表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セイレーンと漂流Days  作者: みつつきつきまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/53

21 事故②


「ごほっ!」


 大きく咳き込んで海水を吐き出したと同時に、僕は目を覚ました。


 ゆっくりと視界に光が戻る。


 砂浜に仰向けに寝かせられて、目の前には僕の鼻をつまんで大きく息を吸い込んでいるレネ。全身がずぶぬれで、前髪から水が滴り落ちる。


 僕が目を覚ましたのに気づくと、レネは大きな目に涙をいっぱいにためて、ゆっくりと抱きしめてくれる。


 震える腕で優しく。


 ・・・おそらく死の淵から帰って来たところだろうけど、濡れた服で抱きしめられると何だか艶かしい。でも、その奥の暖かい体温に安心感を覚える。激しい心臓の鼓動が伝わって来る


「良かった・・・ショウさん・・・」


 声にならない声。絞り出すように言うレネ。


「ごめん、レネ。また助けられたね」


 僕に抱きついてきたレネの頭を撫でる。濡れてびしょびしょだけど、指通りの良さは変わらない。


「いいんです・・・それは・・良かった・・・助かって」


 そう言いながら僕の胸に顔を埋めるレネ。心配かけちゃったみたいで、心が痛い。


「ショウさんが死んでしまったら・・・私は・・・生きていけません」


「大袈裟だよ、レネ」


 僕は言って、笑みを浮かべる。


 それでもレネは泣き続けた。いつも柔らかな笑顔のレネが声をあげて。


 レネの頭と背中を撫でてあげる。この愛おしい背中を、僕は悲しみで満たしてしまった。これは、僕が一番望んでいない事だ。レネにはいつも笑っていてほしい。それこそが僕の幸せ。


 レネは中々泣き止まなかった。僕は砂浜の熱さと、レネの体温に挟まれて天国にいるかのような気持ちになる。うん、こっちの天国には、僕の天使様がいる。


 次第に落ち着いてきたレネが顔をあげる。真っ赤な目で僕を見ている。


「約束して下さい」


「何?」


「もう私を一人にしないって」


「一人にはしてないよ」


「私が一人になりそうな事はしないって」


 僕を責めるような、懇願するような目。真っ直ぐ見据えたその目に僕は、


「うん。一人にはしないよ」


 そう言ってレネを強く抱きしめる。こんな小さな天使を残して僕はどこにも行けない。


 言っているうちにレネも落ち着いてきたようだ。心臓の鼓動もゆっくりになって来た。


 数秒どころか数分は沈黙が続いた。


「ショウさん、死んでしまうかと思いました」


 僕の胸に顔を乗せたままのレネ。その目には不安そうな光を残したまま。


「ごめんよ」


 もう何度目だろう。


「もういいです」


 いつもの笑顔。人生の全てを投げ打ってでも守りたいくらい可愛い。


「人工呼吸が間に合って良かったです」


 そう、人工呼吸ね。溺れた人にするマウスツーマウスの——


「え?人工呼吸?」


「はい。間に合いました」


 にっこりと笑うレネの唇に目がいく。


「それって、唇と唇を——」


「そうです」


 きっぱりと言うレネ。僕は、レネと唇と唇を重ねた。


 一気に頭に血が昇る。


「そ、それってファーストキ——」


「違います。人工呼吸です」


 あくまでそう言うレネ。


 いや、国によってはキスはただの挨拶だとも言われるし、人工呼吸とは明確な違いがあるのかもしれない。


 でも僕にとっては、初めて唇を重ねた瞬間でもある。


「人工呼吸ですから」


 レネはかたくなに、僕の目を見て言ってくる。


「大丈夫です。ショウさんと私のファーストキスは守られています」


 ああ、人工呼吸だから僕とレネの——レネの?


 なるほど。そういう事か。


 僕なんかがファーストキスの相手だというのを認めたくないのか。


 レネが未経験だったって事が意外だったけど、その初めてを大切にしたいって気持ちは万国共通なのかな。ならば、そういう事にしておいてあげた方がレネの為か。


 少しがっかりしながらも、納得。とは言え、僕にとっては大切な経験である事には間違いない。


「それに、二度目ですし」


 ああ、ファーストでもないのね。


 レネと生活していると何度か思うが、僕にとって大切な経験が、僕が覚えていない間に起こっている事が多い。せっかくレネと唇を重ねられたのに、どうしてその感触を覚えていないんだ。覚えていたら人工呼吸など必要ないだろうと言われても、なんだか納得出来ない。


 納得は出来ないが、それによって命が助けられたのも事実。レネの唇によって救われたと考えれば、幸せな事かもしれない。


「ごめんね、レネ」


 謝ってばかりだな。


「いえ」


 レネは僕の胸の上で目を閉じた。


「いつか、ちゃんとしたファーストキスが出来るといいですね」


 やっぱり、ちゃんとしてないファーストキスだったんだ。


「でも、柔らかかったです」


 僕、その感触知らないんだけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ