第8話 かわいいは正義。
ひよりは、派手な時計はつけていない。
ピンクベージュの革ベルトに、ローズゴールドのケース。
文字盤は白で、数字が小さい。
アクセサリーみたいに軽い。
いとが、ひよりの手首を見て言う。
「それ、かわいい」
ひよりは照れたみたいに目を逸らす。
「……でしょ。かわいいのが好き」
その返しが、柔らかい。
いとは笑って、私に目線を送る。
「琴葉ちゃんも、こういうの似合いそう」
私は、反射で首を振りかけて、やめた。
否定すると変な空気になるのを、最近覚えた。
代わりに、ショーケースの中を見た。
たしかに、かわいい時計はたくさんある。
小さくて、丸くて、色が淡くて。
“かわいい”っていう評価軸が、こんなに成立するのが面白い。
ひよりが、店内の時計を眺めながら言う。
「かわいいって、正義だと思う」
いとが、即答する。
「正義」
店長が、カウンターの奥で笑っている。
「君たち、今日、正義の話しかしてないね」
「正義ですから」
いとが真顔で言って、ひよりが小さく吹き出した。
その笑い声につられて、私も口角が上がる。
(この感じ、好きかも)
時計の話をしているのに、結局は“人”の話になってしまう。
でも、それがいい。
閉店間際、私はひよりの時計を改めて見た。
“似合ってる”って、こういうことなんだろうなと思った。
【登場時計ミニ紹介】
・Daniel WellingtonPetite 28 など:小ぶりで軽く、アクセサリー感覚で使いやすいデザインが多い。




