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歯車

王都の最上階。

王都を一望できる円卓の間は、夜にも関わらず灯りが落とされていた。


中央にあるのは、巨大な地図。

王都とその周辺、主要貴族領、街道、港ーー

すべてが魔導投影で浮かび上がっている。


「‥‥‥王立素材庫より報告です」


静かな声を告げたのは、文官長アルベルト。

白髪混じりの男は、感情を一切乗せずに書類を差し出した。


「高純度ミスリル。

 量は王国が把握している流通量を明確に上回っています」


円卓に座る者たちが、わずかにざわめく。


「どこの貴族だ?」

「いや、王家に事前報告がない」


「‥‥‥‥まさか、未登録鉱脈か?」


その声を、ひとりの男が制した。


王国宰相、ルーデン・フォン・ハーゼン。

老齢だが、眼光に鋭く、鷹のようだった。


「騒ぐな」

「問題は"どこから出たか"ではない」


宰相は、指先で地図をなぞる。


「誰が、どう動かしたかだ」


文官長が続ける。


「同日、南区の裏紹介で

 大規模な信用取引が確認されました」


「名義は?」


「複数。宝石、土地権利、信用証‥‥‥

 ですが、共通項があります」


宰相が目を細める。


「‥‥‥"最初の取引相手"だな」


「はい」

文官長は頷いた。

「裏の記事に、同じ名前が残っています」


一拍。


「ーーエルメス」


その名が出た瞬間、

円卓の空気が、はっきりと冷えた。


「また、あの男か‥‥‥」

「商人風情が、国家級資源を‥‥‥」


宰相は、わずかに笑った。


「風情、ではない」

「あれは、"動く秤"だ」


「金、信用、戦争」

「どれも、あの男が触れた瞬間に傾くことが多い」


一人の将軍が、低い声で言った。


「放置は危険です」

「既に、王都内の相場が歪み始めている」


宰相は、首を横に振る。


「いや。

 今はーー触れるな」


「‥‥‥なぜ?」


「奴は今、"まだ正面"にいる」

「裏に完全に沈ませたら、二度と掴めん」

良質なミスリルは、それほどまでに価値が高い

慎重にことを運ばないといけない


宰相は、地図の一点を指差した。


「だが‥‥‥」


その指先が、王都中央区から

貴族街の外縁へと滑る。


「嗅ぎつける者は、必ず出る」


文官長が静かに告げた。


「既に、動いています」

「貴族が三家」

「闇商人が二組」

「ーーそして」


一瞬、言葉を切る。


「"雇われ"が、一つ」


将軍が口元を歪めた。


「刺客、ですか」


「ええ」

「表向きは偶然の衝突」

「記録には残らない形で」


宰相は、深く息を吐いた。


「‥‥‥愚かだな」


「止めますか?」


「いや」

宰相は静かに言った。


「見せてもらおう」

「あの男がどうくぐり抜けるのかを」

「そしてーー」


目を閉じ、ゆっくりと開く。


「あの男は絶対に"切り札"を持っている」


円卓の中央で、地図が脈打つ。

王都は、まだ眠っている。

だが、その裏側でーー


確実に、刃は研がれ始めていた。


***


王都の夜は、静かだ。

だがそれは、安全という意味ではない。


石畳の裏路地。

灯りの届かない屋根の上で、影が一つ、しゃがみ込んでいた。


「‥‥‥確認」


低い声。

感情のない、仕事の声だった。


黒装束。

顔は布で覆われ、露出しているのは片目だけ。


その視線の先ーー

裏商会の地下口から、三人と一人が出てくる。


(‥‥‥商人、護衛、魔法使い‥‥‥子供?)


影は一瞬だけ迷う。


「‥‥‥‥構わない」


耳元の魔導通信が、短く震えた。


<依頼は"確認"ではない>

<"削除"だ>


影は、ゆっくりと息を吐いた。


「了解」


合図もなく、

屋根の端からーー消える。



「‥‥‥‥ん?」


蓮が、ふと足を止めた。


理由は分からない。

ただ、背中がーー冷えた。


「‥‥‥師匠」

「来るね」

明らかに、何者かによる殺気。


その瞬間。


ーーギンッ!


空気を裂く音。

エルメスが即座に外套を翻す。


「伏せろ!」


次の瞬間、

蓮のいた位置を、細い刃が貫いた。

石壁に突き刺さる短剣。


「‥‥‥‥っ!」


「狙撃!?」

蓮が叫ぶ。


「さぁどうだろうね‥‥‥」

エルメスは即答する。


「だが、近い」


影が、路地の奥から"現れた"。


足音はない。

だが、確実に距離を詰めてくる。


「標的確認」

「ーー排除開始」


一気に、三方向。


屋根、壁、地面。

影が分裂したかのように、三人の刺客が同時に動いた。


「多い!?」

蓮が身構える。


その瞬間。


マーリンが、一歩前に出た。

「マスターは私が守る!!」


「‥‥‥赤」

「‥‥‥黒」

魔力が膨れ上がる


ゴオゥゴゴゴゴゴッ


エルメスの目が、見開かれる。


「マーリン、待ーー」


遅い。

マーリンの瞳が、真紅に染まった。


「ーーヘルフレイム!!」


ドンッ!!!!!


爆音。


炎だけではない。

赤と黒‥‥まさに"地獄の色"をした魔力が、

地面を抉り取る。


路地の中央がーー丸ごと吹き飛んだ。


石畳が、裏返る。

壁が、崩れる。


刺客の一人が、空中で弾き飛ばされた。


「‥‥‥な、ッ」


残った二人が、明らかに動揺する。


「なんて言う魔法ーー!!」

「子供だぞ!?化け物か!!」


マーリンは、首を傾げた。


「‥‥‥あれ?」

「やりすぎた?」


「やりすぎだ!!」

蓮は叫んだ。


その瞬間ーー


背後。


「ーー隙あり」


シュッ


黒い刃が、マーリンの背中へーー


だが。


「はい!そこまで♡」

キンッ!!刃は弾かれた。


「なっ‥‥」


次の瞬間、

刺客の背後に、セシルが"立っていた。


「お仕事、お疲れ様です〜」


ズンッ


鈍い音。

刺客が崩れ落ちる。


セシルはいつもの秘書の時の制服ではなく

忍者のような格好をしていた。

まさしくクノイチ


(セシルさん‥‥‥本当に何者?)


エルメスは、ゆっくりと息を吐いた。


「‥‥‥やれやれ」

「どこからの指示かな?」


刺客は黙秘を続ける。


「まぁいい‥‥。あとでゆっくり聞こうか

 この手は自害することが多いから‥‥セシルくん」


「はーい!」

セシルは大きく返事をした。


「では!少し眠ってもらいますよぉ〜」


ドスン

腹に強烈な一発。


「ぐはっ!!」

ドサ。‥‥‥‥


「セシル‥‥‥おっかない‥‥」

マーリンはセシルを今後、怒らせないようにしようと

誓うのであった。




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