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セイレーンと漂流Days  作者: みつつきつきまる


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44 後押し


「いやあ、皆んなで水遊びしたいなど、少年はやっぱりスケベだな」


 いつもと変わらない黒のビキニ姿のリンさんが言う。


「ったく、言ってくれりゃあ、限りなく布面積を減らした挑戦的な水着を用意したんだけどな」


 そう言うイナさんは意外と露出度の少ない、スポーツタイプの水着を着けている。上はしっかりと膨らみを布で覆っているし、下はスパッツタイプだ。それでもかなりの迫力だけども。


「どうせアタシ達の水着姿を見て欲情したくなったんだろうよ。変態がよ」


 スクール水着がよく似合うセラさん。特に言う事はありません。


「でも、皆んなで遊ぶのも悪くないですよ」


 フリフリのレースが膨らみを覆うようなビキニ姿のレネ。露出度は以前よりも高くないが、妙に谷間が強調されているような気がする。


 どうやら僕がここにいられる時間が短いという事で、思い出作りという意味で皆んなに水着で集まってもらった。せっかく美女揃いなんだから、こういう機会があってもいいだろう。


 でもやっぱりレネが一番可愛い。


 波打ち際を逃げ回るレネを追いかけ、水をかけたりかけられたり。ただそれだけなのに世界一楽しい時間を過ごしていると、


「おあっ」


 急に胴上げのように持ち上げられる。見ると、リンさんとイナさん。

 

「レネとばっかり遊んでないで、私たちにもサービスしたらどうなんだ?」


「オレたちを呼んでおいて無視するなら、そのパンツ脱がしてやろうか?」


「あ、あ、ごめんなさい。それはやめて」


「結局レネの水着姿が見たいだけかよ。アタシたちはダシに使われたんだ」


 砂でお城を作っているセラさん。いや、決してそんなつもりじゃないんですよ。


「これはおしおきだな」


「そうだな」


 リンさんとイナさんの意見が一致する。


 次の瞬間僕の体は宙を浮き、一瞬の間をおいて海面に叩きつけられる。


 以前の記憶が蘇り、パニックを——起こす前にレネに抱き上げられる。


 ぎゅっと抱きしめられると、全身を安心感が包み込む。濡れたレネの肌が僕の肌に触れる。


「トラウマはこうやって克服するもんだぜ」


「少し荒治療かもれいないが」


 荒治療の後に幸せな安心感が待っているなら、何度でもその治療を受けましょう。


 僕は目の前のレネの目を見つめる。青い目に吸い込まれるような——いや、もう僕はとっくの前に吸い込まれてしまっているのかもしれない。


 唇に目が行く。何か言いたげな唇。


 あ、マズイ——僕とレネの間に甘い空気が流れそうに——


「やっぱりおしおきだな」


「懲りねぇ坊主だ」


「あ、ちょっと」


 甘い空気に触れさせまいとするように、右腕をリンさん、左腕をイナさんに捕まれ宙に持ち上げられる。二人は白と黒の翼をわざとらしく羽ばたかせる。


「二人の世界に入るなど許さないぞ。私たちだっているのだ」


「そうだ。このまま連れて行っちまおうぜ」


「わー、ごめんなさい!」


 僕が謝るのも聞かず、二人は僕を海面ぎりぎりの高さであちこち飛び回る。足をばたばたさせるも、二人は下ろしてくれない。


 僕の腕を胸に抱える二人の感触の違いが興味深い——いやいや、そんな余裕などまるで無く、下手なアクティビティよりもスリルがある。


「ちょっと!もうやめて!」


 そう言っても二人がやめるわけがないな、とはわかっているのだけど。


 時折つま先が海面に触れて抵抗を感じるものの、二人は僕を離す様子はない。


 二人とも力が強いな。僕を抱えたまま宙返りするくらいだし。あー、やめて。


 こんな天高くから落とされたんじゃひとたまりもない。トラウマ関係なくパニックに陥るに違いない。


 幸い高くから落とされる事はなく、海面ぎりぎりを飛び続けるリンさんとイナさん。

 

 そうしてひとしきり引き摺り回されたあと、僕はレネのすぐ横に落とされる。パニックに——陥る前に、あの心地よい感触を待っている僕がいる。


 そして期待通りの感触に助け出され、ほっとする以上に心臓が高鳴る。


 このままでいたいな。


 でも、


「おい小僧。こっち手伝え」


 セラさんに呼ばれ、砂の城作りを手伝う事になった。無視すると碌な事になりそうにないし。


「小僧はこっちに塔を作れ」


「へいへい」


 セラさんに指示され、大きな砂山の隣に濡れた砂を積み上げてゆく。


 大きな砂山を城の形に削って行くセラさん。スクール水着も相まって、とても幼く見える。そんなセラさんの真剣な表情は何だか可愛らしい。


「おい、小僧。もっとちゃんとやれ。オメェの根性みたいに曲がってるだろうが。◯すぞ」


 可愛らしいけど、口は悪い。


「はいはい」


 僕は空返事を返しながら、砂の塔をまっすぐに作り直す。


 そして見ると、レネとリンさんとイナさんがビーチボールで遊んでいる。


 いくつかのボールが弾んでいるのは絶景。


「ぼーっと見惚れてんじゃねぇ。屋根は尖らせるモンだろうが」


 どういうモンなのかはよく分からないが、セラさんのお気に召さなかった模様。砂の塔の先端を尖らせるように、恐る恐る先端を削る。


 そんなセラさんは城の屋上なのか、ベランダなのか、でこぼこした部分を真剣に作り始める。あまり見ないセラさんの真剣な表情がなんか新鮮。


 やっぱり普通にしてたら可愛い人だよね、なんて思いながら眺めていると、ふいにセラさんの鋭い視線が僕に向けられる。


「おい、小僧」


 うわ。文句言われる。


 身構えながら言葉を待つ僕。セラさんは口も悪いが目つきも悪い。そんなセラさんの睨みは言いしれぬ迫力がある。


 セラさんは低く声を抑えて、


「・・・レネ泣かしたら容赦しねぇ」


「えっ?」


「ほら、いいからこっちにも塔作れよ。バランス悪いっての気づけよ。センスゼロかよ」


 いや、センスはあるとは言えませんけど。


 その前、何か言ったよね?





「よーっす!坊主!セラじゃエロが足りねえだろ」


 もう一つの砂の塔を作り終える直前、僕はイナさんに頭を小脇に抱えられ、波打ち際まで引きずられて行く。


「ちょ、あ、当たってるって!」


 大きな柔らかいものを顔に押し付けられる。いや、もうわざとだろうね。


「ああ?何だ?何が当たってるって?」


 わかっているくせにそう言ってきて更にぐいぐい押し付けてくるイナさん。そのまま海に引き摺り込まれ、なす術もなく腰の辺りの深さのところまで連れて来られる。


 目の前に海面。このまま沈められる——なんて思っていると、イナさんが素早く僕の背後に回る。


 腰を両手でホールドされる。


 柔らかい感触が背中に移る。


 耳元にかかるイナさんの吐息。


「・・・レネに寂しい想いさせるなよ」


「えっ?」


 問い返す間もなく僕の視界は天を仰ぎ、そのまま後方に放り投げられた。


 後ろ向きに頭から海に突っ込まれてしまい、さすがにパニックを起こす。が、素早く引き上げられて抱きしめられる。


 レネではなくイナさんだけども。これも悪くないなと思ったのは内緒だけども。


 イナさんは戸惑っている僕の顔を見て子供のようににかっと笑うと、砂浜でセラさんと砂の城を作っているレネを見た。


 不安そうにこっちを見るレネ。


「レネー!お前がいらないって言うなら、オレがこいつを貰っちまうからなー!」


 イナさんの言葉に、なぜか立ったり座ったりを繰り返すレネ。右を見て左を見て、セラさんに何か言われてこっちに走って来る。


 すぐ近くまでやって来ると、もじもじしながら僕の手を引くレネ。


 あっさりと僕を離すイナさん。ひらひらと手を振りながらセラさんの方へ向かう。


「あ、あの・・・」


「えっと・・・」


 特に言葉もなく見つめ合う僕とレネ。


 波の音だけが響く時間。


 このまま時間が止まればいいのに。





 時間が止まるわけもなく、あのまま放っておかれるわけもなく、僕はどこから持ってきたのかビーチチェアに寝そべるリンさんの肩を揉まされていた。


 サングラスを掛けたリンさんはどこぞのロックスターみたいで格好いい。ただ、あまり肩は凝っていない。どちらかと言うと筋肉質。


「そうだ。いい感じだぞ。少年」


「はあ、それはどうも」


 生返事を返しながら見ると、さっき砂の城を作っていた辺りで、セラさんが頭だけ出して砂に埋められていた。


 どうしてそうなったんだか。レネが心配そうに見下ろしていて、イナさんが豪快に笑っている。


 そんな三人を満足そうに眺めるリンさん。


「ほら少年、力が弱まっているぞ。これでは立派なマッサージ師にはなれないぞ」


「そんなのになる気はないけど。それに、あんまり肩凝ってないよ」


「ほう。それは遠回しに胸が小さいと言っているのかな?」


「い、いや、そんな事は言ってません」


 口が裂けても言えません。


 とは言え、リンさんは胸を除くとスタイルが良く、筋肉質なのでアスリート体型だ。所々に見える筋肉の筋が美しい。


「ふうん。まあいい。皆んなが楽しそうなのでヨシとしよう」


 リンさんはそう言って鼻を鳴らす。


 見ると今度はセラさんに変わってイナさんが頭だけ出して埋められている。なぜか嬉しそうなイナさん。


「ところで少年」


 リンさんはこほんと咳払いを一つ。


「何でしょうか」


 おかしな事を言われないだろうかと警戒する。


 しかしリンさんの言ったのは意外な言葉だった。


「セイレーンの女王というのは、おもしろい肩書きだと思わないかね?」


「え?そう?」


 何で急にそんな事を?


「レネが引き継げないと言ったら、私に引き継いでほしいとレインさんに言われてね。悪くない話だと思っているのだが」


 リンさんが女王ねぇ——何だか別の女王様に思えなくもないが、少なくとも似合ってはいる。もっとも、セイレーンの女王と言っても、ごく一般的に思うような女王とは意味が違うみたいだけど。


「だから少年」


 リンさんはサングラスを外して振り向いた。闇夜のような真っ黒な瞳。


「君もレネも何も気にする事はない」


 言われて僕ははっとする。三人はなんだかんだ言いながら、僕の背中を押してくれている。僕が悩んでいた事に気づいたのか、それとも僕の気持ちに気づいたのか。


 だとしたら僕もそれに応えなければならないかもしれない。


 そう思って見ると、レネが砂まみれのセラさんとイナさんに手を引かれ、砂に掘られた穴に入れられようとしていた。


 これはいけない。レネの危機。


 僕はマッサージもそこそこに、レネの元に駆け寄る。二人にやめさせようと手を伸ばすと、逆にセラさんとイナさんに手を捕まれる。


「え?」


 二人のにやついた顔。


 しまった。最初からこっちを狙っていたのか。


 思う間もなく穴に入れられ、あっと言う間に砂で埋められる。


 う、動けない。


「よーし。どうしてくれようか」


「楽しみだなぁ」


 にやにやが止まらない二人。僕に何をしようと言うのか。


 その傍では、レネが困ったように笑っていた。





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