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第6話 父の時計、おかえり。

修理が終わったと聞いたのは、閉店間際だった。


「できたよ」


店長が、小さな箱を出す。

ふたを開けると、父の時計が眠っていた。

眠ってるのに、なぜか“起きてる”感じがする。


私は、息を吸ってから箱を持った。

手のひらの上の重みが、少しだけ前より軽い気がした。

きっと気のせい。


支払いのとき、私はレジの数字を見ないようにした。

見たら、現実に引き戻されそうだったから。

でも、財布の中が軽くなる感覚だけは、誤魔化せない。


帰り道、箱を胸に抱える。

店の灯りが背中に遠ざかっていく。


家に着いて、父がソファで新聞を読んでいた。

私は黙って箱をテーブルに置く。


父は一瞬で気づいた。

新聞を畳む手が止まって、箱に目が吸い寄せられる。


「……直ったのか」


「……うん」


父はふたを開け、時計を手に取った。

そこから先は、言葉より、所作のほうが多かった。

針を確かめる。文字盤を見る。ベルトを指でなぞる。


そして、静かに言った。


「ありがとう」


短いのに、すごく深い言葉だった。

私は、返事が遅れた。


「……別に。たまたま」


たまたま、じゃないのに。

でも、私の口から出るのはいつも、そういう逃げ道つきの言葉だ。


父は時計を手首につけた。

そして、ふっと笑った。


「これ、昔な。初任給の次の次くらいで買った思い出の時計なんだよ」


「……高そう」


「高かった」


父はあっさり言う。

「でも、あの頃は“背伸び”が必要だったんだと思う」


父が語るのは、大げさな思い出じゃない。

上司に怒られた話、雨の日の満員電車、コンビニで買ったコーヒー。

そういう“普通”の中に、時計がずっといた。


「時計ってさ、時間を測るだけじゃなくて……」

父は言いかけて、やめた。

その代わりに、私の頭をぽんと撫でた。


「無理すんなよ」

「ありがとうな」


(……バイトのこと、言ってないのに)

私は、黙って頷いた。

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