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セイレーンと漂流Days  作者: みつつきつきまる


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8 悪魔様②


「あら、リンじゃないですか」


 洗濯の様子を見に来たレネが、悪魔様を見るなり言った。良かった、下着をまじまじ眺めているところじゃなくて。


「レネ・・・」


 悪魔様はそう言って、ばさばさと翼をはためかせながら着地する。


「レネの下着を見て恍惚としてる奴がいるから何かと思えば」


「そんな顔はしてない!」


「あら、何か興味深かったですか?」


 はい、興味深かったです。


「んで、こいつがレネの連れ込んだ男か?」


「つ、つ、連れ込んだ・・・」


 いや、別に間違ってはいない。ただ、何となくいやらしい響きがあり、ついつい顔に血液が集まって来る。


「そうです。私が連れて来ました」


 レネはその言葉をあまり深く考えなかったらしい。


「ショウさん、彼女は私のお友達のリンです。隣の島に住んでいます」


 レネは僕に彼女をそう紹介してくれた。


「ふぅん」


 悪魔様——リンさんは僕の顔を見る。やっぱり値踏みするような鋭い眼光。でも、よく見ると綺麗な人だなとは思う。いや、おそらく人ではないか。ともかく、レネとは違って中性的な整った顔立ちで、可愛いと言うよりは綺麗、格好いいと言った方が似合う容姿をしている。ロックバンドのボーカルのような雰囲気がある。


 ちなみにビキニに覆われた胸は、どちらかと言えば小さめで筋肉質。腹筋も太ももも引き締まっていて、簡単に絞め殺されそう。


 リンさんは僕の頭の先からつま先までをまじまじと眺めると、暗黒色の翼をばさりと一度羽ばたかせて背中にしまった。


「なるほど。レネの好きそうな地味な男だな」


「す、す、好きそう・・・地味って・・・」


 いろいろ言われて混乱する僕。後半はともかく、前半は悪くないどころか、小躍りしたくなるような事実。


「そうですか?これでも、私は人を見る目はあるんですよ」


 にこにこしているレネ。肯定はしなかったけど、否定もしなかった。これはもしや・・・


「まあ、見た感じウブな童貞そうだから、信用できそうかな」


 顔見ただけでわかるのか。


 少し複雑な気持ちでいると、僕の独白を表情から読み取ったらしいリンさんは、にやりとして近付いて来ると僕の耳元で、


「わかるさ。レネの下着見て興奮してたんだろう?それに、レネのあの体見て悶々と・・・なあ、ちょっと味見してやろうか?」


 そう囁いて犬歯を見せる。


「ち、ちょっと!」


 あんな綺麗な顔で耳元で囁かれたらゾクゾクするじゃないか。


 リンさんは慌てふためく僕をにやにや眺めている。からかわれているみたいだ。


「ダメですよ」


 レネが頬を膨らませる。わあ、可愛い。


「ショウさんは私が食べるんですから」


 誤解を招きそうな言葉。


 やはり誤解したのか、目を丸くするリンさん。


「まあ、自由だけどさ」


 はて、誤解されたままの方がいいのか、誤解を解いた方がいいのか。


「なあ、少年」


 悪魔様は腕を組んで僕を見ている。


「君がどう思っているか知らないが、こう見えてレネは用心深い」


「え?用心深い?」


「そうだ。この間軽薄な遭難者がこの島に漂着したんだが」


「軽薄な遭難者?」


 聞いたことのない言葉。


「目が覚めた途端にセイレーンのケツを追いかけ始めるような奴だったんだが」


 うん。それは軽薄な遭難者。


「レネの警戒っぷりはすごかった。毛を逆立てた猫みたいに攻撃的になってな」


「そうなの?こんなにこにこしてるのに」


 レネのほっぺをつんつんする。


「くすぐったいです」


 なんだか嬉しそう。


 そんなレネをリンさんは指差す。


「こんな顔なんか見せなかったぞ」


「そうなんだ。レネって皆んなに同じ態度とるんだと思ってた」


 レネが怒っているとか、攻撃的になっているところとか想像できない。そう思いながらレネの顔を見ると、にっこりと笑顔を返してくれた。


「結局その軽薄な遭難者は、三日で壊れる筏に乗せて放り出したんだが」


 恐ろしい。僕も不義理を働いたらそんな目に遭わされるのか。


「それまでレネを抑えておくのが大変だったんだ」


 こんな小春日和みたいな笑顔なのに。


「だから、なんでだかは知らないが、少年の事は随分信用しているみたいだな。少なくとも、下着を託すくらいは」


 そうなんだ。レネは誰にでも無防備だと思っていたけど、僕にだけ無防備なんだ。


 そう考えると心が晴れやかになって、誇らしい気持ちになってくる。


「まあ少し安心した。レネをたぶらかす野郎だったら、三日で壊れる小船の上で三日間磔にして、三日目に海に流してやろうと思っていたんだが」


 絶対にたぶらかしません。


「だから」


 リンさんは僕の肩をぽんと叩き、レネに聞こえないくらいの声で、


「うまくやれよ」


 その言葉の意味を瞬時に読み取った僕の体中の血液が、あっと言う間に沸騰する。


 リンさんはさらに続ける。


「レネはセイレーンにしては珍しく、君ら人間でいう生娘だからな。優しくしろよ」


「な、ぼ、僕は・・・」


 今の僕は真っ赤な顔をしているに違いない。そんな僕を見てリンさんは大笑いしているし、レネは不思議そうな顔をしている。


「はっはっは。やっぱりおもしろいな少年!」


 リンさんはそう言うと、背中にしまっていた真っ黒な翼を広げる。


「何か困った事があったら言って来な。逢引きの仕方から避妊の仕方まで教えてやる」


「避妊って何ですか?」


 純粋な顔で僕に聞かないで。つか、セイレーンって妊娠するの?


 思わず不謹慎な事を考えてしまい、更に熱を帯びる僕の顔。


 そんな僕を嘲笑うかのように、リンさんは翼を羽ばたかせてふわりと浮き上がる。


「二人の事はこれから観察させてもらうよ。じゃ」


 そう言ってゆっくりと去って行く。


 その後ろ姿を眺めながら——


「無茶苦茶だったけど、悪い人じゃなさそうだね。あの悪魔様」


「悪魔じゃねぇ!」


 そんなリンさんの声が聞こえるようだった。


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