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第7話 時計を選ぶということ。

父の時計が戻ったのに、私はバイトを続けていた。

理由は、説明できない。

やめるタイミングを失った、とも言える。


放課後、いとが店に来た。

その後ろから、もう一人、控えめに入ってくる子がいた。


茶色の髪。落ち着いた目。

いとほど前に出ないのに、いとが横にいると、ちゃんと並んで見える。


いとは当然みたいに言う。

「今日、ひよりも連れてきた」


ひより――高瀬ひより。

いとと同じクラスで、幼なじみで、親友。

名前は、前にいとから何度も聞かされている。


ひよりは店内を見て、少しだけ目を丸くした。

「……思ったより、落ち着くかも〜」


「でしょ」


いとは得意げに言うけど、ひよりは笑うだけ。

その笑い方が、控えめで、ちょっと安心する。


店長は二人に「いらっしゃい」と言って、いつも通りに作業へ戻った。

特別扱いしないのが、この店らしい。


いとはショーケースの前で、指を動かす。

「琴葉ちゃんさ、時計って“選ぶ”って感覚ある?」


「……ない。時間見れれば、いいし」


いとはうなずく。

「最初はみんなそう」


ひよりが、ぽつりと言った。

「私は、服に合うかどうか、かな」


それが“ひよりらしい答え”で、いとが嬉しそうに笑う。

「うん、それも立派な選び方」


私は二人の会話を聞きながら、ふと思った。

時計の話をしているのに、空気が硬くならない。

これは、二人の距離が近いからだ。


ひよりは店内の椅子に座って、私のエプロンを見た。

目が合う。

言葉はないのに、なんとなく「がんばってるね」って言われた気がした。

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