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奴隷商

 案内された先は、街外れの薄汚れた一角だった。


「ここは低級奴隷商。

 まぁ金と信用がない奴が行く場所さ」


(‥‥今の俺には、ぴったりだ‥‥)


蓮は扉を見上げ、深く息を吸った。


「よし‥‥行くか」


「悪いんだけど!私はここまでね!」


「えっ‥‥そうなの?」


「あ〜ごめんね!奴隷商ってあんまり好きじゃないんだよね‥‥‥」

気まずそうに目線を逸らす女冒険者。


(確かにいいところではないよな‥‥‥‥‥)


「うん!ありがとうございました!おねぇさん!案内してくれて助かりました」


「いいよ、いいよ!これから色々と大変かもしれないけど頑張ってね!」

 私の名前はアイナよ。『アイナ・ストレンジャー』」


「本当にありがとうございました!アイナさん!」


そう言って女冒険者のアイナさんとはここでお別れをした。


「よし!行くか!」


こうして、薄汚れた奴隷商のドアを開けることした蓮であった。

看板には雑に書かれた文字。


【奴隷売買】


「‥思った以上に露骨だな‥‥」


 中に入ると、

薄暗い店内、鉄格子、乱雑に並べられた檻。


「へへっ‥‥‥いらっしゃ‥‥‥あ?」


店主は蓮を見るなり、鼻で笑った。


「なんだ坊主。冷やかしか?

 ここはガキの遊び場じゃねぇぞ」


 檻の中には、

虚な目の人間、傷だらけの獣人、年端もいかない子供までいる。


(‥想像以上にキツイ)


「ここが‥‥奴隷商‥‥‥‥しかも"低級"。


アイナさんの言葉が頭をよぎる。


『金と信用がない奴が行く場所』


まさにその通りだった。

でも、護衛を探すなら、ここからしか始められない。


「おい!聞いてるのか!」

店主は少しイラついたようにも見えた。


(完全に冷やかしだと思われている!)


「いや〜すみません!また今度にします」


「ふん!」


蓮は静かに、店を後にした。


*******


別の店。

同じ低級だが、比較的管理がマシな奴隷商だった。


「いらっしゃい!お?兄ちゃん‥‥‥ここいらじゃ見ない顔だな?」


漢服のいい男が出迎えてくれた。

奴隷商人として営んでいるが、元は冒険者だったのだろう

腕や顔にまで傷があった。


「今日はどういったご用で?」


少し威圧感はあるが、悪い人ではなさそう


「今日は、護衛用に奴隷を買いたくて‥‥」


「ほー‥‥‥護衛用ねー」


店主は少し目を細めた。


「あははは‥‥。」


(めっっちゃ怖い‥‥。かなりイカつい)


「金はあるのかい?うちは低級だけど、値ははるぜ?」


そういって店主は指をお金の形に似せながら言った。


「あっ‥‥一応それなりには‥‥‥」


蓮は、金貨が入った袋を見せた。


「おお!わかった!いい奴隷を紹介してやるよ!」


(さすが低級奴隷商。金さえあればオッケイみたいだ‥‥)




まず、紹介されたのが獣人族だ。

みんな、頭の上に耳が付いている

猫のような娘がいたり、狼のような男もいる。


「護衛用と言ったら!獣人族がいいな〜!

 こいつらは身体能力が"ずば抜けていて"危機管理や戦闘能力には申し分ない」


「ただ少し値は張るし、魔法耐性が低いのがネックだな」


獣人族は目つきが鋭く、檻がなければ今にも飛びかかって来そうな

雰囲気がそこにはあった。


(これは‥‥‥俺も屠られるんじゃない?)


店主は次に、人族を紹介してくれた。

薄汚れた服に、首輪のような物が付けられている。


「ここは兄ちゃんと同じ人族だ!だいたい人間が奴隷になるのは

 訳ありがほとんどだな!売られた奴がほとんどよ!」


若い女や男、子供までもが奴隷になっている。

顔に覇気が感じられない。


「護衛にはなれそうにないな‥‥」


「戦闘能力は低いし、魔法の適正があるのはごく稀だな!護衛には向かないかもな!

 主に身の回りの世話や、労働に使われるな」


(でしょうね‥‥‥。これは魔物や盗賊に襲われたら共倒れになりかねない)


「う‥‥ん。あんまりピンとこないな」


「やっぱり奴隷を護衛にするのは難しいのかな?」



店主が次の奴隷を紹介するため

別の場所に案内してもらう途中で、そこで彼女を見つけた。


 檻の奥、

静かに座るエルフの少女。


 翡翠色の瞳が、こちらを見つめ返してくる。


鑑定が勝手に走った。


******************


【マーリン/高位エルフ】


<魔力適正:S>

<状態:魔力封印・衰弱>


******************


(‥‥護衛ってレベルじゃねぇ‥‥)



「店主さん!この子は!?」


食い入るように、蓮は店主を引き止める。


「あー兄ちゃん‥‥‥‥それはあんまり"おすすめしない"」


「えっ?なんでです?エルフって確か貴重な‥‥‥‥」


「確かにエルフは貴重なんだが‥‥‥そいつは魔法適正が全くない」


(いや『S』って出てるけど!?)


「エルフだろ?普通は魔力の塊みたいな種族だ。

 だがそいつは違う。完全にハズレだ」


店主は吐き捨てるように言った。


「魔力は感じねぇし、魔法も使えねぇ。

 売り物としては失敗作だな」


(‥‥‥嘘だ)


蓮の視線は、檻の奥の少女から離れなかった。


ーー鑑定。


******************


【マーリン/高位エルフ】


<魔力適正:s>

<状態:魔力封印・衰弱>


******************


(魔力がないんじゃない‥‥‥‥

 "封じられている"‥‥‥‥‥?)


その時だった。


翡翠色の瞳が、わずかに揺れた。


視線が合う。


「‥‥‥‥ねぇ」


かすれた声。

だが、はっきりとした意思を感じる。


「‥‥‥買う気がないなら、見ないで」


蓮は息を呑んだ。


「しゃ、しゃべれるのか‥‥‥‥!」


店主が鼻で笑う。


「そりゃそうだ。

 無能でも口くらいは利く」


蓮は檻に近づき、しゃがみ込んで小声でしゃべる。


「‥‥君、自分で魔力を封じてる?」


マーリンの肩が、ぴくりと震えた。


「‥‥‥‥どうして、わかるの」


「鑑定で‥‥そう出てる」


しばしの沈黙。


そして、マーリンは小さく息を吐いた。


「‥‥‥このまま力を隠していれば、

 殺されることはないと思った。」


「エルフは‥‥‥‥価値がある。

 だから、奪われて、売られて‥‥‥‥‥」


ぎゅっと、自分の腕を抱く。


「‥‥‥‥もう、疲れたの」


蓮の胸が、少し痛んだ。


(この子‥‥‥)


「なあ店主さん」


蓮は立ち上がり、店主を見る。


「このエルフ、いくらだ?」


「‥‥‥‥‥‥本気か?」


店主は眉をひそめた。


「言っただろ。ハズレだぞ?」


「それでも‥‥‥この子が欲しい」


店主はしばらく蓮を観察し、

やがて指を三本立てた。


「金貨三百だ」


「‥‥‥‥高っ!」


「エルフだ。

 無能でも、これ以下にはならねぇ」


(ミスリル売ってなかったら詰んでたな‥‥‥‥)


蓮は一瞬だけ迷い、口を開いた。


「‥‥‥‥二百五十」


「は?」


「護衛するには、衰弱している。

 治療費もかかる」


店主は目を細める。


「‥‥‥‥ガキのくせに、よく見てやがる」


 数秒の沈黙の後。


「‥‥‥‥二百八十だ。

 それ以下は無理だ」


 蓮は頷いた。


「‥‥‥‥‥それでお願いします」


金貨がカウンターに置かれる。


「毎度あり!」


店主は首輪を手に取りながら言った。


「さてと!契約するぞ!」


店主は、特殊な紙をなぞると


その瞬間ーー

蓮の視界が、赤く染まった。


(うわ‥‥‥‥これ何!)


 光が走り、

マーリンの首元の魔法陣が淡く光る。


 だがーーー


「……っ!」


 マーリンが苦しそうに眉を寄せた瞬間、

光は"途中で止まった"。


「‥‥‥え?」


店主が目を見開く。


「封印‥‥‥‥だと?」


マーリンは、静かに言った。


「‥‥‥‥ごめんなさい」


「‥‥‥‥私、自分で魔力を縛ってるの。

 誰の命令にも従われないように‥‥」


蓮は、思わず言った。


「‥‥‥それでも、いい」


マーリンは、驚いたように目を見開く。


「え‥‥‥‥いいの?」


「護衛としてじゃなくてもいい。

 無理に命令もしない」


少しだけ、照れたように笑う。


「‥‥一緒に、生きてくれたなら」


長い沈黙。


そしてーー

マーリンは、初めて微笑った。


「‥‥‥変な人」


契約は、不完全なまま成立した。




こうして、蓮はマーリンを買い、

マーリンは蓮を選んだ。


奴隷契約でありながら、

命令も、服従も、強制もない。


この歪な関係が、

後に例外の契約と呼ばれることになるとは、

この時の二人は、まだ知らなかった。














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