15 酔いどれ
「はぁ~今日も天気だ、ブラジャーも飛んで~」
今日も天気がいいので、僕は自作の『空飛ぶブラジャー』を歌いつつ、レネのブラジャーを物干し竿にひっかける。今日のは水色か。
レネのブラジャーも含めた洗濯は、僕の日課になりつつある。爽やかな空気の中、洗濯物を干すのは気持ちいいので、思わず鼻歌が溢れるのは無理もないところ。
「~今日も君の胸に、着陸成功~」
再び歌えと言われても覚えていないレベルの歌だが、気分がいい。
「はぁ~、あ?」
全ての洗濯物を干し終え、風に揺れるブラジャーを眺めていると、その向こう、砂浜に何かがあるのに気づいた。何か、赤いもの。
あの辺りは昨日レネと焚き火をしてちょっといい雰囲気になった辺りだ。今日朝起きたらすっかりいつものレネだったのでちょっと残念だったけど、いい思い出なのは間違いない。
赤いものは焚き火跡のすぐ横にある。何だろう、昨日何か忘れ物でもしたかな?
僕は考えつつ、その赤い物に近づく。危険な物でなければいいけど。
近づいてみると、それは人だった。真っ赤な髪をした女の人。大の字になって寝ている。よだれを垂らして。
「うわぁ」
あまり近づいてはいけないのではないかと思いつつゆっくり近づくと、息遣いというかいびきが聞こえてくる。
なんか、夢が覚めちゃう光景だな。
特に女の子には幻想を抱いていないつもりだったけど、こんな姿を見せられては残念に思ってしまう。寝癖なのかボサボサの真っ赤な髪。おそらくはなかなか整っているはずであろうその顔。丈が短く、おへそ丸出しのタンクトップに収められたその胸。
——レネより大きいかも。
思春期男子とは正直な物で、大きな胸にはどうしても目を奪われてしまう。そんな胸が、呼吸に合わせてゆらゆら揺れている。
そして華奢とは言えない下半身。ホットパンツに包まれた下半身は、レネよりもボリュームがある。でも、もしかしたらこれくらいの方が人気があるかも。
とは言え、砂浜で大の字になっていびきをかいていたら色気も何もない。そもそも、この人はどうしてここで寝ているんだろう。
「あの。もしもし」
肩をゆすってみる。
「んがっ」
鼻が鳴るが、起きる気配はない。いや、随分体が熱いような。
「あの。どうしました?」
「んぐっ」
再び鼻が鳴る。
やっぱり体が熱い。よく見ると顔が真っ赤ではないか。
これはヤバいのではないか。熱中症か?
だとするとこんな所で寝かせてはいられない。すぐに涼しい場所へ。涼しい場所と言えばレネの家。レネの家に運ぶとしよう。
「あの。起きられますか?」
「んがっ」
起きる様子はない。もう起きられる状態ではないのかもしれない。これは一刻の猶予もない。
僕は彼女の背中に左手を回し、両足を揃えさせて太もも下に右手を入れる。そしてお姫様抱っこの要領でゆっくりと持ち上げる。手を跳ね返す弾力が凄い。
「んぐっ!」
レネよりは重い。見た目が少しボリュームがあるから当然か。
僕はゆっくりと歩みを進める。砂に足を取られ、歩きにくいったらありゃしない。昨日レネをお姫様抱っこした時はこんなに苦労したっけ?
一歩足を進める度にぷよぷよ揺れる胸は見ないようにして、レネの家に到着。
「レネー!」
玄関の外から呼びかけると、
「はーい」
中からお日様が出てきたような笑顔で僕を迎えてくれるレネ。
僕の腕の中の目を向ける。
「あら?イナ?どうしたんですか?」
「やっぱり知り合いなんだ」
そうだろうとは思った。て事は、この人もやっぱりセイレーン?
「んがっ」
返事するように鼻を鳴らすイナさん。
「何か体が熱くて、顔が赤いから熱中症か何かだと思って」
そこまで言って、そのイナさんから独特な匂いが漂ってくる事に気づく。
「あら。またイナはお酒を飲みすぎてしまったのですね。皆んなに注意されているのに」
そう。単純に酒臭い。酔っ払って寝てしまっただけか。
とは言え、連れてきてしまったものは仕方ない。取り敢えずベッドに寝かす。
「ショウさん、すみません。イナは普段はとてもいい子なんですが、少しお酒に飲まれてしまうところがあって」
つまり酒癖が悪いって事か。僕はそんな人の対処の仕方は知らないけど。
まあ、レネの知り合いだと言うならレネに任せておけばいいか。それとも、連れてこない方が良かったのかな。
「砂浜で寝てたけど、いつから寝てたんだろう」
「朝見た時はいなかったと思うんですが」
「でも、こんな熱い中で寝てたら危ないと思うよ」
「そうですね。よく言っておきます」
そんな事を二人で話していると、
「ん、あ?」
イナさんが目を覚ます。うわ。目が座ってる。
多分ちゃんとしていれば相当な美人なんだろうけど、目の下に隈をつくって座った半眼をしていたら怖い。
「レネ。レネだ」
レネを見てうわごとのように言うイナさん。そして僕の方に目を移す。
「そして噂の坊主」
坊主と来ましたか。
「二人はヤったの?」
寝起きで何てストレートなセクハラ。イナさんに限らず、セイレーン達はセクハラまがいの発言が多い。
「イナ、また酔っ払っていたんですね?」
責めるようなレネ。
「だって、リンが飲め飲めって」
なるほど。あのリンさんなら言いそう。
「セラは脱がそうとするし」
どういう飲み会ですか?
「お返しに全部脱がしてやったけど」
それは盛り上がったようで。
「盛り上がるのはいいですが、ちゃんと家に帰って寝て下さいね。外では何があるか分かりませんから」
「分かったよ。ここでちょっと寝たら帰る」
意外と素直に聞き入れるイナさん。
「その代わり、坊主貸して」
「え?」
「ショウさんですか?」
「そう。坊主」
イナさんは僕を見ると、大きな胸を自分の手の上に乗せるような仕草をして、
「結構体には自信があるんだぜ。堪能させてやろうか?その後は私が堪能する番だけどな」
と言って舌なめずりする。
貞操の危機。
思春期男子が喜んで飛び込みそうな、魅惑的な罠である。しかし残念ながら、イナさんの今の雰囲気を見ると、一歩どころか数歩引いてしまうのは否めない。
「ダメですよ」
そこはしっかりとレネが言い聞かせる。
「ショウさんは私が食べるんです」
「チェ。独り占めかよ」
きっぱりとしたレネの言いように、イナさんは口をとがらせて布団を被った。
それから数秒も待たずに、いびきが響き始める。
セイレーンのイメージって何だろう。




