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セイレーンと漂流Days  作者: みつつきつきまる


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51 パパさん


 結論から言うと、レネのパパさんはいい人だった。


「やあ。君がレネと仲良くしてくれている人だね」


 ママの住む島にある桟橋に横付けされた大きな貨物船から降りてきたスーツ姿の男性は、そう言って僕に握手を求めてきた。


 名刺を渡される。


 名刺には、『一色商船 代表取締役 一色総司』と書かれている。


 思わず背筋が伸びる。


 住む世界が違うとも言えるパパさんは、すらっとしたスマートな男性で、短い頭髪も相まって爽やかな雰囲気を纏っている。僕の両親と同じか、少し若いくらいだろうか。しかし、生命力に溢れた若々しさがある。


 レインさんが好きになる気持ちも分かる気がする。


「は、は、はい。あ、あの、えー、な、仲良くさせてもらってます」


 いい人だと分かっていても緊張する。なんたってレネのパパだ。嫌われるわけにはいかない。


「はははっ。緊張しなくていいよ。ほら、君もセイレーンに魅了されたんだろう?昔の僕と一緒だよ」


 どんな人生経験を積んだらそんな爽やかな笑顔を浮かべられるのだろうか。


「あの・・・パパ」


 少し恥ずかしそうにもじもじするレネ。


「レネ、久しぶりだね。あまり父親らしい事が出来なくてごめんね。だから今回はできる限りの事はさせてもらったよ」


 パパさんはレネの頭を撫でながら言う。レネは幼なげな表情を見せる。


 ママに聞くところによると、レネの留学の話はパパさんが進めてくれていたらしい。それに、詳しくは聞いていないが、会社の社長以外にもなかなかの社会的地位のある人らしい。


 ちょっと怖くて聞けなかった。


「年々レインさんに似て来るね。僕が出会った頃のレインさんにそっくりだよ」


 今でもそっくりだからそれは想像できる。レネが十数年経ったらああなるのがよく分かって、安心するし楽しみ。


 そこへママもやって来る。


「ソウジさん?娘達だけじゃなく、私ともいちゃいちゃして欲しいな♡」


 完全に乙女モードのママ。目の中にハートが浮かんでいる。


「ああ、ごめんよレインさん。可愛い娘にパートナーが出来たと思うと嬉しくてね」


「だからもっと私を見て♡ずっと待ってたんだから」


「はっはっは。レインさんはいつまで経っても甘えん坊なんだね」


「誰のせいだと思ってるの♡」


 あっと言う間に周囲を覆い始めた甘い空気に胸焼けがしそう。


 よくもまあ人前で——娘の前で恥ずかしげもなくいちゃいちゃできるもんだと感心する。羨ましくもあるけども。


 するとレネがぎゅっと体を寄せてくる。


 嬉しいけども、両親に感化されないでもらいたい。僕の方はさすがにレネの両親の前でべたべたする勇気はない。


「相変わらずラブラブだなぁ、レインさんは」


 大空から声がしてそちらを見る。


 セイレーン三人娘が翼をはためかせてやって来た。リンさんとイナさんはいつも通りだけど、セラさんは大きな荷物を持っている。


「少年、今日から私を女王様と呼んでもらおうか」


 リンさんが得意げに胸を張る。


「そうじゃないでしょ」


「悪ぃな坊主。ムチとロウソクは用意出来なかった」


 それは違う女王様。


「でもリンがボンテージを着るには、いろいろ足りねぇ」


「おいセラ、どういう意味だ?」


 睨みを聞かせる女王様。けらけら笑っているセラさんにどこまで効果があるのかはわからないが。


「それにしても、セラさんは随分な荷物だね。どこかに行くの?」


 セラさんが持つボストンバックとリュック。ちょっとした旅行に行くくらいの荷物。


「ああ、説明していなかったかな?」


 口を開いたのはリンさん。


「セラもレネと一緒に留学させようと思ってね」


 え?セラさんも?


「小僧が我を忘れて暴走しないように、お目付け役だな」


 僕は信用されていないのか?


「私が本気を出せば、誰にも止められませんよ?」


 逆に怖い事を言うレネ。


「まあそれもあるが、セラにも社会勉強をさせようと思ってね。レネもセイレーン一人だと心細いだろうし」


 いくら僕がいるからと言って、人間だけの世界にセイレーン一人だけというのは心細いかもしれない。いくら口が悪いとは言え、仲間がいるというのはレネにとって心の支えにはなるのか。


「嬉しいですけど・・・ショウさん?」


 なんでしょうか。


「浮気したらダメですよ?」


 何を心配しているんだか。


「僕はレネだけだよ」


「約束ですよ」


「うん」


 体を寄せて来るレネの肩を抱く。ママとパパさんの甘い空気にやられたのかもしれない。


「やれやれ。セイレーンと出会った人間は、どうしてこうも甘いのだろうな」


 それは、セイレーンに魅了されると逃れられないからだと思う。





「ま、いいから飲もうぜ。明日には経つんだろ?」


 言いながらイナさんは缶ビールを手にしている。


「だから僕は未成年だって」


「私もお酒は飲めません」


「イナの醜態を見てたら飲みたくねぇな」


 僕とレネとセラさんに言われ、イナさんは寂しそうな顔をする。


「つれないねぇ。せっかくの・・・何だっけ、送別会・・・いや、乱交パーティーなのに」


 正解を言い直すな。 


「いいや。レネママとレネパパを潰そう」


 イナさんは言うと、相も変わらずいちゃいちゃしているレネのママとパパさんの元に駆け寄った。


 イナさんが何を言ったのか、パパさんが困っている。


 呆れたようにそちらを見るリンさん。ふいにこちらに向き直り、


「少年、レネをよろしく頼むよ。セラも」


「うん。わかってるよ。セラさんは・・・出来る限り」


「アタシの面倒見ないって言うのか?」


 そういう訳じゃないけど。あんまり面倒見てるとレネがヤキモチ妬きそう。


「セラの面倒は私が見ます」


 そうしてくれるとありがたい。同じセイレーン仲間だし。


「しかし、寂しくなるね」


 リンさんが遠い目をした。


「少年が来るまで、ずっと四人はこのままだと思っていたのだがね。レネやセラ、そしていずれレインさんもいなくなってしまうとなれば、随分仲間が減ってしまうものだな」


 僕がここに来なければ、このセイレーン達はこれからも仲良く過ごしていたんだろうか。僕という存在は、セイレーンにとって良くなかったのだろうか。


 僕の気持ちを読んだのか、リンさんは豪快に笑い飛ばす。


「気に止むな、少年。私達は何よりも仲間の幸せを願っているんだ。仲間であるレネが幸せを掴んだというのなら、私達にとってもそれが何よりの幸せだよ」


「リン・・・ありがとうございます。たまには帰って来ます」


「そうしてくれ。私はどうせ、イナと一緒に暇を持て余しているだろうしな。ただ、少年と仲違いして帰って来る事が無いようにな」


「そんな事無いと誓うよ」


 僕は胸を張る。根拠は無いが、自信はある。


 僕の言葉を聞いて満足そうに頷くリンさん。女王としての貫禄が備わってきているな。


 その反面先代の女王様は、パートナーと共にイナさんに飲まされていた。


 それでも楽しそうで、仲良さそうなのが幸い。


 明日には、こののんびりとした空間から現実世界に戻る事になる。それが少し惜しいと思うのは、無理もない事だろう。






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