女刑事の駆け引き
私と彼は夏も終わりかけの9月に出会った。
もう十年以上前のことだ
いとこの精神科医である典紀君がきっかけとなったのだが…。
黒いスーツが似合う彼は警視庁の警察官
典紀君とは高校の先輩と後輩なのだそうだ
「有紀姉さん、高校の先輩が有紀姉さんに会いたいって言ってるんだけど…。」
出会う一か月前、別荘がある軽井沢で典紀君はこう言った
「いいけど、その人はなんて?」
越川さんって言うんだけど、その人自身からの話で。
なんと、向こうからのことだった
「新井有紀さんの別荘ですか?」
ひょこっと顔を出したのは紛れもなく、彼だった
私は何も言えなかった。好みのタイプど真ん中だったからだ
黒いスーツに眼鏡、長身の彼は越川達之です。と名乗った
「新井有紀です。」
彼はその直後、私を抱きすくめた
知ってますよ。声フェチの私をしびれさせる声
「先輩、有紀姉さんは声フェチなんですから。」
典紀君の声が遠くに聞こえる
新井刑事を落とすにはこれがいいと思ったんだ。
恋愛経験ないみたいだから
意地悪く言う彼の声
意識がなくなり、彼、達之との仲が始まった
東京に帰ると彼と組めと言う上司。
戦闘服は黒いパンツスーツだが、前に出ると緊張する
後ろから抱かれると弱い。
「有紀はシャイだな。」
ある日、一緒に飲みに行った際、酔った私を強く抱く彼。
「越川さんは恋人は…。」
俺は付き合うと離さないなんて言葉も言う。だが、それは本命にだけだ
すぐ返事も要求する。そのくせ俺は放置もする。
最悪な野郎で子供だ。有紀には母親のような心で受け止めてもらいたいんだ
浮気しても有紀の存在は隠す。
有紀はその時思った。主導権を握って達之を操作してもいいのだと
独自のフォームで牽制しようとする投手と塁上にくぎ付けになる走者
それが現段階の有紀と達之なのだった