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セイレーンと漂流Days  作者: みつつきつきまる


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39 温泉


「この村には温泉があるんですよ。入りに行きませんか?」


 と言われ、心躍らない者はいない。


 このとんでもない金髪美少女にはにかんだ笑みでそう言われ、期待するなというのが無理な話。わくわくを噛み締めながら二つ返事で同行したのがついさっき。


 たどり着いた硫黄の匂いと熱気が充満する浴場で、僕は二畳程の広さの湯船に浸かる。


「まあ、混浴な訳ないよね」


 分かってたけどね。レネに言われてちょっと期待したけど、ただの公衆浴場が男女別になっていない訳がない。


 分かってたよ。だからがっかりしてないよ。


 ここの浴場は学校の教室くらいの広さで、中央を高さ二メートルくらいの仕切りで遮られている。当然、仕切りのこちらが男湯で、向こうが女湯。


 そして仕切りのこちらの区画には、二畳程の大きさの湯船が二つあるのみ。さっき確認してみたけど、温度など違いは特に無いみたい。あとは、ちょっとした洗い場。恐らく女湯も同じような配置だろう。


 日本の寂れた温泉旅館みたいだ。


 まあ、この村の人が疲れを癒すのが主な役割なのだから、村の経済状況を考えても、そんな豪華な設備がある訳はない。


 そうは言っても足を伸ばしてお風呂に入るのは久しぶりだから気持ちがいい。


 それに、誰もいないからタオルを腰に巻く必要もない。胸までお湯に浸かって、手足を大きく伸ばす。

 

 もし混浴だったとしたらこんな事は出来ないから、がっかりする事は無かったかも。おっと。がっかりしていた事がバレてしまった。


 僕は苦笑いを浮かべながら、女湯との仕切りの上側を眺める。仕切りの上は高い天井まで何も無く、二つの空間は繋がっている。


 そのため、勇気と気力と体力があり、羞恥心と倫理観が無ければ覗く事が出来る。まあ、音がしないから誰もいないだろうし、レネもまだ来ていないようだから覗いたって意味はないんだけどね。


 レネが来たら覗くって意味じゃないよ。


 すると、


 ガラガラガラ


 浴場と脱衣所を仕切るドアが開く音。


 ぺたぺたぺた


 裸足で歩く音。


 ざぱー


 お湯を浴びる音。


 レネかな?僕の研ぎ澄まされた聴覚は、それらの音からレネの一挙手一投足を読み取り、脳内で映像に変換する。脳内映像のレネから、どうしてもタオルが取れない。


 でもこれだけでも鼻血が出そう。


 そうして僕が妄想している間に、おそらくレネと思われる人物は体を洗い終わったらしく、湯船にざぷんと浸かった音がした。


「ショウさん、いますか?」


 やっぱりレネだった。


「いるよー」


 声の反響がおもしろい。


「気持ちいいですねー」


「そーだねー」


「この島に来た時は、いつも入りに来るんですよ」


「そーなんだ」


「ゆっくり浸かれば体が楽になります」


「疲れが取れるよねー」


 この、仕切り越しの会話ってなんかいい。


「雨乞いするほど雨が降らないのに、温泉は豊富にあるって皮肉だね」


「この温泉は野菜作りには良くないみたいで、村の方も持て余しているようです」


「そーなんだ」


「だからこの村の方々はあまり入らないようで、いつも貸切状態なんですよ」


「へー」


 こうして人がいないのが普通なのか。まあ、そっちの方が気楽でいいけど。こうして会話も出来るし。


「そっちも誰もいないの?リンさんとかは?」


「リン達は酔ってしまった方々を介抱しています。さすがにあのままにしておく訳にはいかなかったようです」


「まー、そうだろうね」


「終わったら来ると思いますが。ショウさん?」


「ん?」

 

 会話の途中で呼びかけられ、思わず仕切りの上の空間に目を移す。言葉のやりとりをしていた、その空間。


 呼びかけられたものの、少しの沈黙。温泉が湯口から流れる音と、それに混じって微かに雨の音が聞こえる。


「ショウさん、そちらにも人はいませんか?」


「ん?いないよ」


「そうですか」


 その声と共に、大きく水が動く音。レネ、湯船から出たのかな?


 そう考えつつ仕切りの上の空間を眺める僕。すると、


「!!」


 そこからから金髪と白い翼が現れ、体にタオルを巻いた天使が仕切りを飛び越えてきた。


 これは——非常にマズいって!


 レネは動揺して動けない僕を気にする事なく、僕の隣にちゃぷんと着水して、翼をしまった。


 近い近い近い!温泉のせいか、頬を赤く染めたレネが近い!金髪をアップにしているせいで、色っぽい白いうなじが近い!タオル一枚で隠したその体が近い!


 なるべく——なるべく見ないようにしようとするけど、そんなのは無理だ。


 胸までお湯に浸かったレネは、タオルがしっかり体に巻かれているけど、なんだか随分ずり下がっているような・・・最重要区域はガードされているけど、上半球以上が露出しているんじゃないだろうか。その上、左右から寄せられているせいで、レネのたわわの膨らみ度合いが増しているし、お湯の浮力のせいで下から持ち上げられているため、これはもう・・・破壊力がとんでもない。


 ふっくらと寄せ合う、ピンク色した柔らかそうな二つの大きな膨らみ。ちょっとした衝撃で全てご開帳されてしまいそうな、危うい状況。


 それは水着の比じゃない。


 これは危ない——僕の鼻腔と下半身が危ない。でも、その膨らみから目が離せない。


 視線を外せずにいると、レネがちょっとタオルをずり上げた。とは言え、全然まだまだ眼福な状況。


「これくらい下げないと、翼が広げられないのです」


 そうか。膨らみも谷間も隠れるまでタオルを巻いたら、翼もタオルの下に隠れてしまって広げられないのか。


 いや、じゃなくて、


「ど、どうしてこっちに来たの!」


 動揺するなと言う方が無理だ。シャワーは一緒に浴びたけど、それとこれとはまた違う。まるでのぼせたように、顔が熱くなってくる。


「誰もいませんでしたから」


 さも当然のように澄ました顔で言わないで。


 それに、ちょっとずつ近づいて来ないで。僕の理性と下半身が——


 いや、ちょっと待てよ。僕、体にタオル巻いていたっけ——いやない。お湯の中で全開状態だ。はてタオルをどこに置いたっけ。あ、湯船の反対側に置いてある。それを手にするためにはこのレネを超えなければならない!


 しかしそんなレネはじりじりと僕との距離を詰めて来る。にじりよる度に二つの膨らみがふよふよ揺れる。これもまた目が離せなくなる。


 肩が触れそうなほどの距離感。心臓の鼓動も伝わって来そうな距離感。


 顔に運ばれた血液は、沸騰寸前だ。


 どうしようか・・・


「ショウさんと、一緒に入りたかったんです」


 呼吸が届きそうな距離にあるレネの顔。照れくさそうにそんな事を言うレネは、温浴効果が全身を駆け巡るほど可愛い。いや、今はそれどころではない。


 ひ、ひとまず視線を外そう。そして、下半身を落ち着かせよう。ここで大いなる目覚めをしてしまったら、お湯の中とは言えレネに勘づかれてしまう。


「い、一緒に入りたいって?」


 そんな事を考えていたなんて。


「一緒にお風呂に入ると、距離が縮まると思いませんか?」


「縮まっているから一緒に入るんじゃないのかな」


「それもそうですけど」


 レネは僕の意見に賛同しつつも、少し不満そう。


「でしたら、私とショウさんの距離も充分縮まっていると思うのですが。シャワーで体を洗いっこしましたからね」


「あれはあれで事件だったけど」


「ですから、一緒にお風呂に入りたいと思うのはおかしな事ではないのです」


「そんな理屈になるんだ」


「はい。そうです」


 レネは断言する。なぜか。


「それに、もっと距離を縮めたいと思うのは間違った感情でしょうか?」


 レネの大きな青い瞳がこちらをみつめているのが分かる。僕は色々見えてしまうので視線を外しているが、その熱い視線をしっかりと感じる事が出来る。


 距離を縮めたい、か。この数週間でレネとの距離は大分縮まったとは思うけど、それは『知り合い』であったり『友達』としての距離感。それ以上縮めるとなると、簡単な話ではない。


 単にくっつかれて嬉しいとか、揺れる胸が見られて嬉しいとか、そんな一喜一憂とは違う覚悟が必要になる。少なくとも僕はそう思う。


 僕はどうしたいんだろうか?レネはどうなる事を望んでいるのだろうか?


 レネは僕の事をどう思っているのだろうか?僕はレネの事をどう思っているのだろうか?


 僕の状況や、レネの状況を考えると、簡単に出せる答えだろうか。


「そうだね・・・」


 息を吸い込んで、レネの方に向き直る。大きなレネの目をまっすぐに見据えて、


「僕は・・・嫌ではないよ」


 レネの目が、頷いたような気がした。


 潤んだ瞳。上気した頬。先程歌を紡いだピンク色の唇。それらから目が離せなくなり、ゆっくりと引き寄せられる。


 二人の間を遮る物は何もない。少し甘く感じる空気の中で、僕とレネの視線が絡み合う。


 あれ?僕はどうなってしまったんだ?


 自分のコントロールの及ばない状況で、少し見上げるレネの美しい顔に僕の顔が近づいていく。


 ダメだ——これは一時の感情に流されてするべきことじゃない。でも、それを望んでいる僕もいる。


 それにレネだって、これを望んでいるとは——


 レネがゆっくりと目を閉じた。


 吐息が僕に届く。


 レネのピンク色でふっくらした唇。すこし開いたその唇に、引き寄せられるままに唇を近づけて鼻同士が微かに触れ合う。あと数センチ。


 ああ、このまま僕とレネの唇が——


 その刹那。


 がらっ


「おー!レネ!やっと終わったぞ!って、いないのか?」


 女湯でリンさんの大声が聞こえ、我に帰る。急いで離れ、お互いあさっての方を向く。


 顔が赤くなっているに違いない。自分があんな行動をとるとは思わなかった。それに、レネも受け入れるとは。


 今になって心臓の鼓動が速くなっている。


 一旦落ち着こう。すーはーすーはー。


「あれ?レネの服はあったぜ。どこ行っちまったんだ?」


 セラさんの声もする。


「ここにいないとなりゃあ・・・」


 イナさんの声。それと同時に仕切りの上から現れる真っ赤な髪の毛。


 イナさんの目が男湯にいる僕とレネを捉えた。


 にやり、と笑う。


 そしてイナさんの右隣から黒髪。左隣から亜麻色の髪が現れる。


 セラさんとリンさんも顔を出してにやりと笑う。


「楽しそうな事やってるな。レネと小僧」


「レネも積極的になったものだな」


「オレ達もそっちに行ってやろうか?ちなみに皆んな何も隠してないぜ」


「だ、ダメです!」


 レネが慌てて立ち上がる。気づかれた気恥ずかしさか、イナさん達がこっちに来るのがダメなのか。


 どっちかはわからないが、レネは翼を広げて飛び上がった。


 濡れたタオルが張り付いたお尻がどうにも——思っている間にレネは仕切りの向こうに消えていった。


 思わず立ち上がってレネの姿を見送る。今生の別れでもないのに。


 そんな僕をリンさんとイナさんはいつになく真剣な目で見つめている。セラさんは顔を赤くして視線を外し、


「股間くらい隠せ。クソが」


 み、見られた!


 今更お湯に飛び込んでも遅いよな・・・


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