第2話 修理代、高すぎ問題。
放課後。
商店街は、学校の廊下と違って音が多い。自転車のベル、焼き鳥の煙、店先の呼び込み。
その中に、ぽつんと静かな店がある。
「修理 時計」
看板は古く、ガラスケースの中には、いろんな時計が並んでいる。
新品というより、“誰かの時間”が並んでいる感じ。
カラン、とベルが鳴って、私は店内に入った。
奥から出てきたのは、白髪の多い男性。年齢は……たぶん七十前後。
でも背筋がまっすぐで、目がよく動く。
「いらっしゃい。どうしたの」
声は柔らかい。
私はケースを差し出して、「父の時計が止まって」とだけ言った。
おじさんは時計を手に取って、まるで小さな生き物を扱うみたいに、角度を変えて見た。
しばらくして「うん」と頷く。
「直せるよ。時間はちょっとかかるけどね」
「……いくらくらいですか」
聞いた瞬間、心の中で“せいぜい三千円”と予想していた。
おじさんは、紙にさらさら書いてから、こちらに向ける。
「だいたい、五万円かな」
「……五、まん?」
声が裏返りそうになるのを、なんとか飲み込んだ。
五万円って、バイト代何回分?
というか、私の“安そう”はどこへ行ったの?
おじさんは困ったように笑う。
「ごめんね。こういうのは、手間がかかるんだ」
私は、頷いたふりをする。
ふりをしながら、頭の中がすごい速度で回っている。
(いや、無理。無理じゃない?)
(でも、父は何も言わなかった)
(高いって分かってるのに、あえて黙ってた?)
「見積もり書だけもらっても、いいですか」
私が言うと、おじさんは頷いて、控えの紙を渡してくれた。
優しい字で、「概算 50,000円」。
店を出ると、夕方の空気が急に冷たく感じた。
握りしめた紙が、重い。
(……どうしよ)
“修理は諦める”って父に言えば、父はきっと「いいよ」と言う。
言うけど、言った瞬間、父はあの時計を二度と見なくなる気がした。
私は、商店街の端まで歩いて、店の前で立ち止まった。
ガラス越しに見えたおじさんは、時計を磨いていた。
手つきが、落ち着いていた。
(……お金、稼ぐしかない)
そう結論が出たのは、帰り道の半分くらいだった。




