3 眠れぬ夜
そして夕食を終えてシャワーを終えると、僕はすぐにうとうとし始める。船が沈んで体調を崩して以降、僕の体力は完全には戻っていないようで、夜は早くに眠くなってしまう。
「もうお休みになりますか?」
のんびり編み物をしていたレネが言う。
「うん。まだ本調子じゃないみたい」
少し体が重く感じる。
「美味しくなるには眠る事も大事です」
「まだ言ってる」
そう言って笑い合う。何気ない瞬間が楽しい。
そして僕は寝室に向かう。シンプルな家具が揃えられた部屋で、元々はレネが寝ていたであろう、小さなベッドが一つ。
重い体をひきずって、ベッドに潜り込む。
「レネはどうするの?」
そう言えばレネはどこで寝ているんだろう。レネは僕よりも遅く寝て、僕よりも早く起きているのでどこで寝ているのかは知らない。まさか、床で寝てるなんて事はないよね。
レネはふんんわりした笑顔で、小さくあくびをする。
「私も眠くなってきてしまいましたね」
レネはそう言うと、
「失礼します」
と言って同じ布団に入って来る。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
思わず壁際まで逃げる。
「どうしました?」
なんでそんな不思議そうな顔するの。
「な、な、何で一緒に寝るの?」
尋常じゃなく顔が熱い。
「夜は冷えますから。一緒の方が温かいです」
「そうじゃなくて!」
「昨日までも一緒に寝てたんですよ。私の胸に顔を埋めて気持ちよさそうにしていたので、それがいいと思ったのですが」
何だって!どういう事だ昨日までの僕!あの谷間に顔を埋めてさぞいい夢を見たに違いない。どうりでよく寝られた訳だ。いや、なぜその感触を覚えていないんだ。どこに行ってしまったんだその記憶って奴は。
僕は昨日の自分を恨みつつ、思う。待てよ。もしかしたら、いいって事なのか?その魅惑的な二つの丘に顔を埋めてもいいって言うのか?それは何とも悪魔的な誘惑。
そんな事を考えているうちにレネが布団に入ってくる。じりじりと近寄って来て、その肌が触れる。とんでもない刺激が体を走り抜ける。
「もう休みましょう?」
何だかそんな一言も僕を誘っているようで、全身から汗が吹き出る。
僕はレネの柔らかそうな膨らみから目を離せない。ここに飛び込んでしまったら、どれだけ心地いいだろう。もう、食べられたっていいかもしれない。
僕は甘美な誘惑に誘われてレネの胸に——
飛び込めずにレネに背中を向けて横になる。
くそっ、くそっ、僕はなんて意気地無しなんだ。
せっかくこうしてレネが迎えてくれているのに、飛び込む事が出来ないなんて。だから童貞はダメなんだ。
悔しさと情けなさで僕は頭から布団を被る。
そんな僕を、レネは後ろから抱きしめてくる。背中に——当たってるものがある。
その感触はとても気持ち良く、脳が溶けてしまう程の心地よさ。それと同時に、理性と現実の狭間で、言いようのない恐怖さえ感じて体が震えてくる。
「ショウさん、震えてます。寒いのですか?」
レネはそう言って一層強く僕を抱きしめてくる。
まだまだそれは柔らかいんですね。
いや、僕としてはそれどころではない。背中の感触と温もりで体がおかしくなりそう。変な体液を撒き散らしながら爆発してしまいそうだ。これが、さっきまで胸に飛び込もうとしていた奴の末路なんだから笑える。いや笑えない。
甘ったるい空気に気絶しそうになる。いや、むしろ気絶してしまえ。この誘惑に耐え続けられるほど僕は根気強くない。気絶してしまって、この危機的状況から逃れてしまえ。
「ショウさん、体が熱くなってます。ちゃんと眠らないと、美味しくなれませんよ」
レネの声さえ甘い。体が熱くなっているのも、眠れないのもレネのせいなんだけど。
気絶する事を願った僕が気絶する事が出来たのは、外が明るくなり始めた頃だった。
どうやったら安眠できるのか。それがこれからのテーマになりそうだ。




