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第3話 放課後、時計屋にて。

翌日。

私は父に「修理、ちょっと高かったから見送った」とだけ言った。

父は一瞬だけ目を細めて、「そうだよな」と短く返した。

怒らないし、落ち込まないふりも上手い。

だから余計に、胸の奥がムズムズする。


放課後、私はまた時計店に行った。

何か買うわけでもないのに、店のベルを鳴らす。


「いらっしゃい。昨日の子だね」


おじさんは覚えていた。

私は見積もりの紙をカバンから出して、机の上に置いた。


「……ここ、アルバイトって募集してますか」


言った瞬間、自分でも驚いた。

でも、引き返せなかった。


おじさんは少し考えてから、にこっと笑った。

「うん。助かるよ。放課後だけでも」


その“にこっ”が、なんだか安心した。


エプロンを渡されて、私は鏡の前で紐を結ぶ。

エプロンの布が少し大きくて、腰のあたりがぶかぶか。

でもそれが、逆に“始まった感”を出してくる。


最初の仕事は、接客の手伝いだった。

電池交換の受付、ベルト調整の順番待ち、袋詰め。

時計のことは分からないけど、やることは意外と普通だった。


「難しいことは、こっちでやるから」


おじさんはそう言ってくれる。

口調も柔らかい。


だから私は、安心して失敗できた。

いや、失敗したくないけど、する。


「すみません、こちら……あ、えっと……」


言葉が詰まると、おじさんがすっと横に来て、自然に会話をつないでくれる。

その動きが、静かで、無駄がない。


(……すごいな)

時計より先に、おじさんの接客に感心してしまった。


閉店前。

私はレジの下で、古い雑誌みたいなカタログを見つけた。

時計の写真がずらっと並んでいて、価格もずらっと並んでいる。


(時計って、こんなに種類あるんだ……)


正直、今日まで腕時計は「時間を見るもの」だった。

それが「選ばれるもの」だと、初めて分かった気がした。

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