プロローグ
朝の駅。
次々到着しては出発していく電車。
幾つも並ぶプラットホーム。
電車の到着が近いことを報せるメロディやアナウンス。
喧噪と人混み。
首都の朝は既に全力稼働の様相だ。
また一つ、満員電車がプラットホームに到着する。
短い黒髪で目が細く、面長の男・多田晃は人の流れに乗って電車を降りてきた。薄い色のビジネスカジュアルに身を包み、ビジネスバッグを手に提げている。
多田は人混みが進むのに紛れ、駅のプラットホームを歩いていく。階段を上っていくと、正面に巨大なデジタル広告が見えてきた。広告は動画になっており、この世のものとは思えない絶景が次々と映し出される。
『圧倒的な体験を、全身で』
映画さながらの重厚な音声が動画の雰囲気を彩る。
広告の前では幾人かが立ち止まっており、広告を指差して話しているのが聴こえてきた。
「あーこの世界絶対行きたかったやつー!」
「行こー行こー!」
「魔法体験ツアー再開したのか、行きたいなー」
「今年の夏は氷の世界にでも行くか」
とても楽しそうである。
これはゲームの広告ではない。
れっきとした旅行の広告だ。
その行き先が国内でも海外でもないだけで。
広告を見て心躍らせる人達を見て、多田はニンマリと口の端を上げた。皆のウケが良いようでとても喜ばしい。何せこれらのツアーを企画しているのは自分なのだから。
多田は広告を横目に歩いていき、上機嫌で改札を出た。心の中では陽気な声が外界に漏れ出そうなほど沸き立っている。あーもう、声を大にして言いたい。このツアーを企画したのはこの俺だ! 俺なんだ! 異世界旅行社MTCJをよろしく!
周囲のサラリーマンは大体が俯いて歩いており、多田を見向きもしない。そんな中を多田は今日も頑張るぞと気を吐いて会社へ向かった。




