4話:八椿村の番犬(1)
「ふぁぁ……」
「コウスケ……」
「客は見知った村人だけだし、どうせ来ない。
気にしなくていいさ」
俺はコウスケと共に実家の商店の店番をしていた。
といっても、店の奥にある和室に座っているだけ。おじさん達がよく見ていた今じゃすっかり型落ちしたテレビをただただ流してぼけっとしているだけだった。
「今って、村にこどもはいないのか」
「ユイの姉世代がこどもを産んだくらいで、まだ赤子だし……
俺らより七つ下の世代に何人かいただろ?その世代はみんな村の外に出たから、今はいない」
思ったより、この村は深刻だった。
まだ、赤子が数人生まれているだけうんとマシなのかもしれないが、限界集落に近いこの村は、そんなにもこどもがいないなんて。
「親父たちの世代はまだいいが、その上になっちまうと足腰も悪くしてて、最近は商店に来るより配達してるかな」
「そういうもんか……」
「だな」
二人で茶を飲んで一息つく。とにかく、やることがなかった。
そんな中、おはよぉ~、といって気の抜けた声が、商店の入口から聞こえる。
「タクヤ!」
コウスケが和室で横になって入口の様子を見ると、紙袋を持って手を振るタクヤの姿があった。
「昨日まで合宿だったから今日は休みでね~。
お土産と一緒に来ちゃったよ~」
そういって、紙袋の中身を机の上に広げる。タルト、ケーキ、クッキー……お土産でよく売られていそうなものが、机に並ぶ。
「ほら、地域限定って書いてあるんだよ~」
果物を使った地域ならではのお菓子たち。
「さすがタクヤ、センスがいいな~!食べていいのか?」
「もっちろん~」
コウスケは待ってろ、と告げて離席すると、紙皿とフォークをもって戻ってくる。そして、それぞれの目の前に置くと、ケーキから分けて食べ始めた。
口に含んで、コウスケは閃いたと言わんばかりに急に立ち上がる。
「立ったまま食べるなんて、お行儀悪いよぉ~」
コウスケは、んっ、と言ってその場で口に含んだものを咀嚼して飲み込むと口を開いた。
「そうだ、久々に三人でゲームでもするか!
アキラもいるし、今日こそ負けないぞ」
「受けて立つ~」
「いいなぁ!」
こうして、久しぶりに集まった男三人でゲームをし始めた。
「完敗だ……」
俺とコウスケは頭を抱えた。
こう見えてもゲームは得意であると自認している。決して実力も申し分ないはずだ。しかし、目の前にある液晶に映る結果は──。
「ぶいっ~」
タクヤの圧勝だった。
「タクヤ。今度から一緒にファンタジーセカンドやろう」
「何それ~」
「俺とコウスケがやっているオンラインゲームだ」
「ふふ、楽しそう~」
タクヤの返答はあまり本気で思っていない。
コウスケはクソー、と言いながら寝っ転がる。白熱した試合を終えて、みんなゲームに対する集中力が散漫し始めた。だから、俺は思いきって尋ねた。
「そういや、タクヤは大学を卒業したら村を出るのか?」
タクヤは、んー、と渋い反応を見せる。
「村から出るつもりはないんだ──リンは村にいるだろうから。
だけど、教員になりたいなって……えへへ、オレじゃ無理かな?」
「教員か……大変だぞー?」
「タクヤが先生か~。色々心配なところもあるが、いいんじゃないか?こどもにも好かれるんだし」
コウスケは俺の言葉の後に少し間を置いて肯定した。
実際、タクヤは歳下の子たちに好かれやすかった。誰にでも優しくて雰囲気も良いタクヤは、誰が見ても親しみやすいところがあった。
「ふふ、ありがと~」
タクヤは頬をかきながら照れくさそうに笑う。
「そういえば、リンが村に残るって……リンは何か目指してるものがあるのか?」
「うーん。リンからはその辺を聞いていないんだけど、リンが進学したのは村長を継ぐために、この村の神社を、スズナリ様を理解したかったからだろうから」
「──そうか」
リンは性格こそ控えめで独特な雰囲気を持つが、理解力も高いし、何より村への思いは人一倍熱い子だった。
「それで……しないの?続き」
タクヤはコントローラーを肩ほどまで掲げて勝気に笑う。
コウスケはその煽りを受けて、「受けて立つ!!」と意気込んでは夕方頃まで挑み、タクヤが帰る直前まで惨敗を重ねた。




