3話:八椿村の次期村長(2)
「ぐ、偶然だねっ、アキラくんっ」
「お久しぶりだね~」
「久しぶり、タクヤ。リン。二人とも大きくなったな」
光の正体は車に乗っていたのはタクヤとリンだった。
助手席に座っているリンはかつての幼馴染の可愛い妹だけでは飽き足らず、綺麗になっていた。
そして、運転席に座っているタクヤもまた、女の子にモテそうな甘い顔に優しい笑みを浮かべており、幼い頃から整っていたコウスケやユイ姉とは違った路線で成長していた。
「あ、アキラくんも大きくなったね~……」
「うんうん~。一瞬誰だろ、って思っちゃったよぉ」
「しかし悪いな……コウスケの家まで送って貰うことになってしまって」
「ううん~。車ならすすーいとあっという間に着いちゃうから、街灯がない中歩かなくたっていいんだよ~」
二人は相変わらず優しい。
昨日からの悪夢で荒む心が癒されていくのを感じる。
「コウスケから聞いてたけど、アキラも大学生なんだってー?
学部はどこにしたの~?」
「俺は情報学部にしたんだ。情報工学とか気になって……。タクヤやリンはどうしたんだ?」
「僕は自然科学だよ~。鳥が好きだから、そういう動物の生態を学びたくて。リンは民俗学部だよね~?」
「う、うんっ!
私はスズナリ様とか……昔から触れてきたから、そういう地方で祀られる神様について知りたくて……変、かな」
首を横に振る。
「変なんてことはないさ。
学びたいことがあるなんて、良いことだろうし」
それは、自分自身への肯定の言葉でもあった。
「そ、そうだよねっ」
リンが優しく微笑むとタクヤも優しく微笑んだ。
──い、癒される……。
二人とも昔から口数は多い方ではなかった。
どちらかというと、会話の中心はほとんどコウスケとユイ姉で、俺はコウスケが話してくれた言葉を広げることが関の山だったから。
それはどうやら今も変わらないようで、タクヤとリンは少しづつ、自分たちのペースで会話を広げているようだった。
ふと、民俗学を学ぶリンに尋ねたいことが思い浮かぶ。
「なぁ、リン」
「な、なぁに?」
聞いてもいいんだろうか?
頭に浮かんだその疑問は、名を呼んだ今頭から追いやった。
「……スズナリ様って、なんだっけ」
リンは、んぅーと……、というと、説明してくれる。
「な、長くなってしまうのだけど……スズナリ様はね、八椿村の守護神。
八椿村は立地的に山に囲まれているのだけど、村の周りにある山の地盤は弱くて、木の根は深くまで根付けない。そのせいで、大雨や台風が起こると度々で土砂崩れが発生して村人が亡くなってたの。あっ、それが八椿村の由来ね。
その現状に嘆いた村人たちに祀られる始めたのがスズナリ様。
当時の村長の娘さんが丁度神社の北西──山に近い方でお願いしたの。
『スズナリ様、私の命を供物として捧げます。だからどうか村を守ってください』って。娘さんは土砂崩れに巻き込まれて亡くなってしまうのだけど、それ以降、村には土砂崩れが起こらなくなった、という逸話があるの。それがスズナリ様」
「スズナリ様の供物は……人の命」
「い、今は違うよ……?
今は……神社で別のものを供物としてお供えしてるから」
──現実ではそうであっても、ユメセカイなんていう摩訶不思議なセカイなら、供物が命であってもおかしくない。
「よかった。ありがとう、リン」
「う、うんっ!」
「ついたよ~」
気が付けば、コウスケの実家の商店の前まで着いていた。
家の前では手を振っているコウスケがいた。
「コウスケ!どうして……」
「わ、私が連絡しておいたの」
「リン、タクヤ。ありがとうな。
アキラもすまない。置いていって……」
「大丈夫。その、ユイ姉は大丈夫だったのか……?」
「あぁ。起きたら開口一番に家に戻って夜ご飯の支度しなきゃって飛び出していきそうだったから、連れて帰っておばさんたちに話しておいた」
「ユイちゃんらしいね……」
そんなこんなで、軽く立ち話を終えて、リンとタクヤが帰って行った。
コウスケも晩御飯を待っていてくれたらしく、一緒に食べたあと、風呂に入って……精神的な疲弊があったのだろうか。
そうして、気がつけば再び夢の中へと潜っていた。




