表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

例外の契約

「‥‥‥‥"例外の契約"について、教えてもらえますか?」


蓮は意を決して口を開いた。


「さっきから噂だとか、危険だとか‥‥‥‥正直、よく分からなくて」


エルメスは一瞬だけ考える素振りを見せ、それから頷いた。


「いいだろう。

 どうせ、もう関わった以上は避けられん」


そう前置きして、語り始める。


「この世界の奴隷契約はな、基本的に力の弱い者を縛るための魔法だ」


「命令は絶対。拒否は不可。

 魂の奥まで刻み込んで、主従関係を固定する」


マーリンが、無意識に胸元を押さえた。


「だがーー」


エルメスは視線を彼女に向ける。


「例外の契約は違う。

 縛っている"はず"なのに、魂に食い込んでいない」


「命令は通らない。

 だが、完全な自由でもない」


エルメスは低く言った。


「主従が成立していないのに、関係だけが残っている」


「それが‥‥‥例外」


蓮はごくりと喉を鳴らした。


「そんな契約が、あるんですか?」


「あるにはある」


エルメスは肩をすくめる。 


「だが意図的に作れる者はいない。

 だから"噂"にしかならない」


そして、はっきりと言った。


「ーーだからこそ、危険なんだ」


蓮は、もうひとつ気になっていたことを口にする。


「それなら‥‥‥‥どうして俺を試すんですか?」


「放っておけばいいじゃないですか。

 俺なんて、戦えもしないし‥‥‥‥」


エルメスは、鼻で笑った。


「違うな」


「君はーすでに"選ばれている"」


「選ばれて‥‥‥‥?」


「そのエルフが、君を選んだ」


エルメスの視線が、マーリンに向く。


「奴隷は"選ばない"。

 だが、あの娘は選んだ」


「それだけで、君はただの客じゃない」


一泊、置いて。


「それにーー」


エルメスは、静かに続ける。


「君は"奴隷商人"に向いている」


「えっ!?」

蓮は素っ頓狂な声を上げた。


「な、なんでですか!?」


エルメスは、指を一本立てた。


「理由は三つある」


「三つ‥‥‥ですか‥‥」


「まずは、一つ」


「奴隷商人は、世界で最も多くの人間を見る職業だ」


「才能、欠落、嘘、恐怖‥‥‥‥

 それらを見抜けなければ、生き残れない」


「君はすでに、"価値"を見抜いた」

マーリンを見る。


「二つ目」


「奴隷商は、"力を持たなくても"世界を動かせる」


「戦士でも、魔法使いでもなくていい。

 人と人を繋ぐだけで、戦争すらも左右する」


蓮は、はっとした。


(‥‥‥‥戦えなくても、世界に関われる)


「最後の三つ目だが‥‥‥」


エルメスは、蓮を真っ直ぐに見据えた。


「君は、人を道具として扱えない」


「それは欠点だ。

 だがーー」


 一瞬、口元が緩む。


「"例外"を扱うには最高の資質だ」


沈黙。


蓮は、胸の奥がじんわり熱くなるのを感じていた。


「‥‥‥‥俺」


言葉を選びながら、続ける。


「俺‥‥‥実は異世界に憧れてました」


「勇者とか、英雄とか‥‥

 でも、俺は弱い」


 視線を下げて、拳を握る。


「それでもーー

 誰かの力を、正しく使えるのなら」


 顔を上げる


「奴隷商人になりたいです」


 エルメスは、じっと蓮を見つめーー

 やがて、深く頷いた。


「いい答えだ」


「だから試す」


「その覚悟が、本物かどうかをな」


そう言って、背を向ける。


「試練を超えたらーー」

エルメスはちらりと振り返り、笑った。


「その時は、私を師匠と呼んでもいい」


マーリンが、そっと蓮を見る。


「‥‥‥‥マスター」


その一言に、蓮は少し照れたように笑った。



こうして、蓮は憧れを"道"に変えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ