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1話:故郷と幼馴染(3)

ちりんちりん。

鈴の音が鳴り響く。

頭の中で繰り返し、それは目覚めを促すように鳴り響く。


「う、ぅ……」


目を覚ますとそこは、数時間前にコウスケと訪れた、村の象徴とも言える神社であった。

辺りは暗闇で包まれて、神社の前に置かれている灯台と頭上を見下す月と星の明かりでここが神社だと視認できている。


「なんで、神社に」


俺の違和感はそれだけではなかった。

格好も見覚えのない姿だった。

黒い首元まで覆われたインナーは半袖程の長さまでしかなく、しかも身体のラインに沿っていて、その上に白い羽織りを着崩すように羽織る。そして、ズボンはサイズ感はピッタリなインナーと同じ黒のスラックスを履いていて、足元は黒の光沢かかった革靴である。


しまいには、腰には打刀程度の長さの刀が鞘に仕舞われてぶら下がっているのだ。ゆっくりと抜刀すると、その刀は光が反射して輝いている。刀身も波打って美しい。世の中、武器として使われていた刀を芸術品として扱う理由がわかる逸品であった。


「しかしなんで、こんなものが……」


刀の角度を変えてみていると、ふいに映る人間の姿に驚く。

顔をあげると、目の前にいたのは傘を差して、俺の格好とは真逆にゴシックロリータを身に纏う少女?であった。


少女は、傘の角度を変えてこちらを見つめると、その瞳、その顔つき、その髪──どれも、昼間初めて会ったフジヒコに類似している。


「君は何者だ」


どういう訳か、俺は彼女に手にしていた刀を突きつける。

別に彼女は敵意を見せた訳でも、こちらを挑発した訳でもない。俺の身体は、俺の意思に反して少女へ敵意を見せたのだ。

しかし、目の前に少女は微笑むだけだった。

降伏するわけでも、争う姿を見せる訳でもない。

ただただ、こんな真夜中に傘を差して、優雅に微笑んでいるだけなのだ。


「貴方はここがどこか分かる?」


質問に答えない彼女は、飄々と質問してきた。


「俺の質問に──」

「私はこの世界の審判──あなたはここがどこか分かる?

アキラくん」


俺は首を横に振った。

少女は「そうよね」と呟くと、俺の姿を足先から頭上まで眺めて微笑んだ。


「ここはユメセカイ。スズナリ様に供物を捧げるためにいる」


──ユメセカイ?

──供物?

わけが分からない。


「何を言って」

「供物を捧げて」

「供物ってなんだ──」


俺が一歩足を踏み入れると、その瞬間、目の前の少女は心臓を貫かれ死んでしまう。

少女は力なく倒れていく。


「待て……!」


少女に近寄り、身体を揺さぶる。

彼女の整った顔はそのままに、口の端から血を流し、目は虚ろに前を向いたままである。身体は既に重い。

──こんなこと、一体誰が。

矢の軌道をなぞり、視線を向けていくとそこは、神社の真上──

そこにいたのは、弓を構えているコウスケだった。




コウスケの姿もまるで見た事がなかった。

俺とよく似た首元まで覆われたインナーは肩が出ている。

右胸には胸当てが付いていて、下半身は黒い袴を身にまとっている。


「コウスケ……!」

「……裏切り者」


コウスケは、無から矢を取り出して再び構える。

その矢先は、明らかに俺を向いていた。


「クソッ……」


横に避けた瞬間、先程まで立っていた位置に矢が降ってくる。


「コウスケ、どうして人を手にかけた……?!」

「……」


コウスケは何も答えない。

ただ、一方的に矢の雨を降らせ、俺の命まで狙ってくる。

──寝るまでのコウスケと雰囲気が違う。

さっきまでそこで息をしていた少女の言葉を思い出す。


「ユメセカイ……供物を捧げるために……」

正直、思い出したところで理由なんて分かりっこなかった。

だけど、コウスケにも理由があるんだと思うと、一度、同じ目線で話し合うしかなかった。

──どれだけ走っても息が上がらない。感じる風も早い。つまり、身体能力が高くなってる。それなら。


俺は、コウスケの矢を左右に避けながら、神社の中で最も足場が安定している参道を蹴り上げた。

思った以上に身体は軽く浮かび上がり、コウスケの矢を避けるための屋根までが遠い。


そんな行動もお見通しかのように、目の前にいる冷酷な男は矢を放つ。しかし、動体視力も格段に上がっている今、剣を振るうと矢を斬り捨てることができる。

同じ目線、同じ場所。

コウスケは獲物的に距離を離そうとするが、俺の方が早い。


「コウスケっ!!」

「俺を、親友と呼ぶ癖にどうしてッ!」


名を叫ぶのと同時に、目の前にいる男の左腕を落とした。


「ぐぅッ」


コウスケの整った顔は苦痛に歪む。

咄嗟の反抗としてコウスケは矢を俺の左腕に突き刺すが、刺した瞬間に俺の右手に握られた刀は、コウスケの心臓を突き刺した。自重で自ら深く刀に刺されるコウスケは、血反吐を吐いて、アキラの顔に手を伸ばす。


「供物を……」

その言葉を最後に、コウスケは目を瞑った。

手には、コウスケの生々しい体温と肉を貫く感触だけが残った。



「っはぁ!」

覚醒は突然だった。

呼吸は浅い。

身体も熱い。

頭は痛みを訴えて、身体中が警告音を発しているように軋む。

周囲を見渡すと、そこは真夜中の神社ではなくて、眠りについたコウスケの部屋だった。

敷布団から出て、ベッドの上で眠るコウスケの顔を除く。

俺の焦燥感に反して、コウスケは綺麗な顔で一定のペースで呼吸を繰り返し、安らかな顔をして眠っている。


「コウスケも、生きてる……」


自然と息を止めていたようで、コウスケが無事であることを確認したら肺の中の空気が一気に吐き出されていく。


「……温かい」

手には生々しい感触だけが残っている。

──これは、現実ってことでいいんだよな。

アキラは寝巻きとして着ているシャツで汗を拭った。

そして、気が付いた。

寝る前までは右腕にだけできていた、アザのような模様が左腕にもできていることを。

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