31 浮袋
「さあ、ゆっくり海に入りましょう」
レネは僕と向かい合って、両手を引いて海に導いてくれる。
それはいいんだけど。
目の前のレネは、サンドイッチくらいの大きさの白い三角形の布でハンモックのように膨らみを包んだだけの、刺激的な姿。背中と肩に回した紐で結ばれた二つの三角形の布面積は広いように思えたのだが、布面積が狭い水着をいくつも見ていたからそう見えただけで、決してこの白い水着の露出度が低いと言う訳ではなかった。
なにせ、白い三角形のサイドからは柔らかそうな丸みがたっぷりと溢れている。白いそれらはレネが歩くたびにぷるぷると揺れ、白い三角形が大きくバウンドしている。
今まではタンクトップの中で揺れる胸を想像しているだけだったけど、今は直接確認出来ている。
とは言えまともに見る事は憚れる。でも見たい。ちらっとならいいかな。
さらに視線を下に移せば、お腹にはうっすらと腹筋の筋。そして可愛らしいおへそ。すっきりとしたくびれのラインが魅力的。
そして下半身を包むのは、上と同じく真っ白なショーツ。露出的でない清潔感のある装い。もちろん、ショートパンツどころでない太ももの露出。
その上、動きやすくするためか、長い金髪を後ろでまとめてポニーテールにしている。白いうなじがやけに色っぽい。
はっきり言って、どれも刺激的。
目の毒、と言うより目の爆発物だな。
よくよく考えてみれば、彼女がいたわけでも無ければ女子とプールだの海だの行く機会は全く無かった僕にとって、どんな水着であろうと刺激的には違いない。
それがレネの真っ白な水着だとしたらなおさら。
・・・心臓のドキドキが止まらない。
「怖くないですよ」
レネは優しく言うと、僕の手を引いてゆっくりと海に入る。怖いからドキドキしてるわけじゃないんですよ。
「うん」
僕は短く答えて、レネから視線を——レネの胸から視線を外す。見たいけども、じっと見てたらレネにバレてしまう。
「ちゃんと真っ直ぐ見てください」
よそ見をしていると思われたのか、叱られる。
仕方なく正面——っていうかやっぱり見ちゃう。すぐ下のまん丸な二つの膨らみと、どこまでも深い渓谷。これはいけないと思い、視線を少し上げるとレネの滑らかな肩と、やけに色っぽい鎖骨。これもいけないと思ってもうすこし視線を上げると、レネの陶器のようなきめ細かい頬と、艶やかで瑞々しい唇。
どこもまともには見ていられない。
もう目を見るしかない。
レネの青い瞳を真っ直ぐ見つめると、その目がふっと笑った気がした。
「ゆっくり来てくださいね」
レネに引かれ、膝まで海に入る。レネの姿に気を取られているからか、トラウマらしき兆候はない。
ゆっくりと深さを増してゆく。結局揺れる胸から目を外す事が出来ぬまま、腰まで浸かる。
「もう少し行けますか?」
「まだ大丈夫みたい」
トラウマらしき反応はない。案外平気だなと思いながら胸の深さ辺りまで来た時、少し息苦しさを感じる。
おそらく水圧で胸を圧迫されたからだとは思うが、思わぬ身体変化に動揺してしまう。
息が荒くなったのに気づいたのか、レネが優しく笑いかけてくれる。
「大丈夫ですよ。私がいます」
こんなに心強い事はない。
落ち着きを取り戻せたので、少し泳いでみよう。
レネに手を引かれたまま、体を水に浮かべる。顔を水から出したまま、犬かきのような姿勢。
そして目の前にはレネの二つの浮袋。いや、これを見ようと思ってやったわけじゃない。
目の前でふわふわ浮かんでいるレネの胸。ゆるやかな波と共に形を変え、ぷるんと揺れながら元に戻る。
これは目が離せない。
「上手ですよ」
褒めてくれるのも嬉しい。であるならば、この二つの浮袋に突っ込む勢いで泳げるかな?もし突っ込んでしまったとしても、レネなら笑って許してくれるかな?なんて、悪い自分も現れる。
なんて思っていたら、
「きゃあ!」
「うぐゔぁ!」
ふいに高い波が来て、一気に方向感覚が失われる。視界が暗くなる。足が着くはずなのに、足は一向に海底を捕らえない。何も考えられず、手は滅茶苦茶に水をかきまわすばかり。
先日の恐怖が蘇る。
「ショウさん!」
救いの声と共に、体が引き上げられる。
レネが僕の体を引き上げ、安心させるように抱きしめてくれる。
「大丈夫ですよ。私がいます」
「・・・ちょっと怖かった」
「無理しないでください」
「うん。ちょっと調子に乗ったかも」
僕もレネの体に腕を回して、大きく息を吐く。とてつもない恐怖と、死の不安。あの時感じた気持ちが一気に蘇った。
でも、こうしてレネの優しい声を聞いて体温を感じていると安心する。恐怖がゆっくりと溶けてなくなるのを感じる。
と、待てよ。
恐怖がなくなって冷静になって考えてみれば、今僕とレネは——間に最小限の布だけを挟んで抱き合っているのか。
少し湿ったレネの滑らかな肌が僕の肌に吸い付くように触れる。
これはちょっと——無反応ではいられない。
「れ、レネ、ちょっと・・・」
「大丈夫ですから」
違う意味で動揺する僕を、レネは強く抱きしめてそう言う。いや、それが大丈夫じゃないんだって。
心臓が激しく鼓動を始める。さっきの恐怖とは比べ物にならないほど早く、僕を内側から叩く。
「こんなにドキドキして・・・怖かったんですね」
そ、そんなに強く肌を合わせていると、僕が制御不能になっちゃいそう。
もう・・・押し倒しちゃおうかな。




