表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翼持つ者たちの唄  作者: はぐれイヌワシ
4/7

すれ違う想い


そんな日々が続くかと思っていた頃、ヤマドリを兄のように慕った士官がこう言い出しました。

「この連邦の外へ出て、修行をしたいのです」


姫様は、直ぐには許可を出せませんでした。

ヤマドリは、何故彼の望みを聞こうとしないのかを問い質しました。


「あの男が、修行先で、良い女を見つけてしまわぬかと、心配なのだよ」


姫様の其の発言が何を意味しているか、理解できぬほど愚かでもありませんでした。


「昔、船上での宴の最中に嵐に見舞われ、海に投げ出された事があってな。

浜辺に流れ着いた私を最初に見つけ、介抱したのがあの男だ」


その前に、貴女を浜辺まで運んだのは誰だと、どんなにか告げたかったでしょう。

しかしそれを口にしてしまった瞬間、ヤマドリの存在自体が無に帰するのです。


***


彼の修行の旅は、とても長いものでした。

時々便りを鴎の国に寄越しましたが、その手紙を見る度に、姫様は彼を恋しく思いました。


ヤマドリの気持ちには気づいていなかったのでしょうか?

いいえ。姫様も、そこまで鈍いお方ではございませんでした。


姫様は軍事をヤマドリに任せ、また城では大きな権限を与えました。

されど其れは有能な臣下に対する待遇で、ヤマドリを夫に迎えようとしていたわけでは御座いませんでした。


「もしこのままあいつが戻らぬなら、私はお前の妻になろう」

姫様はそう言って笑いましたが、ヤマドリにはそれだけでも十分でした。


***


幾年が過ぎたある朝。

『雷鳥の姿が、城から消えた』との報告がございました。


後には、ヤマドリに宛てられた一通の手紙。

「敬愛するヤマドリさんへ。

この城は、鳥籠に囚われた鴎しかおりません。

貴方はここの姫を愛していらっしゃるようですが、果たしてそれは命を賭けるほどの恋で御座いますか?

この国は、功ある将軍たちを使い捨ててきた国です。

貴方の無償の愛が裏切られる日が来るのが怖いのです―――俺の故郷へ至る地図を同封いたします」


地図には、雷鳥の故郷である高山の郷へと至る道筋が記されておりました。

ヤマドリは、その地図を火にくべました。

「悪いな、俺は彼女の魂こそが欲しいのだ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ