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セイレーンと漂流Days  作者: みつつきつきまる


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18 恐怖映像


 ふと目を覚ますと、日が昇り始めたばかりのようで、まだ少し薄暗い中で僕はまどろんだ。


 いつも一緒に眠っているレネはいない。これはいつもの事。レネはよく昼寝をしているせいか、朝が早い。いや、朝が早いから昼寝をよくするのか。まあ、どうでもいい。


 だから僕が目を覚ましてレネがいないのはいつもの事だが、こんなに朝早くから起きているとは知らなかった。


 僕の方はと言えば、昼寝をするレネを見守るのが日課になっているので昼寝なんてする暇がない。昼寝のためにあの御尊顔を見逃すなんて事があっては一生の不覚、一生の恥。それほど、レネの昼寝姿は愛おしい。だから、夜はしっかり眠る。レネの柔らかい感触に包まれていると、ゆりかごのような、お母さんのお腹の中のような安心感に包まれ、より眠りの深い方へ深い方へと誘われ、いつもぐっすりと眠る事が出来る。


 だから、僕がレネよりも遅く起きる事は仕方のない事だ。


 でも、あの愛おしい姿を目覚めと共に拝見したい。これも、ここ最近のテーマである。


 今日もその願いは叶わず、レネの体温がほんのり残ったベッドから体を起こす。


「レネは・・・何時に起きてるんだろう」


 僕は言いながら、ベッドを抜け出してリビングに向かう。


 ここにもレネはいない。


 キッチンでは温かなスープから芳しい匂いが漂っている。もう朝食の準備をしていたのか。


 しかし、レネはどこに行ってしまったのだろうか。


 ふいに不安になる。レネがいなくなる不安。そして、実はレネなんて美しい天使はいなくて、実は僕が勝手に夢を見ていただけだ、って不安。今、夢から覚めたところかもしれない。


 その不安にかられてすがるように部屋を見回すけど、勿論レネの姿はない。レネの甘い匂いだけが残っている。


 その匂いにほっとしつつ、僕はリビングにある大きな窓のカーテンを開ける。眩しい朝日に目を細めつつ、目の前に広がる海岸線を眺める。すると——


「?何かいる」


 すぐそこの波打ち際に何かがいる。いや、誰かがいる。


「あ、レネだ」


 朝日に負けない輝きを放つ金髪と、白く滑らかでほのかにピンクがかった背中と、完璧な丸みを帯びたお尻と——


 がたっ。


 僕は思わず窓の下に隠れる。


 見てはいけない物を見たような気がする。見てはいけないが、見たい物。それは僕の良心と本能と理性のせめぎ合いを引き起こす光景だった。


 恐らく、全裸だった。


 一瞬しか見ていないし、後ろ姿だったけど、確かにいつもの白いタンクトップはつけていなかった。毎日洗濯しているのだから、あんな色の下着がない事も分かっている。


 何もつけていないレネが水浴びをしていた。


 何て言う・・・何て言う大事件。


 あのまま見ていたら、この家を鼻血で真っ赤に染めてしまうところだった。この大海を血の海にしてしまう事だって出来たかもしれない。


 いやしかし、あの一瞬が克明に切り取られ、目の裏に焼き付けられて離れない。


 これは恐ろしい。恐怖映像と言っていい。見たらもう、戻れない。どこへ?


 ともあれ——


「み、見たい・・・」


 本音が口から漏れてしまう。


「少しなら・・・」


 ほんの少し頭をあげて、窓から顔を出すだけでいい。そうすればある意味天国がそこに待っている。一糸纏わぬ天使が迎えてくれる。そう思いつつ、窓枠に手をかける。


「いや、しかし・・・」


 そんな事をレネに知られてしまっては、レネが傷ついてしまうかもしれない。僕なんかに裸を見られたと知られてしまったら、僕は嫌われてしまうかもしれない。


 いやいや、嫌われたとしても見る価値はあるのではないか。あの、レネの裸だぞ。誰もがどんな手段を用いても見ようとするに違いない。それが今、手の届く場所にあるのだ。何を臆する必要がある?


 いや、嫌われる事は僕にとってはそれ以上の大事件だ。傷つける事だってそうだ。いくらレネの裸体が魅惑的だとは言え、やっていい事と悪い事くらいは理解しているつもりだ。


「でもやっぱり——」


 頭の中でもう一人の自分と葛藤する。本能に従う自分と、理性を守ろうとする自分。どちらも自分、カグラ・ショウ。


「ああ!やっぱり——」


 自分の中で『見る』という決断に傾きかけた時だった。


 がちゃ。


 玄関のドアが開いて、潮風を纏わせたレネが姿を現した。柔らかな金髪を揺らして、青い目に光を湛えながら。もちろん、着衣している。


「あ・・・あぁ。レネ」


 力無く、ため息のように言う。少しほっとしている。


「ショウさん、今日は早かったんですね。何してるんですか?」


 窓の下にしゃがんでいる僕を見てそう言うのも無理はない。


「いやあの。ストレッチを」


 と言いながら急に膝の屈伸を始める僕。


「あまり無理はしないで下さいね」


 レネはそう言って、罪を犯した僕を優しく裁くように笑顔を浮かべる。全ての罪を白状して一生かけて償いたいくらい可愛い。


 ——危なく罪を犯すところだった。


「れ、レネは何してたの?」


 屈伸を続けながら僕は言う。何してたかは知っているけど。


「朝は水浴びする事にしているんです。眠っていると火照ってしまって」


 おかげで暖かく眠れています。


「すっきりして目が覚めますし」


 僕もすっきり目が覚めました。


「ショウさんもどうですか?一緒に」


「・・・」


 一緒に。全裸で?


「いや・・・やめとく。多分、僕の血が足りなくなる・・・」


「はぁ。血が?」


 レネは分かってないように言う。


 そう、分からないままでいい。


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