Episode.01 昔馴染みの喫茶店で
日曜日の昼下がり、俺こと羽々音憂は高校時代の友人同士と久しぶりに集まるため近くの喫茶店で待っていた。
高校時代によく集まっては日が暮れるまで仲間達と共に過した馴染みのあるカフェだが、高校を卒業し、大学に出てからは行き先が噛み合わず滅多に立ち寄ることが無くなっていた。
今日は、そんな卒業して初めてのあの頃の仲間達が揃うことになっていた。時々会うやつも、久しぶりのやつもいて、待ち合わせの時間が近づく度に心臓の鼓動が早くなっていく。
俺は変な緊張感を紛らわすためにスマホを弄っていた。それからしばらくして誰かが近づく足音がして、その足音は俺の近くで止まった。チラりと顔を上げると目の前に居たのは昔から知る見覚えのあるやつだった。
「なんだ憂が一番乗りか」
久しぶり、と嬉しそうに声をかけたのは今回の集まりの企画者である加賀誠だった。誠は昔から俺よりも少し高い身長だったが今も俺は少し負けているようだ。髪型は高校時代と違い、短髪は薄く茶色に染めていて明るい印象になっていて誠によく似合っていた。
誠は俺の向かいの席に座ると、近くにいた店員を呼び止め、コーヒーを注文した。
「久しぶりにみんなで話せると思ったら早く来過ぎたよ」
「はは、お前らしいな」
誠の白々しい台詞に俺は店に置いてある時計を指さし半眼で抗議する。
「何言ってんだよ。まだ時間よりも早いし、誠もそうなんだろ?」
「バレたか」
軽快に笑う誠に俺もつられて笑う。誠とは一年前まではたまに会っていたがこうして会うのは久しぶりで、この何でもない会話が懐かしく感じる。
注文したコーヒーが届き、誠はそれを一口飲む。カップを置き一息入れた後、リラックスするように深くソファーに腰掛けた。
「お互い様同士、また昔みたいにあいつら遅刻組を待つとするか」
遅刻組、という懐かしい言葉に俺は笑った。そう、まだ来ていない後の三人は昔からよく遅刻をしては俺達二人を待たせていた。
「まさか久しぶりの集まりなのに遅刻はしてこないとは思うけど……」
今日ぐらいはちゃんと時間通りに来るだろうと思っていたけれど誠は薄い反応で苦笑した。あまりあいつらを信用していないようだった。まあ俺もなんとなく遅れるような気がしてクスりと笑った。
「だといいけどな。あ、そうだ。これを持ってきたんだ」
誠は鞄から大きな本を手渡した。どこかで見たことあるような分厚い本を俺はめくる。
「これは……アルバムか?」
本の中はたくさんの写真が貼られていてすぐに分かった。どれも懐かしい写真や、こんなのもあったっけと思うような写真ばかりでついつい何ページも開いて見る。
「やっぱ思い出話するならこいつは必要かなと思って持ってきたんだ」
わざわざこんな重たいものを持ってくるあたり真面目な誠らしい。
誠はポケットからスマホを取り出し時刻を確認する。どうやら今が待ち合わせの時間のようで俺達は目を合わせ同時に笑った。どうやら本当に今回も遅刻組は遅刻らしい。
と、不意にユウのスマホから軽快な音が鳴り響く。恐らく遅刻組からだろうと思いスマホの画面を見ると宛先は、本人曰く遅刻組ではないと自称する宮代弓からのメールだった。弓からのメールの内容は簡潔に一行だけ。
――綾乃のせいで遅れる。なるべくすぐ来るから。
それを誠に見せるとやっぱりな、と苦笑いをした。
「遅刻組はまだ来なさそうだし、先に見て待ってようぜ」
「そうだな」
遅刻組が来るまでの間、俺達は二人でアルバムを見ることにした。最初のページを開くとそこには入学式の頃の写真が貼ってあった。みんな中学生の名残りがある子供っぽい顔をしている。
「懐かしいな。これ、入学式の時だよな」
次のページをめくると俺と誠、そしてまだ来ていない三人と一緒に写った写真が幾つか貼ってあった。入学当初の写真のようでまだ少し距離感を感じる写真になんだか笑えてくる。
「あの頃が懐かしいな……。俺達って初めはどうやって知り合ったんだっけ?」
俺の疑問に誠は手を左右にひらひらとわざとらしく大袈裟にリアクションをとる。
「おいおい、あんな衝撃的な出会いをしたってのに忘れたのか?」
誠は当時の事を思い出しているのか、笑いを堪えるように言う。何かあったっけと昔の事を思い出していくと記憶に残っていたことが一つ。
「あいつ、友哉がやらかしたってのは覚えてるぞ……」
俺と誠はあのみんなとの出会いの日……。いや、衝撃的なあの日を語り合っては思い出していった。