第4話 となりの時計マニア。
その子は、雨の日に現れた。
銀髪、というより、光の加減で銀に見えるような淡い髪。
制服ではなく、ニットとチェックの羽織で、妙に大人っぽい。
でも顔立ちは私と同じくらいの年齢で、目がキラキラしている。
「やっほー。まだ開いてる?」
店のベルを鳴らしながら、当たり前みたいに入ってきた。
店主のおじさんが「ああ、いと」と言った。
(いと……?)
彼女は店の中を見渡して、私のエプロンに目を留めた。
「え、新しいバイトの人?」
「……はい。」
「ふーん」
興味深そうに、私の手元――というか、時計の置かれたトレイを見る。
そして、さらっと言った。
「琴葉ちゃん、っていうんだ」
「……うん」
「私、羽鳥いと」
名乗り方が、妙にちゃんとしている。
私は、名前を聞かれていないのに、つられて言った。
「……真田、琴葉です」
「よろしく!」
いとは笑って、ふわっと距離を縮める。
その距離感が、慣れている人のものだった。
この店と長い付き合いがある、と空気だけで分かる。
「てか、琴葉ちゃんってどこの子?」
「……この辺」
「へー。学校は?」
「……福乃前高校」
「え、私も!」
一拍おいて、いとが2本指を立てた。
「二年?」
「うん」
「同じじゃん!クラスは?」
「二組」
「三組!」
いとはぱっと手を叩いた。
「隣のクラスじゃん。え、めっちゃ近い」
(え、急に近い……)
私は内心で戸惑ったけど、いとのテンションは軽い。
押しつけではなく、ただ嬉しいだけの感じ。
「店長、今日さ、あれ見せて」
「はいはい」
店主――店長と呼ばれていた――が、奥から小箱を出してくる。
いとは当然のように手に取り、私の前に置いた。
「これ、かわいくない?」
私は、よく分からないまま頷いた。
でも、いとが「かわいい」を言うときの目は、本当に楽しそうで、
分からないことが“悪い”じゃない気がしてきた。
その日、私は初めて、
時計の話を「説明」じゃなくて「雑談」として聞いた。




