24 がっかり
幸い(残念ながら)カエルの乱入はなく水場を通り過ぎる。
レネはそれだけでも安心したのか、僕の横に並んでそっと腕をとってくる。登山デートしてるみたいで嬉しい。
「もうすぐ着くと思います」
レネに言われて見上げると、前方十数メートル先にさっき見た展望台が見えてくる。
そう、さっきは登山デートと表現したけど、登山と言うほど大袈裟なものではない。せいぜいピクニック程度で、さっきの水場から十数分で到着できるだろう。
本格的な登山なんかしたら日の出には間に合わなくなっちゃう。
振り向いて水平線を確認する。
「ああ、もうすぐ日の出だね」
水平線が地球の丸みに沿って白く輝いている。今お日様が準備を整えたところだろう。
「急ぎましょうか」
「そうだね」
少し早歩きで展望台へ向かう。
そしてほんの数分で到着。日の出には間に合った。
展望台は十メートル四方くらいの一枚岩で、上面が平らになっていて本当に展望台として作られたみたいな形をしている。大きさは違うけど、桟橋岩に近い感じ。ただ、展望台の先は断崖絶壁。足が震えるほど高くはないけど、少し危険。
そんな少し危険な場所に、僕とレネは隣あって腰を下ろす。足をぶらぶらさせながら日の出を待つ
「レネは日の出を見に来たりするの?」
太陽の目覚めを待つ間、レネにそんな事を聞いてみる。一人でこの島に住んで、日の出を見ようなんて思う事があるのだろうか。
レネは少し考え込んだ。
「そういえば、無いかもしれません。誰か一緒にいれば見に来たかもしれませんね」
と、静かに微笑む。
誰か——今は僕だろうか。
「美しい物を一緒に見られる人がいれば、強い絆が生まれるような気がします」
レネはそう言って僕に身を寄せてくる。強い絆か。僕とレネの間にも生まれるだろうか。生まれて欲しいけどね。
ただ、僕もそれをはっきり言えぬまま、日の出の時を迎える。水平線から顔を出した太陽がダイヤモンドみたいに辺りを照らし出す。
この島が光に包まれる。それと同時に太陽の光に空気が熱せられ、少しずつ熱を帯びてゆく。
強い光が海を走り、天国へ続くみたいに一本の道が太陽と僕たちの間を結ぶ。このまま歩いて行けそうな、そんな気にもなってくる。
もし歩けるならばレネと二人で——そう思いながらレネの横顔を眺める。
朝日に照らされたレネの金色の髪は、太陽よりももっと輝いていて、星を散りばめたみたいにキラキラしている。透き通るような肌は太陽に熱せられ、汗をにじませながら桃色に染められている。
そして青い瞳は太陽の光が届かない深海にも似た、深さと優しさとほんの少しの孤独を湛えた、切ない光を放つ。
その孤独を僕が埋められたらいいのに。
こうして朝日に照らされたレネは、間違い無く今この瞬間は世界一美しい。
僕はレネの横顔を吸い込まれるように見つめる。
美しい日の出を共に見る瞬間。何かが起こりそうなシチュエーションではある。
僕は出来るならあのファーストキスのやり直しを——
「ショウさん」
「うお!あ、あ、何?」
余計な事を考えていた僕はふいにレネに声をかけられ、慌てて太陽の方に向き直る。
気づかれてないよな・・・。
「あの・・・恥ずかしいのですが・・・」
伏目がちに僕の方を見るレネ。
恥ずかしい事って何だろう。
「恥ずかしいと言えば僕が考えていた事の方が恥ずかしいけど」
「何の事ですか?」
「いや、何でもない」
バレてはいないようだ。
ともあれ、僕はレネに向き直る。
「あの、ショウさんに言うのは恥ずかしいのですが、あの・・・私もう我慢出来ないんです」
決意を秘めたような表情。目の奥に強い光を秘めて、決心したように僕に言う。
「ショウさんにはご迷惑をかけるかもしれませんが、なぜか私すごく体が疼いてしまって・・・」
レネが言いながら僕の腕を強く掴む。
何だろう。すごくドキドキする。どうしても邪な考えが浮かんでしまう。
「こんな事を考えているなんて、ショウさんに軽蔑されてしまうかもしれません・・・でも私、止められないんです」
レネの真っ直ぐな目。逸らす事すら許されないような、決意に満ちた目。
「私の本能が、抑えられそうにありません」
これは——やはり僕の邪な考えが正解なのではないだろうか。まさか、レネがそんな事を言うなんて。
「あの・・・今日は大丈夫な日なんです」
大丈夫な日。女の子が言う大丈夫な日とは何があるだろうか。僕が思いつくのは一つだ。
僕の心臓がうるさいくらいに鼓動している。このまま体を飛び出して、宇宙空間でも鼓動を続ける事だろう。
となると、僕も覚悟を決めなければならないかもしれない。レネに全てを言わせてしまうのは、恥をかかせてしまう事になるかもしれない。それは避けなければ。
「レネ・・・僕出来るだけ頑張るから、レネを不安になんてさせないから」
言いながら心臓がとんでもない事になっている。あまりに鼓動が速くて吐き気がしそう。
だが、耐えろ僕。
「ありがとうございます。でも、ショウさんはそのままでいてください。私のわがままですから、私が全て担います」
むむむ。どういう事だろうか。レネに全て任せればいいと言うのか。なかなか興味深い。
だが、レネが続けた言葉は僕の予想外な言葉だった。
「私は・・・どうしても歌が歌いたいのです。今日は近くに船がいないので、大丈夫な日なんです。ショウさん、私が歌う事を許してくれますか?」
どうやら僕の予想は裏切られた模様。盛大な勘違いをしていたようだ。
がっかり。




