06
そんな事を話していると先生が教室にやってきて、朝のホームルームが始まった。
「はーい席つきなさーい!」
みんな先生の言葉に従って席に着く。
そう言えば、八島は来たのだろうか?
俺はふと八島の席に目をやった、しかし席に八島の姿は無かった。
あいつどうしたんだ?
もしかして今日は休みか?
なんて事を俺が思っていると、教室のドアががらりと開いた。
「あら、八島さん。遅刻ギリギリよ」
「……すいません」
「まぁ、いいわ。次から気を付けてね」
「……はい」
八島はそう言って、自分の席に着いた。
どうやら寝坊したようだ。
まぁ、随分自堕落な生活をしてるみたいだし、不思議じゃないか……。
「えっと、今日は今から席決めとクラス委員長を決めたいと思います」
先生の言葉に、教室の生徒はざわつく。
席替えか……確かに今は出席番号順で俺の席は一番前だ。
出来れば窓際の一番後ろの席が良いのだが……。
「はい、ここに昨日先生が徹夜で作ってきたクジがあります! これを引いて出た番号の席に移って下さいね!」
そんな先生の話しを聞いたクラスの皆が、こんどは別な意味でざわつき始めた。
「きっと、彼氏に振られて暇なんだな」
「おい、あんまり言うな気の毒だ!」
「あの歳で彼氏無しって……もう売れ残り?」
おい、もうやめてやれよ……。
先生涙目になってんじゃん、聞こえてるから、割とハッキリ聞こえてるから!
先生がショックを受けている間に、席替えがスタートした。
「よし! 窓際!」
「いいなぁー交換してくれよ」
どんどん窓際の席は埋まっていくな……。
まぁ、でも窓際の一番後ろの席はまだ無事だからよしとしよう。
俺がそんな事を考えていると、次は強の番だった。
「よし、後ろの席来い!! ……あぁ!! 一番前かよ……」
「邪念が有るからよ、今度は私ね……イイ男の隣が良いわねぇ~」
俺たち以外の男子の間に寒気が走ったのは、言うまでも無い。
俺たちは慣れてしまったが、慣れて居ないやつは早乙女の隣は嫌だろうな……。
「あら、廊下側の一番後ろだわ~」
「何!? 交換してくれよ!」
「嫌よ、だって……隣がサッカー部の森山君だし……」
「え!? お、俺?」
「森山君……これから仲良くしましょうねぇ……ジュルリ」
「あ、あぁ……よ、よろしく……」
そう言いながら森山君は早乙女から距離を置いていた。
他の男子生徒はホッと一安心したようすだった。
そして、次は俺の番だ。
出来れば、後ろの席で隣人は普通の奴が良いのだが……。
「よし、これだ!」
俺はクジを一つ箱から取り出し、番号を確認する。
番号は28番。
俺は黒板の書かれた席の位置を確認する。
「おっしゃ! 窓際の一番後ろ!!」
「は!? お前も後ろかよ!!」
「あら、皆バラバラね」
「くそ! なんで早乙女と琉唯は後ろなんだよ! ズリーよ!」
「ま、日頃の行いだな」
やったぜ!
今日はついている!
おっと、そう言えば隣は誰だろうか?
もうクジも残り少ないし、俺の隣の席も埋まって居たはずだが……。
俺はそんな事を考えながら、黒板に書かれた俺の席の隣の席に書かれた名前を確認する。
「マジかよ……」
そこにはしっかりと『八島』と書かれていた。
アパートでも隣でまさか席も隣になるなんて……どんな偶然だよ……。
全員の席が決まり、席の移動が始まった。
「よっ」
「……」
俺は隣に座る八島に声を掛ける。
しかし、八島は無表情でこちらをちらりと見ただけだった。
「まさか、学校でも隣とはな……」
「ん……」
相変わらず無口だな……。
昨日は結構べらべら喋ってた癖に。
「そういえば、なんで今日遅刻したんだ?」
「……私、低血圧……朝苦手」
「そういうことか……飯は食ってきたのか?」
「そんな時間………無い」
「だろうな」
「うん……」
「昼は?」
「コンビニ弁当……」
またコンビニ弁当かよ……。
はぁ、そもそもこんな奴がなんで一人暮らしなんてしてんだ?
両親は一体何をやってんだか……。
全然一人暮らし出来てないぞ、こいつ。
「なぁ、お前友達とか居るの?」
「……居ない」
「……悪い」
「なんで?」
「いや、なんか……聞いちゃいけなかったかなって……」
「ん、別に……」
「そうか」
会話が続かないな……。
何を話したら良いかもよく分からないし……てか、なんで俺は八島に声なんか掛けたんだ?
「ま、部屋も席も隣なんだ、何か困ったら言えよ」
「うん……」
短くそう答える八島。
ま、八島も人気ある見たいだし、俺じゃなくても別な奴が助けてくれるだろ……。
席替えも終わり、委員会も決まった。
俺は美化委員に決まり、少しホッとしていた。
クラス委員長とか風紀委員なんかになったら色々と面倒だからだ。
ちなみにクラス委員長にはクラスの女子が、風紀委員長には早乙女がなった。
「意外だな、お前が風紀委員なんて」
「そう? 私は去年も風紀員だったわよ」
「お前が一番風紀を乱してそうだけどな」
「あら、失礼ね! 私はそんなことしないわよ!」
お昼休み、俺たちは早乙女の机に集まって昼食を食べていた。
クラスの中でも段々とグループが出来てきており、次第にクラスでの立ち位置なんかも分かってきた。