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「銀河連合日本」二次創作

銀河連合日本外伝 ~教育改革を行ったら、宇宙でエルフがドワーフを飼い始めた~

作者: トファナ水

 広大な星間国家連合体「ティエルクマスカ連合」とファーストコンタクトに至った日本は、新時代に相応しく教育体制を刷新する為、異星の教育者達を学校現場へ招請した。

 その内の一人によるユニークな提案が発端となり、宇宙では”エルフがドワーフを飼育する”様になるのであった……


※本作は「銀河連合日本」(N5084B)の二次創作作品です。原作者の柗本保羽様の御許可を頂いています。


 日本のティ連への加盟が発表されてから程なく、全国から無作為で選ばれた公立の小・中学校へ、日本政府の招請により、イゼイラを主体としたティ連各国から「補助教員」の立場で教育者が派遣された。派遣先は数百に及び、地域や規模も離島の分校から、大都市圏のマンモス校まで様々である。

 一般に公表された彼等の役割は、日本の子供達にティ連についての知識を伝えると共に親しみを持たせ、”自分達日本人も、偉大な恒星間国家連合体の一員である”という連帯意識を育成する事である。

 それに加え、日本政府には別の思惑もあった。

 ティ連の主要な既存種族に比べて短命のハンディキャップを背負う地球人は、他種族に比べて短い学齢期の間に、ティ連市民の社会人として相応しい教養を身につける必要がある。その為には教育内容の精選や効率化が必須だ。

 加えて、ティ連来訪以前から存在する、日本の学校教育に於ける様々な問題点も、この際に外部からの指摘によって改めたい。いじめ、不登校、浮きこぼれ、過重な部活動、学習障害・発達障害児への対応、過度の平等主義、事なかれによるトラブルの隠蔽…… これらは従来より指摘され、様々な試みがなされている物の、抜本的な解決がみられないまま現在に至っている。

 それを踏まえ、ティ連体制下の日本に相応しい、新教育カリキュラム編成に有効な提言を行うべく、ティ連側からの視点で日本の教育現場を観察する。それが、異星から訪れる教育者達に課せられたもう一つの役割であった。



*  *  *



 派遣された補助教員達からの現場報告や提言は、実に様々な物があった。

 その内には、彼等の母国の価値観から見てもラディカルな物も目立つ。

 例えば、以下の様な物だ。


・全寮制による二十四時間・三百六十五日の完全管理教育

・知能や身体機能等の適性検査を行い個々の資質に合わせた早期のコース別教育

・現在の教員の大半を生活保障の上で解雇し、教育用人工知能に代替させる

・集団教育の廃止とコンピュータ・ネットワークによるVR使用の個別自宅学習導入


 過激な提言が生じた背景だが、これは派遣人員の募集に際し、発達過程文明に於いて「理想の教育」を実現しようと考えた野心家が多くいた事に起因する。

 確かにティ連の技術ならば可能であろうが、義務教育に於ける一律の導入には、国民の不安や反発が必至である。

 それでも、志願者を募る国立校での試験的な実施には一考の余地がある提言もあり、「参考意見」としては受け入れられた。また公表された提言を受け、民間ではその導入を目的とした私立学校設立の動きも出始めている。

 逆に、教育の現状に対して全面的に肯定する意見も散見された。

 日本国内からも疑問が挙がっている様な問題点をも「美徳」として評価する、その様な意見は、ティ連内の社会進歩停滞を憂い、発達過程文明の可能性に期待する者達から出されていた。

 彼等は日本社会を美化するあまり、そのティ連化進行を限定的に留めようと考え、明らかな欠点にも無意識に目を瞑り、手放しで現状を賞賛したのである。

 この様な意見に対し、外圧を背景とした変革の強制を恐れる日本の教育界からは絶賛の声が相次いだ物の、改革に全く寄与しないとして政府関係者からは落胆された。

 公正さを疑われない為に公表はした物の、政府当局の本音では揉み消したかったのではないかとも現在ではささやかれている。

 勿論、両極端な提言は、目立つ物の全体から見ればあくまで少数派である。大半は現状を踏まえた上での段階的かつ中庸な改良案であり、今後の教育改革へ活かされるべく文部科学省内で検討が始められている。

 その中でも、ピンポイントではあるがユニークと評された一提言は、宇宙で新たな愛玩動物”ウサギ”が普及する契機となったのである。



*  *  *



 イゼイラ人主体の補助教員の中にあって、数名しかいないディスカール人の彼女が派遣されたのは、とある地方工業都市近郊のベッドタウンの一角にある小学校だった。

 学校の周辺には、高度成長期の末頃に立てられた、古びた鉄筋の集合住宅が建ち並ぶ団地がある。

 立て替え時期に差し掛かっているのだが、バブル崩壊以後の財政難により、その目処も立っていない。その代わりに家賃は低く抑えられている。

 住人は主に二次/三次請けの中小企業に勤めるブルーカラー層で、所得がほとんど上がらないまま、この様な住環境に甘んじているのである。

 日本が上り調子だった頃には活気に満ちあふれていたこの団地も、今は生活に疲れた低所得労働者が、雨風をしのぐ為の場所でしかない。

 経済的にゆとりのある層は、より快適な暮らしを求め、戸建て住宅やマンションを入手して移り住んで行き、学区も別となる。

 取り残された者達の間には諦観が漂い、発泡酒や酎ハイを飲みながらのTVでのスポーツ観戦、レンタルDVDの鑑賞、あるいは僅かな小遣いを注いでのパチンコ等が数少ない娯楽である。

 世界中を沸き立たせた日本のティ連加盟も、ここの住民達にとっては熱狂的に歓迎する様な事ではなかった。

 それで給料や休みが増える訳で無し。むしろ、宇宙からの新技術導入が進めば、悪ければ職場は需要を失って倒産。そうでなくとも余剰人員として解雇されかねないと心配する者が大半だ。

 それでも彼等は「心配しても仕方ないのだから」と不安をごまかしながら、埃と油にまみれ、生活の糧を得る為だけに労働で心身をすり減らす日々を続けている。

 保護者のその様な状況は、当然ながら子供達にも悪影響を及ぼしていた。

 確かにここは治安も悪くなく、失業率、離婚率も高くはない。他国の貧民窟に比べれば、天地の開きがあるだろう。国内にも、さらに酷い場所はザラにある。

 だがここには、人の生活に必要な”明日への希望”が欠けているのだ。



*  *  *



 赴任した補助教員が気になったのは、学校全体をつつむ活気のなさだった。

 紹介された全校集会は、淡々と進行していた。異星人の自分が登壇しても静まりかえっている。

 自己紹介を終えると生徒達は一斉に「宜しく御願いします!」と声を張り上げた。

 集会を終えた後、校長の案内で各クラスの授業の様子を見学してまわると、やはり静かな物だった。

 どのクラスも静かに授業が進行している。教員が黒板に書いた事を生徒が黙々と書き写し、時折、教員が指名した生徒が質問に回答していた。

 平穏な授業風景だが、補助教員には心に引っ掛かる物を感じた。

 一言で言えば、子供らしい快活さがないのだ。


「この学校の子供達は、何というか、随分とおとなしいですね。いつも、この様な物なのですか?」


 校舎内を一通り案内され終わり、校長室に通された補助教員は、率直な疑問をぶつけてみた。


「有り体に言えば、数年前までは、とても授業が成立する様な状況ではなかったのですよ」

「そうなんですか?」


 意外な答えに、補助教員は首をひねる。


「この地域の住民は、大半が生活の厳しい低所得者でしてね。父兄も教育に関心を寄せる余裕がないのです。結果、子供への躾もなっていない、言い方は悪いですがケダモノの様な子供達が、授業中にも関わらず先生の指示に従わずに騒ぐ。本校は、そういう状況に陥っていました」


 貨幣経済の下では、きちんと働いていても貧しい者が少なからず出てしまう。赴任地域に関する事前レクチャーで知識はあったが、子供達への影響を直に聞き、補助教員は顔を曇らせた。

 だが、現状は明らかに違う。


「今からは想像も出来ませんが?」

「はい、三年前に私が赴任して、どうにか立て直しました」

「一体、どうやったのです?」

「先生方を見てお解りでしょうが、この学校は、体育大学出身の猛者ばかりです。実力で解らせてますよ」

「体罰……ですね。父兄から苦情は出ないのですか?」


 体罰が日本の法律で禁止されている物の、地域によっては有名無実である事は、当然に補助教員も知っていた。教育困難な状況を立て直す為とはいえ、立場としては看過できない。


「その位、父兄が学校に関心を持ってくれれば苦労しないのですがね……」


 補助教員の不安そうな声に、校長は皮肉げに唇をゆがめる。


「御心配なさらずとも、最初に威圧出来れば、実際にはその必要は殆どありません。要は、なめられなければ良いのです。その為に本校の教員は、体育大出身の筋骨隆々とした格技経験者に入れ替えました。勿論、見かけ倒しではなく、本当に強いですよ。いざという時の手加減も心得ています」


 言われてみれば、この学校の教員は全員、男女共にアスリートの様な逞しい肉体美だったと、補助教員は気付いた。その様な人事要請が上層部に聞き入れられる程に、この学校の状況は悪かったのだろう。

 威圧して押さえつけるという手法は決して良策には思えないが、結果は認めなくてはならない。現状だけ見れば活気のない学校なのだが、より悪い状況から脱したと言うのであれば、校長の手腕は確かな物だ。

 上層部へ報告される事も恐れずに話したのだから、よほど自信があるのだろうと、補助教員は考えることにした。


「方法はともかく、今は生徒の問題行動が皆無なのですね」

「流石に、そこまでは。些細な違反はどうしても出てきます」

「些細な違反?」

「若干の遅刻、忘れ物等ですね。どうしても、人間ですから」

「そういった行為にも、容赦なく暴力で制裁を加えるのですか?」

「まさか。いじめの様な他害行為ならともかく、その程度の事でそれはありませんよ。軽度の違反については、丁度、本校に良い物がありましてね。それを使っています」


 校長は、校舎の裏側へと補助教員を案内した。

 その隅には、金網で囲まれた小屋があった。若干、糞尿の臭気が漂ってくる。

 小屋の内外では、運動服を着た五名の生徒が、モップやほうきと言った用具を手に、掃除に励んでいた。


「ご苦労さん」


 校長が声を掛けると、生徒達は一斉に深々と一礼する。


「ああ、手を休めずそのまま続けなさい」

「校長先生、わかりました!」


 校長の指示に、子供達は一斉に声を張り上げて掃除へと戻る。

 その顔はどことなく引きつっていたが、力で秩序を保っている以上、無理もない事だと補助教員は心の中で思う。


「排泄物が臭いますね。トイレではなさそうですし、何か飼育しているのですか?」

「ええ、これですよ。清掃中ですから、こちらに出してあります」


 校長は、小屋の傍らに置かれた二つの小さなケージを示した。

 中には一頭づつ、長い耳と純白の体毛、そして紅い眼が特徴的な小動物が入れられていた。大きさは、最近ティ連で紹介され、人気が出始めている”猫”と同じ位だが、明らかに別の動物である。

 動物はおとなしく、ケージの中でじっとしていた。


「ウサギと言います。おとなしい草食動物で、本校だけでなく、多くの日本の学校で、動物の命を慈しむ心を養う為に飼育されています」

「可愛らしいですね」

「そうでしょう。愛らしいウサギの世話を通じて、子供達に反省を促す。ちょっとした事に対する罰としては適切でしょう」


 校長は誇らしげに笑顔で自慢した。

 話している内に清掃が終わったらしく、子供達がウサギをケージから出して、小屋の中へと放す。

 その時、子供達がウサギに向けている目が、動物を可愛がる様な優しい物ではなく、明らかに厄介者をにらみ付けるそれであった事を、補助教員は見逃さなかった。

 さらに、子供の一人がつぶやいた、かすかな声も耳に入る。


「死んじまえ、糞ウサギ」


 補助教員は衝撃を受けた物の、表情に出さない様に気を付けながら、何も気付かない様子の校長にいざなわれ、その場を後にした。



*  *  *



 衝撃が心に残ったままの補助教員は官舎へ帰宅後、日本の学校に於けるウサギ飼育の状況についてネットで検索してみた。

 小学校でのウサギ飼育は、日本がかつてアメリカと戦っていた時期に、毛皮や肉を目的として始まり広まった物だという。

 戦後しばらくして食糧事情が安定し、その必要がなくなった後も、子供達の情操教育の為として続けられて現在に至っている。

 学校によって飼育の現状は大きく違い、教員・生徒共に熱心な学校もあるが、多くは目的を見失って形骸化し、負担を感じながらも惰性で続けている様である。


 発生している問題点を列記すると、例えば下記の様な物がある。 


・動物の世話は年中無休なので、休日の世話が押し付け合いになる。

・去勢等で繁殖を管理せず無秩序に出産させてしまい、始末に困って子ウサギを殺処分する。

・明らかな病気でも、予算がないので獣医の診察を受けさせない。

・やはり予算がないので、きちんとした配合飼料を与えず、食料品店からの好意で調達した野菜屑ばかりを与える。


「酷いですね…… ウサギさんが可哀想です……」


 あまりの内容に、ディスプレイの文面を読む補助教員は涙ぐんでいた。

 これでは情操教育どころか、子供の精神に悪影響が出かねない。同様に考えている日本人も以前からおり、動物愛護団体等からも、学校でのウサギ飼育の現状に疑問の声が挙がっている様だ。

 それでも何故続けているのかと言えば、以前から続いている”伝統”を、自ら打ち切る事が決断出来ない責任者が多いからなのではないか。

 補助教員は、ウサギ飼育の状況を通じ、日本の学校現場に於ける”事なかれ体質”を垣間見た思いがした。

 自分の赴任先の校長は”事なかれ”ではなく”生徒への懲罰”としてウサギ飼育を積極利用しているのだが、それはそれで本来の趣旨から逸脱している。

 早速彼女は、他校に赴任している同僚達に連絡を取り、それぞれの職場のウサギ飼育の現状を調べてもらう事にした。

 結果はやはり芳しくない物で、多くの学校ではウサギが適切に扱われていない状況が浮き彫りになった。

 その結果をまとめ、補助教員は上層部にレポートを提出した。

 多くの学校で行われているウサギ飼育の管理状況に着目し、目的を見失って惰性で続く教育の典型例として、学校現場の負担軽減の為にもその存廃の検討を促す内容は、文部科学省、教育界、そして政府をもうならせた。

 学校に於けるウサギ飼育について、適切な管理が行われないのであれば動物愛護に反するので廃止する様、文部科学省から各都道府県の教育委員会へ通達が出されたのは、それから半年後の事である。



*  *  *



 通達の結果、多くの学校で、ウサギ飼育を廃止する決定が下された。やはり、負担に感じつつも、廃止に踏み切れていない学校が多かったのである。

 ちなみに補助教員の勤務校でも、ウサギ飼育はあっさり廃止された。校長にしても、赴任前からある物を利用していただけで、特にこだわりは無かったらしい。

 そうなると問題は、ウサギの引取先だ。その数は全国で数万頭に及ぶ。

 だが、提言を行った補助教員にはあてがあった。

 現在、ティ連では猫ブームとなっているが、入手が極めて困難となっている。そこで、猫以外にも、同じ程度の大きさで飼いやすい愛玩用の小動物として、ティ連、特に自らの本国であるディスカールに向けてウサギを紹介したのだ。

 何しろ、地球から輸出される猫の大半はイゼイラが確保している。ならば、ウサギについては自分達ディスカールが優先されても良いのではないかと、彼女は考えたのだ。

 たちまちディスカールからは問い合わせが相次ぎ、数万のウサギは、外来種として野生化しない様に不妊処置を施された上で、異星の新たな飼い主の下へ”友好の証”として旅立っていった。



*  *  *



 こうしてディスカールで巻き起こったウサギブームだが、学校から引き取られた物だけでは全く不足である。

 だが、その多くを野良猫の捕獲によって賄っているティ連向け猫輸出と違い、野生のウサギはあくまで自然の存在なので、ペット用に乱獲する等もっての他だ。そもそも野生種は飼育に向かない。

 と言って、ペット用ウサギのブリーダーは多くが零細であり、価格も高価である。

 今や、ディスカールに於けるウサギ飼育普及の中心人物と化した補助教員は、自らの放ったウサギブームの炎をどうした物かと考えあぐねていた。

 そんな彼女の下へ、JAが接触を図ってきた。

 曰く、JAには実験動物用のウサギ繁殖農家が多く加盟しているが、近年は動物愛護団体からの抗議が厳しい。さらに将来的にティ連医学が導入されれば、顧客である医薬メーカーの壊滅的打撃は疑いない。

 将来に見切りを付け、ペット用へ転換を考えているが、ウサギ飼育に関心が深まっているというティ連では需要がないだろうか。

 この時点では、ガン等の難病治療に関し、画期的な治療法をティ連が保有している事は、まだ一般には公開されていなかった。

 しかし、少し想像力を働かせれば、そういった医療技術が存在しているのではないかと考えるのは自然で、既に水面下では多くの医療関係産業が、新医療技術導入による、来たるべき衝撃に備えつつあった。このJAの接触も、そういった自助努力の一つである。

 補助教員は渡りに船と考え、JAの申し入れを受けて協力する事にした。

 実験動物として手がけられているのは、学校で広く飼育されているのと同じ”日本白色種”がメインだったが、バリエーションとして様々な品種が手がけられる様になった。

 価格も、地球のペットショップで出回るよりは廉価に抑えられた。この頃にはハイクァーン受給権を日本円に換算する事による個人輸入が出来る様になっていた為、購入の希望は殺到した。

 猫に比べて繁殖力がとても強いウサギは、家畜として生産が容易である。

 また、その旺盛な繁殖力で、野生化すれば現地の生態系を破壊してしまうであろう事も懸念された。ディスカールを始めとしたティ連各地を、ウサギの害に悩む豪州の二の舞にしてはならないのだ。

 その為、先にティ連でペットとして普及している猫とは違い、需要へ応える為に地球外での繁殖を容認しようという動きはない。供給を担うのは現在に至るも、全てが日本を中心とした地球内の繁殖農家であり、かつ輸出される全頭が不妊処置を施されている。

 勿論、母体に過酷な繁殖とならない様、愛護団体による監査で保証も受けていた。

 様々なウサギの中でも特に人気が出たのが、小型種の”ネザーランド・ドワーフ”である。

 ウサギの中でも特に小柄で愛くるしいこの品種は、多くのディスカール人を虜にした。

 彼等のペット自慢は、地球でもインターネットを通じて見る事が出来るのだが、一部の地球人がそれを指し、「宇宙のエルフはドワーフを養う」と冗談のネタにし始めた。

 ディスカール人はその容貌が、地球のファンタジー作品に登場する空想上の知的生命”エルフ”に酷似している。そしてエルフは、やはり空想上の種族”ドワーフ”と不仲とされていた。

 その為、現実に存在しているエルフが、ドワーフと称されるウサギを飼っているという状況が、ファンタジー愛好家にとっては格好のジョークとなったのだ。

 最初は何故に地球人達が笑うのか解らなかったディスカール人も、事情が知れ渡ると共に、積極的にそれを自らネタにする様になる。

 過去の地球の創作物では、エルフとドワーフは反目し合っている事になっていた。しかし現実の宇宙では、エルフがドワーフを養っているのだ。



 トファナ水版「銀河連合日本」二次創作の第二弾、お楽しみ頂けたでしょうか。

 前作「~宇宙は一家、ぬこ好きは皆きょうだい~」に引き続き、今回も動物愛護が話題となっております。

 前回感想で「次はお犬様を」という要望が多かったのですが、ウサギになってしまいましたw 犬って種類・用途が多種多様で、考察する要素がとても多いんですよ……


 さて、本作の発想経緯です。


”ネザーランド・ドワーフ”というウサギの品種がある

 ↓

ドワーフといえば、エルフと仲が悪いのが定番

 ↓

「銀河連合日本」には、エルフそっくりのディスカール人がいる

 ↓

ディスカール人がネザーランド・ドワーフを飼えば「エルフがドワーフを飼う」という、一見外道なタイトルの作品が出来ないか


 これを基に、状況を肉付けして、現実の教育問題や、ティ連加盟に伴う劇中での社会問題を絡めていったという訳です。


 まず、以前から「学校でのウサギ飼育って大変なのに、何故、続けているのだろう?」と疑問に感じていましたので、それを仮託してみました。

 生き物をきちんと管理するのは大変です。いい加減な管理なら、かえって子供の教育の為にはならないのではないかと。

 勿論、現場への過度な負担がなく、適切な飼育が出来ているならば良いのですが。


 舞台となる地域を”低所得層が住まう旧い団地を校区とする学校”としたのは、ティ連側の人達にも、彼等の社会ではあり得ない、こういった層の存在を広く認識させたかったという思いがあります。

 ティ連の大好きな発達過程文明国家・日本が、末端労働者の貧困をも含むのだとしたら、何と残酷で傲慢な事かと思います。

 発達過程文明の保持は、適切な福祉政策を交えないと、救える筈の低所得層を看過する事につながってしまう。そして彼等はティ連を憎み「ガーグ」化するのではないか。

 原作によると、福祉施策へのハイクァーン活用が徐々に取り入れられているとの事ですので、本作中の地域も、明るい兆しが出てくるのではないかと思いますが……


 また、原作に於ける種族間の「経齢格差問題」で、その対策があまり触れられていないのが以前から気になっていましたので、本作ではその点にも触れてみました。

 原作ではティ連の技術によって地球人も寿命の延長が可能なのですが、日本政府は、高額の費用徴収等で抑制的な政策を取っています。

 しかし、地球人が背負う肉体的ハンディを克服する何らかの対応を取るであろう事は疑いなく、本作に於いては教育面でそれを模索している事にしました。

 作中で触れられている「極端な提言」は、それを達成する為の強攻策という面もあります。

 最も過激な例として”脳へのバイオチップ埋込による知能強化で学習効率の向上”というのを考えましたが、それをする位なら素直に寿命を伸ばすでしょうから没にしました(知的障害の治療目的としてはあり得るかも)。


 「娯楽作品に何をマジになってるんだ」とお考えの方もいるでしょうが、自分は「銀河連合日本」を、単に痛快なエンタテイメントではなく、思考実験的作品として受け止めています。

 機会がありましたら「銀河連合日本」に於ける考察を、新たな二次作品で書いてみたいと考えていますので、宜しく御願いします。


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― 新着の感想 ―
[一言] ここで言って良いか分かりませんが、返信させていただきます 正確には、僕の小学校には半分廃墟と化したウサギ小屋(もしかしたら鶏かも)が校舎の裏にあり、少なくとも昔何かを飼っていたと推測した形…
[気になる点] 不妊処理をすれば繁殖は抑えられますが、感染症が気になります。人に対する感染は対処できるでしょうが、自然界に地球の細菌やウィルスが広まった場合、特定の動植物が滅ぶ危険があります。
[良い点] なるほどなぁと思いました。確かにティ連ならばそうなるなとも思いますのでね。 [一言] 今回はうさぎでしたが次回はネズミはどうでしょうか?もしくはハムスターですが。まぁ今回の話までの流れを考…
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