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土曜・2

「ハルトさん! 起きてください!」

「ハルトマンさん!」

遠くで俺を呼ぶ声が聞こえて、体を揺らされる。

あの懐かしいような香りに包まれていた。

目を開けるとそこには、慌てている彼女の顔が見えた。

大きく伸びをして、枕元に置いてあった携帯で時間を確認するとまだ早朝と言ってもいい様な時間だった。

「こんなに早く出かけるのか?」

「お、お婆ちゃんが……」

「死んだのか?」

「死んでません! 勝手に殺さないで下さい」

彼女の幼い目が真剣な眼差しで怒っていた。

「婆さんにばれたんだな、俺を家に泊めたのを」

「は、はい」

そう言うと彼女は俯いてしまい、不安そうに視線が揺れていた。

仕方が無い、俺が悪者になればいいだけの事だ。

起き上がりジーンズを穿こうとすると彼女が真っ赤になり部屋を飛び出した。

シャツとボクサーパンツで寝ていた俺はとりあえずジーンズを穿いただけで部屋を出る。

ドアの側で彼女が真っ赤になって俯いていた。

「リビングに居るのだな」

返事は無くただ、彼女が小さく頷いた。


廊下の先にある階段を下りると、紅茶のいい香りと彼女に似た懐かしいような香りがしてきた。

リビングに目をやると彼女の祖母がこちらを見た。

みぞれ……」

思わず息を呑んだ、そして止まりかけた思考を何とか動かす。

どんなに思考を巡らせても俺に出来る事はただ1つしか無かった。

彼女の祖母の前に跪いて手を取り手の甲に軽く口付けをした。

後ろで彼女が大きく息を吸込んで驚きのあまり声も出ず立ち尽くしているのが判ったが、今はそんな事より何故もっと早く気付かなかったのかと後悔の念が先にたった。

「珍しい処で珍しい者に会うものね。ハルトマン・月城・シュヴァリェ」

俺は何も答えず頭を下げたままでいた。

「詳細は今夜で構わないわ。私の屋敷に一人で来なさい。場所は雫に聞いてね」

俺は何も言わずにただ頷いた。

「雫、ここに座りなさい。雫!」

「は、はい」

彼女が祖母に呼ばれて祖母の横に腰掛けた。


顔を見ると何が起きたのか判らず不安に駆られ瞳が揺れている。

「ロザリオを出しなさい」

そう言われて彼女が首に掛けてあるロザリオを祖母の霙に渡した。

すると今度は霙が自分の首に掛けてあったロザリオを取り出した。

「お婆ちゃん、それはお婆ちゃんのお姉さんの形見のロザリオ」

「今日からは雫が持っていなさい」

「えっ、でもこれは」

そのロザリオにはピジョンブラッドのルビーが真ん中に埋め込まれていた。

「前から不思議に思ったのだけれど私達はカトリックでもないのに……」

彼女がそう言うと霙が彼女の口に人差し指を当てた。

「形見と言ったはずよ、訳は追って雫には教えるからね」

「う、うん」

そして彼女は霙に言われるままロザリオを持ってルビーを上に向けた。

「それじゃ、仮契約をお願いね。ハル」

そう言って霙は辺りを見回した。

「必要ない」

それだけ言って俺は霙が持っているロザリオを掴み右手で強く握り締めた。

すると、ロザリオが掌に喰い込み血が滴る。

その血を彼女の持っているロザリオのルビーに落とすと一瞬だけルビーが光り輝いた。

「盟約のままに」

そう告げて立ち上がろうとすると霙に手を掴まれた。

「あなたと言う人は相変わらずなのね。雫、救急箱を」

「えっ、は、はい」


彼女が昨夜の救急箱を慌てて持ってくると霙が傷の手当てをしている。

それを彼女が不思議そうな顔で見ていた。

「お婆ちゃん、ハルトさんはそんな事しなくても」

「雫はハルの正体を知っているのね。それなのに何故ここに?」

「俺が彼女を脅して居座ったのだ。彼女は何も悪くない」

俺が口を挿むと霙が彼女と俺の顔を訝しげに見比べていた。

沈黙が流れる、すると霙が溜息をついた。

「そう言うことにしておきましょう」

「お婆ちゃん?」

彼女が不思議そうに声を上げた。

「怒ったりはしません、安心なさい。でも事後報告はいけません、判るわね雫」

「ゴメンなさい」

「でも、ハルで安心したわ。彼ならあなたを守ってくれるでしょう」

「お婆ちゃん?」

また彼女が不思議そうに声を上げた。

「雫はまだ何かあるの?」

「その、ハルトさんの手は……」

「この傷は簡単に治らないわよ。馬鹿みたいに銀で傷を付けたりするから。この人の体は銀で傷をつけると治りが遅いのよ」

「本当に、大馬鹿なんだから……」

未だにこの人は俺の事を人間だと言ってくれるのか、そんな事を考えて居ると不意に霙に抱きしめられた。



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