水の国:王女就任
とある小さな町。闇の国が崩壊した後、街には時折魔物が現れるようになった。
町以外の草原でも、いつも以上に魔物が活動的になっていた。
「これで全部だな」
大剣を肩に担いだ青年は、共に戦っていた彼女に声をかける。剣を鞘に納め、薄い桃色の髪が揺れる。しかし彼女は振り返りもせず街へ戻っていく。
「おいおい…まだ依頼こなす気かよ!」
依頼。主に人々のお助けみたいなものだが、最近は魔物討伐依頼ばかりになってきている。二人はその依頼をこなし続けていた。
「そんな焦ってもいいことねぇぞー?ちょっとは休もうぜー」
そういいつつ彼女の後を追う。もちろん彼女は聞く耳を持たず。街に戻ると、人々は二人に目を向けた。二人はちょっとした有名人なのである。声をかけられることもしばしば。しかし彼女はそれすらも聞く耳を持たず、足を進めていく。
「わりぃな、あいつあんな感じで」
しかし彼女を悪く思う人は不思議と少なった。他人に無関心ではあるが、腕の実力は確かなのだ。
「そういえばルキ様、水の国の騎士への勧誘があったんですって?」
「あー…そーいやあったなー。」
青髪の青年、ルキは結んでいる前髪をくるくるといじりながら人々とお話をする。
「前までは光の国の騎士だったんでしょう?」
「おぉー、まぁ今は羽伸ばし期間ってことよ」
ルキは少し前まで光の国の騎士だった。今はどこにも所属していない。
「光の国の王女様、こんなイケメンで腕の立つ方を騎士から外したなんて…ほんと信じられんな」
「まぁまぁ…あんま悪く言わないでやってくれよ」
騎士を外れてからは薄い桃色の髪をした彼女とともに、依頼をこなす日々だ。
「双子の姉さんと逃避行中さ!っあだっ!?」
「何が逃避行だ、次行くぞ」
「ルアお前…グーで殴りやがったな!」
性格も髪色さえも異なる二人だが、正真正銘の双子だった。
「じゃあなみんな、元気でなー!」
ルキは殴られた頭を押さえながら人々に挨拶をし、ルアの後を追った。
「で?次はなんの依頼だよ」
「あ、僕です…」
「うお、いつから居たんだあんた!」
「騒がしいな、火の国まで護衛だ」
「よろしくお願いします」
ルアが持ってきたのは護衛依頼だった。魔物討伐ではない依頼は久々だ。
「おう、まかせろ!」
少年はきょろきょろしながら二人の後をついていく。途中現れる魔物に何度も目を見開いている限り、外の世界には慣れていなさそうだ。
「お二方は、最初にどの武器を手に取ったのですか?」
二人の腕は勿論だが、その理由としてほとんどの武器や魔法を扱うことができる。用途によって武器の使い分けをしている人は世界でも数少ないだろう。よく冒険者の駆け出しの者から同じ質問を受ける。
「俺はこの大剣だね!腕力には自信があったからな!」
「私は剣だな。扱いやすいしな」
武器にはそれぞれのメリットとデメリットがある。最初のうちは色々扱ってみる人が多い。最初から一本に絞ってずっと使う人はあまりいないが、二人の様に全ての武器を扱える人もそうそういない。
「得意不得意は個々による。色々試してみるといい」
「はい!」
少年は力強く返事をした。そんな会話をしている内に中間地点である水の国が見えてくる。水の加護を受けており、近くを流れる川は清らかで美しい。
「あー…騎士どんな奴になったんだろうな」
「気になるなら見てきたらどうだ?」
「そういえば今日ですね、王女様就任の日…」
少し前先代の水の国の王女様は亡くなった。なんでも、その原因が不明で急に倒れこんだらしい。水の国ではその先代の娘を新たな王女様として就任させるのであった。
「まだ若いんだろ?血筋だけで選ばれるなんていいんだか悪いんだか…」
「僕と同じ15歳らしいですよ。世間からは賛否両論みたいです」
「まじかよ…そいつはちょっと可哀そうだな…」
そんな話をしながら三人は水の国を前に足を止めた。
「あの…よろしければ就任式…覗きませんか?」
ルキはおそるおそる提案をする。少年は目を輝かせた。
「見てみたいです!」
二人は視線をルアに移した。
「…依頼主がそうおっしゃるなら。」
淡々とそう告げた瞬間、二人は浮足で水の国へと向かった。
「(焦っても仕方ない…か)」
王女様がいるであろう大きな城を見上げてルアはため息をついた。