬金術師のひとりだ。カラスのルルゥの主でもある。


「オドゥまできているの⁉わたしったら!こんな時に寝坊するなんて!」


 リサはあわてるサリナを、穏やかにたしなめる。


「サリナ様……淑女はそんなにバタバタするものではありませんよ」


「そうだったわね……ところでレオ兄様たちは、なぜ厨房にいらっしゃるの?」


 サリナはため息をついたあと、不思議そうに小首をかしげた。





「生地がボソボソしているな……水か何かいれなくて大丈夫か?」


「大丈夫、手の温度でバターがじんわり溶けるから、いい具合にまとまるよ」


「そうか」


「生地がある程度まとまったらさぁ、いったん冷やすんだよ」


「氷魔法で冷やせばいいだろう」


「いいけど……凍らせないようにしてよね。レオポルドはせっかちだなぁ」


 なんだかいろいろと、目に信じられない光景だ。背の高いレオポルドと、それよりも少し低いオドゥ・イグネルがふたりそろってエプロンをつけ腕まくりをして、調理台に向かっている。


「レオ兄様!オドゥ!」


「サリナか……」


「やぁサリナ、お邪魔してるよ~」


 サリナも小さいころはよく厨房にでいりしていたが、大人になってからはきたことがない。足元に置かれた籠に気をつけながら慎重にふたりのそばにいくと、1匹の白猫がふたりの足元にいた。


「おふたりとも、厨房で何をしてらっしゃるの?」


 焦げ茶の髪に眼鏡をかけた深緑の瞳の持ち主、オドゥ・イグネルが人のよさそうな笑みを浮かべ、教えてくれる。


「ナナのためのおやつ作りさ。旅の途中で食べられるように、いろいろとね…… 今作っているのは、アイスボックスクッキーだよ」


 どうやらレオポルドは、ナナのおやつ作りのために王城の厨房を借りるわけにもいかず、アルバーン公爵邸の厨房を使うためわざわざ戻ってきたらしい。


「レシピだけよこせばいい……と言ったんだが」


「僕もルルゥのおやつを作るついでがあるからさぁ……それに、飽きないようにいろいろな種類を作ってあげたほうがいいんだよ……アイスボックスクッキーだって、渦巻きにしたり模様を変えるだけでも喜ぶよ?」


 サリナがふたりの手元を見ると、ココアを練りこんだ茶色の生地と、プレーンな生地の二種類を組み合わせて、いろいろな模様を作っているところのようだ。


「レオ兄様が作ったクッキーなんて……ナナがうらやましいわ」


 美形の魔術師団長のお手製クッキーなど、王都の女性たちにプレミアつきで売れそうだ。


「魔力を練りこんだクッキーなぞ、人間にはまずいだけだぞ?」


「使い魔にはいろいろ手間がかかるんだよ。なにせもともとは森の奥で独り暮らしをしていた魔女の、ひまつぶしの相手だったんだからねぇ」


『手間かかる言うなー暇つぶし言うなー』


 ナナがミャーミャー言いながら、オドゥの脚に猫パンチを喰らわせた。





「じゃあしばらく生地を寝かせるあいだにグミを作ろうか。錬金術師団からペクチンとゼラチンに濃縮果汁を持ってきたからね、果糖はここにもあるでしょ?ナナも喜ぶよぉ、きっと」


「ぐみ……って何ですの?」


「ん~むにむにしてて不思議食感?錬金術師団長直伝なんだよねぇ。なにサリナ、作って欲しいの?」


 サリナが気になってたずねると、オドゥは眼鏡のブリッジに指をかけて深緑の瞳を優しく細めた。


「それはもちろん……気になりますわ」


「でもこれはナナ用だからなぁ」


 レオポルドがレシピの書かれたノートをみながらあごに手を当てている。


「けっこう糖をいれるのだな」


「ハッキリした味じゃないと、グミにしたとき味がボヤけちゃうんだよ」


『グミおいしいよねー表面はツルッとしているのも食べやすいしクエン酸をまぶせば酸味、キシリトールをまぶせば涼感が味わえるよ』


 ふいに聞こえた言葉に、レオポルドは顔をあげた。


「……ナナ?」


『んー?』


「みゃお」


 黄緑の瞳でレオポルドをみあげた白猫がかわいらしく鳴くと、オドゥが眼鏡のブリッジに指をかける。


「レオポルド、ナナが何か言ったの?」


「いや……何でもない」


 それにしてもオドゥは手馴れている。厨房の女性たちはみな瞳を輝かせてふたりを見守っている。サリナはなんだか面白くない。


 オドゥ・イグネルは貴族ではないけれど、王都でも数少ない錬金術師のひとりでレオポルドとも友人だ。特徴がない平凡な顔立ちの男だが、手が届きやすい存在だけに人気がある。


「オドゥってお菓子作りが趣味ですの?」


「まさかぁ、ルルゥのオヤツを作るぐらいだよ」


「四番街の食堂でまかないのバイトをしていたのは知っていたが……これも習ったのか?」


「お菓子作りは女の子たちに教えてもらったよ。プレゼントのお返しとかって、ちょっとした焼き菓子が好感度高いし。それにうちの師団長の口ぐせが『料理は化学だよね』で、いろいろ面白いお菓子も教えてくれたしね、そういうのなんか女の子がびっくりして、『錬金術師って素敵ね』とかいってくれちゃうしー」


 しれっとそんなことをいうオドゥは、どこまでもひどいヤツで女の敵だ。


『こらー悪用するなー』


 ナナがミャーミャー言いながら、オドゥの脚に猫パンチを喰らわせた。





 夜になって師団長室にもどったレオポルドが、寝るしたくをする横でナナは眠そうにあくびをした。


『レオポルドとサリナ、仲いいねー』


「従妹だからな……妬いたか?」


 またたきをしたナナの目は夜なので黒目がちだ。


『レオポルドが幸せならそれでいい。わたし〝使い魔〟だもん』


「……そうか」


 ヒゲがぴくぴくと動き、ナナの目が糸のように細められる。白くて長いしっぽがユラユラと揺れた。


『サリナは優しいから好きーオドゥは嫌いーメガネやだー』


「そうか……オドゥは嫌いか」


 ゴロゴロしながらニャゴニャゴとオドゥをけなすナナに、レオポルドはくすりと笑う。


『レオポルドはー好きな人いないの?』


「私にはお前がいる」


 ギュッと柔らかく抱きしめた小さな白い体は温かい。レオポルドの指が優しく耳と耳のあいだにある狭い額を撫でるので、ナナはへにょへにょになりそうだった。


『そうじゃなくてちゃんと人間の……』


「ならお前が人間になればいい」


『ムリいわないでよぉ、わたし猫なんだからね。おっきくなったらホワイトタイガーになるの!』


「……そうだな」


 レオポルドがかすかに笑って目をとじると、銀の長いまつ毛は思いのほか密度が濃い。まつ毛の本数を数えはじめたナナは、すぐに飽きてしまった。


『いぃちぃにぃい……えいっ』


 ちょむ。


『えいえいっ』


 ちょむちょむ。


「何をしている」


 どうやらレオポルドの髪にじゃれついているらしい。


『レオポルドの髪ーあのね、こんど三つ編みして?』


「三つ編み?」


『そう三つ編み、そいで毛先にじゃれつきたいー』


「……またこんどな」


『こんどね!絶対ね!三つ編みね!』


「……ああ」


『じゃ、指切りげんまんー』


「なんだそれは?」


 レオポルドが聞きかえすと、ナナは自分の小さな手をじっとみて首をかしげた。


『あれぇ?指……無理っぽい。んー……それじゃ、肉球げんまん!小指だして!』


 よくわからない。よくわからないがレオポルドは、白猫の肉球と自分の小指をあわせた。ちょむ。


『わーい約束ー三つ編みー』


 満足してゴロゴロと鳴く白猫をだいて、レオポルドはようやく眠ることができた。

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