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3話:八椿村の次期村長(3)

ちりんちりん。

鈴の音が鳴り響く。

ざわざわと笑う声のように、風の音と共に鳴り響いた。


「ふぅ……」


暗闇の神社の中で三度目の目覚め。

意識が覚醒し始めると視界の中にはリンがつまらなさそうに地面を蹴って待っていた。


「はぁい、お目覚めかな?アーくん」

「アーくん……?」


酷く狂気じみた声で笑うリンに、思わず動揺した。

その隙にリンは脅威的な速度で距離を詰めてくる。

武器は手にしてない。ただ、急に距離を詰めて、俺の表情を覗き込んでくる。


「うんうん、覚醒してるね」

「ほんとにリンなのか……?」

「こんなに可愛い人間がリン以外の誰だと言うの?」


リンはその場で一回転した。

リンの服装は、白い着物を着崩して肩を出し、中には首元に装飾品としてチャックのついた黒いインナーを着ている。インナーの物自体はコウスケや俺に似ていた。

そして、白い着物は、腹の部分で黄色い帯が巻かれてタイトスカートのようになっていた。そうして、そのスカートの下には、膝までの黒いスパッツを履いている。足は足袋に草履だった。

現実のリンとの、あまりの違いに相手のペースに飲まれていると、今度は双剣を手にして突っ込んできた。


「リン以外いないよね~!」


攻撃を咄嗟に抜いた刀で受け止め、弾き返すと、リンは軽やかに着地した。


「なぁ、リン」

「なぁに、アーくん」

「リンなら知ってるのか。ここはどこなのか」

「あー。うん、知ってるよ~。

そっかそっか、アーくんは村から離れてたから知らないんだね」


リンは双剣の内、片手を縦方向に回して「どこから話そうかな~」と考えていた。


「アーくんの手の甲には三日月のような弧を描いた模様はあったよね?あれはねぇ、スズナリ様の印。

どうしてそんな印が付くのか。それは、神社の敷地内にある百年椿が関係しているの。見たことある?椿」

「普通の椿なら……まぁ」

「百年椿は特殊でね、スズナリ様という存在に一番初めに供物となった娘──フジヒコくんの先祖が死んだ場所で生えた椿で、百年に一度しか咲かない。

その椿が咲く年は、スズナリ様の供物となるこどもが産まれる」


リンは淡々と話していく。


「丁度私たちが産まれた年が百年椿の咲いた年だった。

そうして、私たちの手の甲には、伝承通りに供物となるこどもの証──スズナリ様の印が刻まれた」

「供物──」

「あっ、刻むといっても刺青とかじゃないの。

よく分からない現象で浮かび上がるだけだから……。

んでまぁ……、だから、私たち、印のある人間はユメセカイへとやってきてスズナリ様に供物を捧げる。

スズナリ様に選ばれるために」


──理解できなかった。


「待ってくれ、リン」

「ん?」


リンは、もう良いよね?と言わんばかりに双剣を構えていた。


「供物って結局何なんだ。なぜ、選ばれるために供物を捧げる?」

「供物は私たちの命だよ」

「昼間は別のものを供物として捧げていると言っていたじゃないか」


リンはうんうん、と頷く。

あの言葉自体には肯定的な態度で、あれは何も間違っていないのだと、この世界のリンは言っている。


「別物だよ。捧げられる命たちは私たちの本当の命じゃないもの。現代は昔のように直接欲しなくなった。

こんなセカイに閉じ込めて、何度も何度も殺し合わせる。そうすることで効率的な供物を得て、腹を満たしたいのかもしれない。

そして、なぜ、選ばれるために供物を捧げさせるのか……それは、欲がなければ、こんなことをしないからかもしれない」


リンは一瞬で距離を詰めてきて、俺の首をはねようとした。

リンは的確に命を刈り取ろうと連撃を仕掛けてきた。


「ユメセカイは、スズナリ様のユメのセカイ。

命を捧げて、選ばれる。

村のみんなは家族が、血縁者が、スズナリ様に選ばれることをずっと願っている。それは栄誉であり光栄なことだから。

私には何が光栄なのか分からない。

だけど。だから、私たちはみんな殺し合う」


リンは口角を下げて、途端に感情を消した。


「だから──死ね」


そういってリンは駆けてくる。


「あははっ!」


あれだけ、笑って説明してくれたリンは、今は同じ言葉を繰り返して、まるで自身の行動を頭で考えずに身体の反射、身体の思うがままに動いているようだった。


──身体が何者かに操られているような感触は、俺も感じたことがある。

リンは、どう思っているんだろうか。


「遅いっ!」

「くっ……」


諦めにも近い脱力を感じるその連撃は、かえって行動が読めず、反撃の一手を生み出せない。


──どうして。命を捧げて選ばれることが栄誉であり光栄なんだ。分からない。


リンは一呼吸置くために一度後退すると肩の力を抜いて、空を仰ぐ。

リンの呼吸が聞こえなくなった瞬間、真っ直ぐこちらを見据えて構える。地面を蹴り、風を真っ向から浴びて向かってくる。


──リンがもうトドメを刺すつもりなのなら。


俺も駆け出すとお互いの距離が近くなっていく。

あと一歩、詰めたら刃が交ざるだろうという距離で、俺はいきなり後退した。リンは、先手を狙っていたのだろう。

双剣の右手側を速くし、速度を僅かにずらして刀を弾いて、無防備となった俺の首を刈り取ろうとしている動きであった。

しかし、それは目の前で空振りする。

その瞬間のリンは、驚き、そして、達観した表情だった。


「アハッ……おめでとう」


微かに祝福の声が聞こえた瞬間、俺の右腕はリンの首を確かに跳ね、リンの頭は参道にぐちゃりと、物々しい音を立てて転がり落ちる。


「っ……あぁぁ……」


生々しく残る、三度目の手の感触に、恐怖を抱いた。

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