6 スローライフ
今日は朝起きてから何もしていない。
特にしなければならない事もないし、あったとしても今する必要もない。目標も目的もない。
セイレーンのレネと二人して、砂浜で寝っ転がっている。
天気はいいけど、決して暑すぎない。直射日光も強いけど、決して暴力的じゃない。そんな心地良い陽気に、起きたばかりなのにうとうとする。
目の前に広がるのは、雲一つない青空。僕が見上げているんじゃなくて、僕が見下ろしているような錯覚すら憶える、吸い込まれそうな青。
穏やかに寄せては返す波の音が、子守唄のように耳に届く。
「気持ちいいなあ・・・」
思わず口をついて出てくる言葉。スローライフってこんな事だろうか。
そんな事を思いつつ、隣を見る。
横向きで目を閉じるレネ。穏やかで心地のいい寝顔。このまま額に入れて飾りたいくらい、可愛くて魅力的。それに加え、肩から背中、くびれた腰を通ってお尻から太ももに連なる流れが、なんだか官能的。もうちょっとはっきり言うと、いやらしい。
いや、えーと、僕がレネをそんな目で見ていないと言ったら嘘になる。レネの豊かな胸とか、形のいいお尻とか、見ていたら悶々とするのも事実。これは仕方ない。
でも、目の前にいるのにレネが現実だとは思えなくて、手が届く存在だとは思えなくて、それ以上に僕にはそんな勇気もないから、眺めているだけで心が満たされてしまう。
せめて——
「本当に寝ちゃったのかな?」
僕は手を伸ばしてレネの頬に触れる。肌がすべすべして柔らかい。何だろう、この感触。赤ちゃんの肌みたい。
「んんっ」
レネはみじろぎする。本当に寝てるんだ。
僕はレネの頬に触れながら、心が踊ると同時に心配になる。いくら何でも無防備すぎないだろうか。確かに、この島には元々レネしかいなかったのだから、無防備でいても何の問題もなかっただろう。素っ裸でいてもいいくらいだ。・・・素っ裸でいた事があるかは、後で聞いてみよう。ともかく、今は僕と言う異端者がいる。
たまたま度胸も勇気も自信もない僕だったからいいものを、少し女性慣れした奴だったり、女性をモノのように扱うクズ野郎だったらどうするんだ。
一緒の布団に入って来たり、こんな無防備で可愛らしい寝顔なんか見せたら危ないじゃないか。
「無防備すぎるよ、天使様」
柔らかな金髪を撫でる。
「こう見えても、人を見る目はあるんですよ」
レネが片目だけ開けて、僕に笑いかけた。
「起きてたんだ」
変なところ触らなくて良かった。
「はい」
レネはそう言うと、再び目を閉じた。
「もっと撫でて下さい」
レネがねだるので、ゆっくりと金色の波をかきわける。
そういうところが無防備だって言ってるんですよ、天使様。
それから僕らはお腹がすいて家に帰った以外はずっと砂浜にいた。二人して寝っ転がって、話をしていたらいつの間にかレネが寝ちゃってたり、いつの間にか僕が寝ちゃったりと、何の制約もない時間を過ごす。
そんな時間はあっという間に過ぎるものだ。スローライフって時間が短く感じるのかな。
「レネって、いつもこうしてるの?」
夕日を浴びながら、隣で寝転がるレネに問いかける。
仰向けになって僕にとって更に刺激的な姿勢になたレネは、
「いつもではありませんが、こんな生活が多いです。でも、今日はいつもより時間が経つのが早いような気がします」
そう言って僕の方を向く。
「ショウさんがいるからでしょうか」
僕はレネの恋の弾丸に撃ち抜かれた。
僕にはそれだけで充分だ。これ以上望むなんて贅沢以外の何物でもない。この言葉を胸に、これから生きていこう。でもその前に、この一瞬一瞬を大切に生きていこう。レネと一緒にいられる時間を、大切にしていこう。そうすれば、これから僕がもしも一人だったとしても強く生きて行けるはず。
僕が感動を一人味わっていると、レネが立ち上がる。
「日が落ちてしまうと寒くなりますから、そろそろ帰りましょう」
そう言って差し出された手を握り、僕も立ち上がる。
「明日は何をしようか」
「決めてません」
そう言って笑い合いながら、僕達は家路に着く。
「寒いですから、もう少しこっちに来て下さい」
「簡単に言わないでよ、レネ」
レネとの一瞬一瞬を大切にしたいけど、一緒に寝るのだけはまだ慣れない。もうこんな機会が無いかもしれないと思うんだけど、どうしても背中を向けてしまう。
「もう・・・私が抱きしめてばかりじゃないですか」
「だ、だからあんまり、うおっ」
そうだな、当面の目標は、あの胸に飛び込む事かな。




