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10.ルルスの魔道具屋

 ナナはニャゴニャゴとレオポルドに話しかける。


『魔石鉱床にいくの?』


「まずは宿を決めてからだ。それに〝雷の魔石キャンディ〟は夜に食べるものらしいからな」


『おおー〝雷の魔石キャンディ〟、それも楽しみ!』


 二百年前に魔石鉱床が発見され、採掘のために後から造られたルルスの町に領主はいない。


 まずは採掘事務所にいき明日の見学を申しこむと、王都で働いたこともあるという文官出身の事務所長が宿も紹介してくれた。


「宿は魔石の買いつけ業者が使うところがおすすめです。鉱夫が使う日払いの宿は、気の荒いやつもいますし」


 事務所には鉱夫の求人にやってくる人間のほうが多いから、旅装とはいえ上質な魔法陣の刺繍がほどこされた、黒いローブを着たレオポルドはあきらかに浮いている。


「この町には竜騎士も魔術師も駐屯していないのか」


「〝魔力持ち〟は嫌う土地ですからね。ルルス近くにでる魔獣は王都からときどき第三部隊がやってきて、討伐してくれるのでわりと安全なんですよ。魔導列車も走行の邪魔になる魔獣を、容赦なくかたづけてくれますし」


 砂漠の町では水や食料は貴重だ。ドラゴン一体を養うだけの余裕はないらしい。


 それに知能の高い魔獣は魔導列車の走行区間には近寄らないのだという。


「あとは魔石を利用した武器を手作りして自衛してます。町の魔道具屋で売られていますよ。自警団も組織されて秩序は保たれています」


「魔石を利用した武器か」


 武器に効果を付加するための素材として、属性を帯びた魔石を使うことはよくある。錬金術師や王城の魔道具師が手がけるものだ。


 だがそれらは複雑な工程をへて効果をつけるもので、作るにも高い魔力が必要になる。


 町の魔道具屋で売られている、という武器にレオポルドは興味を持った。


 駅前の通りにあるルルスの魔道具屋はそこそこの品ぞろえだった。


 魔石の町ルルスでは、エクグラシア国内でも一番安く魔石が手にはいる。


 王都で作られた最新式の〝朝ごはん製造機〟や、〝たこパプレートつき特製グリドル〟も売られている。


 ひしめきあう生活用魔道具の奥にガラスケースになったカウンターがあった。


 砂漠の魔獣には毒を持つものも多いから、距離をとって戦うのが鉄則だ。


 武器として売られている魔道具もボウガンや魔銃といった飛び道具ばかりだ。


 魔力がない者でも扱えるように、矢じりや弾丸にそのまま魔石を使っている。


「クズ魔石ならそこらにいくらでも転がってますからね、魔石をぶつけて衝撃を魔獣にくらわせるんです」


 そこにならべられた魔道具に、レオポルドは真剣にみいった。


 魔石を高速度でぶつけて崩壊させると、魔素が一気に衝撃となって魔獣を襲う仕組みだ。


 かなり原始的だが魔石と組みあわせれば、そこそこの殺傷能力がある。魔力がなくとも扱えるという武器の性能をたしかめたくなった。


「試し撃ちはできるのか?」


「あ、はい。店の裏でもできますし、自警団の訓練場もいえば使わせてもらえるかも。けどお客さん……どうみても魔術師なのに、魔石の武器なんて要ります?」


「興味がある」


 ガラスケースから視線を動かさないレオポルドに抱かれて、ナナも黄緑の目をくりりとさせると、ニャゴニャゴとのどを鳴らした。


『おおっ、割りばし鉄砲みたいなのもある、ねぇあれ、パチンコも飾ってあるよ!』


 ナナの言葉に顔をあげれば、店員のうしろにある壁にはシンプルなパチンコが飾られている。


「あれは……?」


「これですか?ここにある武器の原点……というか、なんとうちのオヤジが魔導列車の開発者、グレン老から譲り受けただいじな品です。もともと魔導列車の技師をしていたオヤジは、グレン老から手ほどきを受けて魔道具づくりを覚えて。魔石が豊富なルルスに住みついたんです」


「グレン、の……」


 黄昏色の目をみひらいたレオポルドに、店員は得意気に語って聞かせる。


「グレン老は『魔獣に襲われたらとにかく魔石を投げつけろ』って、魔石の組みあわせもオヤジに教えたんです」


 火の魔石を使って弾に推進力をつける。雷の魔石を使えば魔獣をしびれさせたりする。


 爆発的な力を生みだすには、火と水の魔石を組みあわせればいい……グレンに教わったことを忠実に、自分なりの工夫もくわえて先代はコツコツと武器の改良を重ねたという。


「それをくわしく聞かせてもらいたい」


 けれど店員は肩をすくめた。


「おっと、これ以上は秘密でね。仕組みがバレちゃ商売あがったりだ。何か買われますか?」


 ちょうどほかの客も店にやってきて、話はそこで終わりとなった。レオポルドはいちばんシンプルな形の、グレンが先代に譲ったというパチンコに近いものを買う。


 店員は魔石を細工したパチンコ玉もいくつかつけてくれた。


「店の裏で試し撃ちをするときは、ふつうの石っころにしてくださいよ。店を壊されたらかないませんから」


 店をでたレオポルドは裏に回ってパチンコをかまえた。ゴムの部分に石をはさみ、ぐっとひっぱって指をはなせばビュッと風を切る音がして、壁にしつらえた的にあたる。


 ナナが毛を逆立ててヒュッと身を縮こませた。


『ひゃあ、パチンコでも迫力あるぅ』


 レオポルドは魔石を細工した玉を、手のひらでコロコロと転がした。


 魔石をただの石つぶてのように使い、単独ではなく組みあわせで攻撃に変化を持たせる……技師だったという先代はそれほど魔力もなかったのだろう、ただ丁寧に簡単な魔導回路を刻んでいるだけだ。


 けれどこれがこの町の生命線、弾ひとつにも願いがこもっている。


「『魔術師は呪文や魔法陣で願いをかなえるが、魔道具師はその手で願いをかなえる』……か。風の魔石を使えば黒鉄サソリの外殻にも穴をあけられる。急所に火の魔石をあてれば砂漠の魔獣はひとたまりもないだろう」


『みためは魔石キャンディみたいだね!』


 レオポルドの手のひらにある玉をみつめて、ナナが舌なめずりしそうな声でつぶやいた。


 魔導列車を降りたときに魔石キャンディをかじっただけだから、腹がすいたのかもしれない。


「そうだな……訓練場もみたいがそろそろ腹も減っただろう、宿にいくか」


『わぁい、宿いく!』


 魔導列車のなかでは跳んだりはねたり、ルルゥと追いかけっこをしたりと忙しかったのに、宿へとむかう途中ナナはおとなしく抱かれていた。


 ルルゥはルルゥで彼が魔導列車を降りたのは知っているから、そのへんを飛んでいるのだろう。

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