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断章 シーン1 テロルの土地にて

作者: がらんどう

 ーーーパン、パン! と、乾いた音が澄み渡った青空と、砂塵でくぐもった荒涼とした空間にこだました。

 しかし、拳銃を撃った当の本人には、狭く、仄暗い室内であったので、ガン、ガン! と聞こえ、直後、キィイイインと耳鳴りが彼の聴覚をしばしの間支配した。

 目の前には、たった今、射殺したばかりのアラブ人が目をむいて天井を仰ぎ、壁にもたれかかっている。脳天を貫いた弾丸は、彼の脳漿を壁にぶちまけ、それとともにゆっくりゆっくりと、血が壁と彼の衣服に染み渡り、血溜まりができようとしていた。

 これで、いよいよ自分も追われる身になってしまったと、少しばかりのため息と、これからどうやって、これから自身に及ぶであろう危機に対処しようかと、彼は思案した。

 元より、異邦人の自分には、この土地と、この民族と、この思想に溶け込むのが不可能だったのかもしれない。同じ目的のために、共同歩調を取っては見たものの、食い違いは続き、ついぞ、このような結末を迎えてしまった。

 この土地に銃声が響くのは、日常茶飯事なので、すぐには発見されないだろうが、連絡がつかなくなったことを不審に思ったアラブ人の仲間が、直に異変に気づき、目の前で不格好に息絶えた哀れなアラブ人の仲間が様子を見に来るだろう。そして、この風景を見れば、状況を瞬時に察し、自分を殺すだろう。何の疑いも、ためらいもなく。そのくらい、目に見えるくらいには、自身とアラブ人の関係は悪化していた。

 今回、秘密裏に行った個人的面談が、最後のチャンスだった。互いに、引くか、同調するか、それとも………闘争するかだ。

 結局、第三の道を選ばざるを得なかった。先に、銃を抜いたのはアラブ人だったが、自分も、最初から殺害するつもりでいた。故に、対処ができた。セーフティもない、旧東側から一山いくらで取引された名も無き拳銃は、同じく、名も無き銃弾とともに、アラブ人を始末した。殺人道具としての用は十二分に発揮した。

 自分もいつかは、この名も無き銃と弾丸と名も無き人に殺されるのだろうと思いながら、彼は拳銃とアラブ人の死体を交互に見やった。

 開け放たれた窓からは光が差し込み、部屋に巻き上がった砂塵がキラキラと、ゆらゆらと、彼らを照らしていた。

 行く宛はいくつか持っている。とりあえずは、一番近いところに当たろう。そこにも同じくアラブ人がおり、自分のような、日常に行き場をなくした東洋人も居るのだろう。どこへ行っても、大して変わりはない。死が自分に訪れるまでは、同じようなことがそこらで続いていくのだろう。

 そして彼は、部屋を出た。感慨もなく、半自動的に。

 


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