Youth
これだ!と思う題名が思いつかなかった・・・
『Youth』
今まで運動部にいたから、いつも髪をきっちりしばっていた。ジャージ姿が多かった。でも、6月に引退をしたから、それを期にお洒落な美容院に行ってカットしてもらった。
少し癖のある私の髪はセットしやすいから、と色々美容師さんに教えてもらって、リップも色つきリップを付けたり、今まで気にしていなかったスキンケアなんかに力を入れて、お洒落デビューをしてみた。
みんなから、いい感じだねって言われてちょっと得意げになってたんだけど、前から仲の良かった男子の一人だけには「変」って言われた。
それからだと思う。その男子、渡辺翔太はそれ以降何だかよそよそしくて、最近では私が話の輪に加わると笑ってたのが笑わなくなったり、話しかけてもそっぽ向いたままだし、なんか嫌われた感じになってしまった。
5月の修学旅行の頃は一緒にみんなで楽しくしてたのに。
友達たちに、渡辺に嫌われたっぽいって話したら
「それって『好き避け』だよ」
って言われた。
「好き避け???」
「好きだから、緊張して避けちゃうってやつ。どうしていいか分からない-みたいな。ほら、千恵最近ぐっと可愛くなったじゃない?だからさ、千恵からたくさんかまってあげなよ!」
とのこと。
みんな、うんうんと言いながら、エールを送ってくる。
そうか。あいつ、私の事好きなのか。しょーがないなー。
そんな風に思ったわけで。それから私は渡辺のことをなんだかんだと構った。
いつでも告白してきていいんだぞー?私もお前の事、嫌いじゃないぞーって感じで。だけどさ。
1学期の期末テストをの勉強、一緒にやろうって言ったら「馬鹿と勉強しても意味ない」って言われたり。そりゃ、馬鹿だけど。
夏休みに入ってから、映画に行こうって言ったら「そんな映画見たくない」って言われたり。アクション好きって前言ってたのに。
みんなで海に行ったら、「お前の体型でその水着とか何考えてんの」って言われたり。まぁ、胸ないし足太いけどさ・・・・。
夏祭りにみんなで行くことになって、浴衣着て行ったら舌打ちされたり。
そんで、待ってもみんな来ないから連絡したら「2人でごゆっくりー」なんて。渡辺の方にもそんなラインが来てたみたいで、「仕方ねぇから行くぞ」って言われて、浴衣歩きづらいのに早足で歩かれて、振り向きもしないから人ごみに紛れてあっという間にはぐれたし。
そして2学期。
「そんなわけで、渡辺の好き避けは間違いだと思う。」
屋上の日陰になってるところで、お弁当を食べながら友達たちに愚痴ると、一人がうーん、と唸って言った。
「じゃあ、引いてみなよ」
「引くって?」
「押してダメなら引いてみろーってやつ。今まで構われてたのが無くなったら、渡辺も焦って千恵に近寄ってくると思う」
「あいつもたいがい馬鹿だからねー」
何ていいながらみんな笑ってた。
ふーん?って思ってその日から渡辺に構うの止めた。
別に無視とかじゃなくて、私から声かけたりラインしたりするの止めただけで、日常生活に必要なことは話す感じ。
そんな感じで1ヶ月ぐらいした頃。渡辺が別のクラスの子と下校するようになった。
それを教室から眺めながら、納得する。
「やっぱ好き避けじゃないじゃん」
一番仲いい葉ちゃんが、私の隣で「ほんと馬鹿だね、あいつ」と呟いていた。
「何々、千恵ってば気になるの?渡辺のことー。あの子はC組の愛華ちゃんだよ。かわいいよねー。取られちゃうよ?」
私に後ろから抱きついて言ってきた遥に、何と答えていいか分からず適当に言葉を濁した。
そういえば、私は渡辺のことどう思ってるんだろ。嫌いじゃないし、一緒に居て楽しい奴だったんだけど、最近はそうでもないし。
取られちゃう、か。でも、私のものじゃないし、愛華ちゃんって子と一緒に居る方が楽しそうに笑ってるしなぁ。
考え込みながら2人の後ろを見ていたが、ふと顔を上げると遥がニヤニヤしていたので見るのを止めた。
自分の部屋でベットに寝ころびながら考えた。
渡辺が私の事を好きだという事を、本人から聞いたわけではない。
みんなから「好きだから避けてる」と言われて、そうかと思っただけ。
しかし、振り返ると結構酷いことばかりだった気がする。好きだからって言っても限度があるんじゃないかなぁ。
それに、私が構うのを止めたら愛華ちゃんと仲良くなった。
詰まるところの、私は本当は渡辺に嫌われていて、私がうろちょろするから愛華ちゃんと仲良くなれなかったということではなかろうか。
だとしたら、渡辺に大変申し訳ない事をしたな。
ついつい周りに踊らされて私のことが好きなのかと勘違いしてしまった。うぬぼれもいいところだ。恥ずかしーっ!
ベットで頭を抱えてゴロゴロと転がる。そして決意する。
愛華ちゃんと幸せになるよう遠くから応援しようじゃないか。
もう2度と邪魔はせぬよ。
それから渡辺とは特に何もなく。あの二人付き合ったらしいよとかなんとか小耳にはさみつつ、ふーん、って感じで過ごして、中間テスト期間に突入した。
私たちは用事が無かったりすると図書館の一角で勉強する。分からないところ教え合ったりして。別に約束とかはしてない感じ。
その日は、誰もいなくて私一人で勉強してた。
そうしたら渡辺が来た。正直、うげっと思ったけど、ここで帰るのもどうかな、と思うのでそのまま勉強を続けた。
私は苦手な数学で頭を悩ませていた。この世にサインコサインタンジェントは必要なのか・・・いや、落ち着け私。必要か必要じゃないかではなく、今ここを乗り切るのにはやるしかないのだ。
唸っていると、渡辺が隣に座って問題集を取り上げた。
「全然ちげーし」
「だって、よくわからないんだもん」
私が口を尖らせて言うと、渡辺が説明をしてくれた。
が、分からん。
「いや、だからどうしてそうなるか、がわからなくて・・・」
「はぁ?!お前どんだけ馬鹿なんだよ。大学行く気あんの?ってかどこ行く気だよ」
「N大」
地元の大学だ。
「これで受かるわけねーだろ」
ぺしっと頭を叩かれる。
ムカついたが言い返せない。ってか叩くなよ。余計馬鹿になるだろうが。
それから渡辺は横で何やら呪文を言っていたが、まったく分からない。余計わからない。むしろ渡辺邪魔じゃね?と思ってたところで天使が舞い降りた。
愛華ちゃんだ。
「あ、ここに居たんだー!あれ?数学?私も教えてほしい。ね?いいでしょ?」
「え?あ、でも今こいつに教えてて。こいつめっちゃ覚え悪いからマンツーマンでやらないと・・・」
なんだと!彼女優先だろうがよ、普通はっ。
「あ、私もう帰るところだから!気にせずどうぞ!」
私は参考書を渡辺から奪い返すと、文房具を終い始めた。
「そうなんだー。じゃあ翔太くん。私の家で一緒に勉強しよ?」
女の私でもかわいいなーって思うぐらいかわいらしく、小首を傾げて愛華ちゃんが誘う。
渡辺は何故か私に確認してくる。
「いいのか?俺行くぞ?」
「え?うん。どうぞ?教えてくれてありがと」
渡辺は一瞬顔をしかめたが、すぐに愛華ちゃんに笑顔になって了承した。
2人が図書館から消えたので、私は再びここでサインコサインタンジェントと向き合い始めたのだが・・・・わからん。絶望的だ。
あぁ・・・・と絶望的な顔をしながら天井を仰いだとき、近くに居た男子と目が合った。メガネをかけた、一見秀才そうに見える男子だった。しかも、広げてあるテキストは、同じところだ。
これはもう、聞くしかないだろ。恥?なにそれ美味しいの?である。
私はそそそっとその男子のところまで行って聞いてみた。
「数学、得意?」
「え?あ、うん・・・まぁ」
「できればなんだけど・・・・その・・・教えてくれない?」
「うん、まぁ、君たちのやりとり聞いてたけど、あの説明じゃきっと分からないだろうなって思ってた」
そーなんだーー!!やっぱり渡辺の教え方悪かったんだ!!
そんなわけで、メガネ君に教えてもらいましたとも。そしたらあーら不思議。謎の呪文が解読できてきたじゃないですか。
神だ!あなたは神にちがいない!!!
メガネ君はB組で海藤俊也という名前だった。正直まったく今まで知らなかった。ゴメンナサイ。
それから図書館開放時間ぎりぎりまで教えてもらって帰ったのだが「遅いから送るよ」なんて言われまして。
勉強できるうえに紳士だなんて!!!もうマジで神様ですよ。
こうして、私と海藤君は、会えば話す程度の仲になった。え?決して期末テストもお世話になろうとか、考えてませんよ。えぇ。もちろん!・・・フヘヘ。
そんなわけで、数学は結構いい点数が取れた。私、数学以外はそこそこだから、今回数学の出来が良かったおかげで順位がぐーんと伸びた。
マジでありがとう!海藤様!!
私がホクホク顔でいると、渡辺が「俺のおかげだからな!感謝しろ!」とか言ってきた。いや、違うし。
海藤君にはラインで点数が良かったこととお礼を伝えておいた。
その後、体育祭がやってきた。
何故かうちの学校、体育祭のハチマキを自分で作る風趣がある。そして、そこから女子から手作りハチマキを男子に送るというイベントに派生した。これがバレンタインに次いで告白の機会になっている。
もらえなかった人は自分で作るもよし、購買で買うもよし。ちなみに、もらえる人は10本とかもらったりする。
クラスごとに色があるので、体育祭の前にそのクラスの色の布を買いに駅前に手芸屋さんは女子学生であふれる。
だいたい色で、あの子、あのクラスの人に渡すんだーなんてのも分かる。
私も友達たちと布を買いに来てた。私のクラスは水色だ。
友達たちは自分の水色のほかに別のクラスの色を買ったりしてる。葉ちゃんを見れば、水色で鉢巻分しか買ってない。
まぁ、彼氏大学生だもんね。
私はこっそり赤い布も買った。B組の色だ。なんていうか、その。お礼?的な?義理ハチマキっていうか?うん。お世話になったし。
そんな風に言い訳とかつけつつ、渡すか渡さないか別にして作っておこうと思った。
「へぇー赤ねぇ」
葉ちゃんに見られてたらしく、ニヤニヤされてしまった。
「み、みんなに内緒ね!」
それから体育祭前日。
渡辺に「ん」と言われて手を出された。
思わず首を傾げる私。
「ハチマキ」
「え?」
「勉強教えただろ。ハチマキぐらいよこせよ」
えぇ・・・・。あれで教えたことになってるんだ・・・。
「ほらほらー、用意してあるんでしょ?あげなよ~」
何故か周りが囃し立てる。
いや、自分のしかないし。
「愛華ちゃんからもらってないの?」
「なんだよ、嫉妬か?愛華は可愛いからなぁ」
いや、愛華ちゃんが可愛いのは知ってるし。
「渡辺」
私が困っていると、葉ちゃんがやってきた。
「千恵が用意したハチマキは、赤だよ」
「わーっ言っちゃダメっていったのに」
慌てる私に葉ちゃんがどこ吹く風だ。
一瞬の静寂の後、渡辺と、その周りにいた友人たちは「えぇー!!!!」と声をあげた。クラス中がびっくりしてこちらを向く。
「赤って、B組だよね。誰よ誰よ誰よ」
明菜が肩を揺らしてくる。
「岸田って、翔太が好きなんじゃねーの?」
と渡辺とつるんでる一人が聞いてくる。
「え?別に好きじゃないよ。それに、渡辺には愛華ちゃんがいるでしょ?」
「まじか・・・」
何か不穏な雰囲気になったが、丁度授業が始まったので解散になった。授業中、渡辺の方から強い視線を感じたけれど、見たら危険な気がしてスルーした。
昼休みになって、図書室へと足を向ける。
図書委員の海藤君は、だいたいここに居るのだ。
丁度、誰もいない。よし、今だ。今しかない!!
「あの、海藤君」
心臓がドキドキとうるさい。
「あ、岸田さん」
「あのね、これ、よかったら・・・。色々お世話になったから、お礼っていうか・・・」
ハチマキを出すと、海藤君はちょっとびっくりした顔をしつつも「ありがとう」と受け取ってくれた。
メガネの奥の瞳が柔らかくて、私もつられて笑った。
なんだか、胸がキューってなっていっぱいになった。
「体育祭、がんばってね」
手を振って図書館を後にしてから、なんか無駄にニヤニヤ笑いが止まらなくて困った。そして、教室に戻ったら険しい顔の渡辺にキレられた。
「ふざけんなよ、お前!」
ふざけるなって、何が???
いきなりキレられて私は言葉も返せずぽかんとした。渡辺は近くにあった机をガンッと蹴る。
余の剣幕と暴力にさすがに怖くなって後ろに下がると、渡辺とつるんでるやつらが渡辺を抑えてくれた。
「おい、やめろよ」
「そうだ、ドードーだぞ」
そのまま友人たちに連れられて渡辺は戻ってこなかった。
葉ちゃんがちょっと振るえている私の手を取って、椅子に座らせてくれた。冷静になってから、なんで私が切れられなきゃいけないんだって思って怒りがわいてきた。
午後は明日の体育祭の準備で授業が無い。
私と葉ちゃんと遥、それからそこまで仲良くない倉田さんでペーパーフラワーを作っていたのだけれど、遥が「なんで渡辺の事考えてあげなかったの?」という言葉に手が止まった。
「どういう意味?」
「だから、千恵は渡辺が千恵の事好きだって知ってたじゃない。なのに、なんでこれ見よがしに別の人にハチマキ上げたりしてさ」
「・・・」
「愛華ちゃんのことだって、単に渡辺が千恵に嫉妬してほしくてやってたのに」
「知らないよ、そんなの」
「好き避けって教えたじゃん!」
なんだろ。すんごくもやもやする。
どうして私ばかりが渡辺の気持ちを考慮しなくちゃいけないんだろ。私の気持ちって無視なの?
「渡辺が私の事好きってのは、本人から聞いたわけじゃないし」
「そうだけど、でも!言えない男心をわかってあげなよ!!」
「ねぇ。やめなよ。千恵は渡辺の事、好きじゃないって言ってたじゃない」
「だって!」
「人の気持ちを強要するのってどうなの?渡辺が千恵のこと好きなら、千恵も渡辺のこと好きにならないといけないの?」
「それは・・・」
「渡辺も、好きならちゃんと気持ちを伝えたらよかったんだよ。それなのに、千恵に酷い事言ったり、愛華を使って変に企んだり。渡辺が悪いんじゃん」
遥は納得がいかないみたいで、不満そうにしていた。
そこへ、倉田さんが話に入ってきた。
「『好き避け』ってやってる本人とそれを知ってる周りは良いかもしれないけど、やられてる本人からしたら、最悪だよね」
「そう、そうなの!」
思わず倉田さんに共感。
「いくら好きだからって、やっていい事と言っていい事の区別がつかないなんてダメだと思うし、冷たくして好かれようなんて、馬鹿じゃないのって思う」
倉田さん、結構毒舌だったのね。
「でも、でもさ、ドラマや漫画だと、これを乗り越えて結ばれるじゃん!」
そういえば、遥は少女漫画が大好きだったっけ。
でもさぁ、漫画って・・・。
「漫画やドラマは、作者が最終的に2人を結ばせる設定でいるし、男が苛めすぎて自己嫌悪になったり、女が涙を流しながら耐えて、ってのを読者がハラハラしながら読めるように作られてるのよ。実際にイケメンで好きだけど苛めるやつと、フツメンで好きだから優しくするやつが現れたら、フツメンを選ぶって」
倉田さんが代弁してくれた。
私はうんうん、と頷く。
「でも、カッコよかったら、苛められても・・・」
「ないない」
ちょっと馬鹿にするように笑って、葉ちゃんが否定した。
遥がむっとした顔をして口を閉じる。
「遥はさ、今回の私と渡辺の事、漫画みたいって思いながら渡辺の応援してたかもしれないけど、好き避けは現実には呆れて離れて行かれるし、好きな子を苛めるってのも絶対に好きになってもらえないから。ほんとマジで」
「そうそう。小学生の頃、めちゃくちゃ意地悪してくる男子がいてさ。そいつが最近、『実は倉田の事が好きだったんだー』とか言ってきて」
「え?それでそれで?」
遥が倉田さんに食いつく。
「速攻断った」
「えー!なんでなんで!王道じゃん!」
「私からしたら、そいつ、ホント嫌いで思い出すだけでもムカつく黒歴史」
遥は非常にがっかりしたようだけど、私たち3人の総意は、好きな子には優しく。好きな子だけ特別に。好き避けしたって親展しない。苛めるとかもっての外。となった。
・
それから無事体育祭が終わって、期末テストが近づき、何と、海藤君からまた勉強を教えてもらえることになった!
ハチマキのお礼だって!やったー!!
でもね、最近隣に座って海藤君に勉強を教えてもらってると・・・心臓がドキドキしすぎて止まらないの。それから、目を見るとつい目をそらしちゃうって言うか。
渡辺の気持ちもわかるなーとは思ったけど、私海藤君に酷いことはしたいと思わないし。変に妄想ばっかり膨らませてるけど(笑)
期末テストが終わったら、クリスマスがすぐそこだし、誘ってみようかな!でもその前にテスト頑張らないと!
「岸田さんはさ、N大の経済学部の予定、だっけ?」
勉強が終わってから、海藤君は必ず私を送ってくれる。
日が落ちるのがすっかり早くなって、東の空にうっすら茜色が見えるだけの中、二人で歩きつつ海藤君が聞いてきた。
「うん、その予定。海藤君は?」
「僕はT大の理工科の予定」
「おぉー、さすが海藤君だね」
そう言いながら、ちょっと遠いなぁ。なんて思って寂しくなった。
「うん・・・・・それでね・・・・その・・・」
海藤君が立ち止まったので、私も立ち止まる。
「岸田さん、S大の経済学部とか・・・目指してみない?」
「え?」
「その・・・・大学が・・・・近い、から」
尻すぼみになったその言葉を飲みこむのに、10秒かかった。
薄暗い中で見える海藤君の顔が赤い。きっと、私の顔も、海藤君ぐらいに赤い。
「が、頑張ってみる。勉強、教えてくれる?」
うん、と頷いて、嬉しそうに海藤君が歩き始めた。私の手を引いて。
家に帰ってから、海藤君の触れた感触の残る手を見ながら、ずっとニヤニヤしていたので妹に気味悪がられた。
次の日、葉ちゃんに報告。
「へぇー。S大ねぇ。まぁ、死ぬ気で頑張れば、何とかなるんじゃん?」
「え?そんなに偏差値高いとこなの」
慌ててスマホを取り出して調べる。
そしてカタカタと震えだす手。
「わ、私・・・・・大丈夫かな」
「大丈夫じゃなーい?愛があれば」
愛。愛・・・・愛か。
「うん、そうだね!私頑張るよ!」
このあと、勉強の日々が私を待ち受けていたわけだけど、がんばった。
海藤君との未来を目指してがんばった。
途中記憶が抜けるぐらい頑張った。
親は、S大と聞いて一人暮らしも反対だし、受かるわけないと言っていたけれど、私が今までにないぐらい勉強をしているので、次第と応援してくれるようになった。
そして、春が来た。今日は卒業式だ。
空は抜けるような青さで、小春日和となった。
中庭に出ると、早咲きの桜が満開を迎えていて、メジロが蜜を啄みに来ていた。
式の前に、葉ちゃんと階段の踊り場に座ってしんみりしてた。今日で、みんなともお別れだ。
と、そこへ渡辺がやってきた。
思わず私は身構えてしまったが、渡辺はそっぽを向いたまま一言「悪かった」と言って行ってしまった。
目をパチクリさせながら渡辺の背中を見送っていると、葉ちゃんが苦笑しながら言った。
「まぁ、あいつ、根は悪い奴じゃないからさ。許してあげなよ」
「・・・うん」
「そろそろ、卒業式始まるから行こうか」
「そうだね」
「でもさ、合格発表が卒業式のあとだなんて、式に集中できないよねぇ」
「まぁねぇ。でも、落ちてたら卒業式に出たくないかも」
「それは言える」
私たちは笑い合って、体育館へと向かった。
渡辺のことは、当時の私も変に調子に乗っていて、アイタタタ・・・なところがあるし、渡辺の言動を思い出すとムカつくなって思ったり、ハチマキ事件の時に怒鳴られたのは今でも理不尽で納得いかないと思ってる。でも。
黒歴史だった!ってことで鍵をして海の底に沈めちゃうのは、なんか嫌だなって思った。大人になって思い出した時に、甘酸っぱい思い出となっていたらいいな、なんて思う。
あ、海藤君改め俊也君との思い出は、いつまででもキラキラだし、これからもたくさん思い出が増えていく予定です。