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理由・2

放課後になると俺は水蘭といつもの様に話をしていた。

それが日課になっていた。

他愛の無い昔話など闇の世界の話を、理由? 

それは簡単な事、こんな話を出来る奴には滅多に出会えないからそれだけの事。

粛清や懲罰する事が宿命の俺達は独りで行動する。

水蘭の様な水の中の物はそれなりの配下を従えるが差して変わりは無い。

綺麗な言い方をすれば俺達は戦友の様なものだった。


そんな事が日常になり始めた時。

生徒の悲鳴でそんな日常は壊された。

悲鳴を聞いた瞬間、雫に何かが起きたのが直感で判った。

中庭に向うと傾いた日差しに割れたガラスがキラキラと反射している。

それを遠巻きに見るように2人の雫のクラスメイトが立ち尽くしていた。

放課後という事もあり他の生徒は見当たらなかった。

騒ぎを聞きつけた生徒や先生を水蘭が追い返した。

追い返したというかセイレーンの声で惑わしたという方が正しいのかもしれない。

そして雫がガラスの破片の真ん中に横たわり鳩尾の辺りから真っ赤になったガラスが突き出ていた。

そんな雫の姿を見た瞬間。

忌まわしい過去の出来事がフラッシュバックして押えていたものの箍が外れて暴走し始めた。

体がガタガタと振るえ。

禍々しいオーラーを抑えることが出来ずどす黒い影が体からあふれ出た。

雫と時雨の面影が重なり我を忘れるように横たわる体に近づこうとした時に水蘭が目の前に立ち、行く手を塞いだ。

「水蘭! どけ! 貴様でもただじゃ済まさないぞ、邪魔をするな!!」

「落ち着きなさい、今のあなたでは彼女は救えない。それ以上暴走するのなら結界を守る者としてあなたを排除します」

「やってみろ」

そう言った瞬間に水蘭の瞳から一滴の泪がこぼれ、俺の頬を水蘭が打ち抜いた。

「あなたにしか彼女を救うことは出来ない。あなたが冷静さを失ってどうするの?」

そして背後から気に障る声がした。

「貴様の所為だ、やはり貴様は月の者の厄病神だ!」

足元に落ちていたガラス片を掴み、振り向き様に投げつけると大上の頬を掠め髪の毛を一掴み切り裂いて後ろのコンクリートの壁にガラス片が突き刺さった。

大上は慌てて逃げ出した。

「シュヴァリェ! 急ぎなさい」

雫の横に跪き雫の名を叫びながら雫の顔を覗き込む。

雫が何かを喋ろうとしていたが声になってなかった。

そして雫の鳩尾から突き出ているガラス片を掴みゆっくりと引き抜くと、ゴボッと音がして雫の口から大量の血が噴出した。

それを雫が手に触り虚ろな目で見ている。

「どうするつもりなの? ここには銀のナイフなんて無いわよ」

「慌てるな、そんな物は必要ない。俺にはこれがあるからな」

そう言って右手で徐にわき腹に手刀を突き刺すとワイシャツを突き破りシャツに血が滲む。

体の中に手首がズボッとめり込み俺の口から血が噴出した。

「かはっ……」

「な、なんて事をするの?」

水蘭の言葉に耳を貸さずに歯を食いしばり体の中に封印していた物をわき腹から力一杯引き抜いた。

「鬼切り……そんな物を体の中に」

それは180センチはあろうかという大太刀の日本刀だった。

「シュヴァリェ、あなたまさか!」

雫の体の上で大太刀の刀身を一気に左腕に走らせる。

ザックリと傷口が広がり血が止め処なく溢れ出た。

その血を雫の傷口に流し込んだ。

俺の血が蒸発する間もなく雫の傷口に流れ込んでいく、雫の傷口は徐々に修復されていく。

始めは体に開いた穴から背中側に血が流れ出ていたが直ぐに止まる。

背骨が形成され肺に開いた穴がふさがり動脈が繋がる。

そして綺麗に皮膚が修復される。

右手で雫の体を起こして背中の傷を確認する。

幸いな事に切り傷程度で大きな傷はなさそうだった。

しかし、女の子の体に傷跡を残すわけにはいかずガラス片を掃い。

雫の体を右手で抱き上げて芝生の上に体を移動させて雫の背中に左腕を押し当てた。

「はぁ、はぁ、はぁ、」

俺の呼吸音だけが中庭に響く。

「それ以上は、あなたの体が」

「口を出すな。俺は死にはしない」

しかし、もう動き回れるだけの血も力も残っていなかった。

その場に座り込んで刀を封印する為に刀身を掴んでわき腹に突き刺し、徐々に体の中に押し込むと噛み締めた口角から一筋の血が流れ落ちた。

その血をいつの間に来ていたのだろう。

雪乃がハンカチで拭ってくれた。

何とか間に合った様だった。

いくら治癒能力が高いとは言え死んでしまった人間を生き返らせる事は出来ないのだ。

雫の胸は小さく上下している、そして可愛らしい寝息を立てていた。

ポケットから車の鍵を取り出し背後にいる水蘭に投げつけた。

「悪いが雫を婆さんの屋敷に運んでくれ」

「あなたはどうするの?」

「動ける状態なら俺が連れて行く」

それだけを言うと水蘭が雫を赤ん坊を抱くように抱き上げて中庭から立ち去った。


俺が立ち上がろうとすると何かが俺の肩を押さえつけた。

見ると雪乃と奈々枝、それにミコが3人がかりで俺の肩を押さえつけていた。

雪乃が俺の左手を掴むとミコが刀傷に薬を塗り、奈々枝が包帯を巻き終わると3人がポロポロと涙を流しながら俺にしがみ付いてきた。

「もう雫は大丈夫だからな、お前達はいつも優しいな」

3人はただ首を横に振っていた。

「悪いが片づけを頼めるかな? 俺はあまり動けない、体を休めたいのだが」

そう言うと3人は俺の体から離れてガラス片を片付け始める。

「すまないが後は頼んだよ」

そう言い残して俺は中庭から姿を消した。



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