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ミスリル

巨大な風穴の奥で、青白い光が静かに脈打っていた。


露出したミスリル鉱脈は、まるで山の心臓を剥き出しにしているかのようだった。

岩肌に走る鉱脈は太く、幾重にも枝分かれしている。


「‥‥‥これ、全部ミスリル?」


蓮の声は、さすがに震えていた。


「全部だね」

エルメスは即答した。


「しかもどれも質が良さそうだ。

 混じり気もない。王国級だ」


「王国級って‥‥‥」


「"国家予算"って言えば分かりやすいかな」


蓮は、それ以上考えるのはやめた。

全く想像つかないぐらいの額になるってのは

分かった気がする。


***


しばらくして、鉱山の入口が騒がしくなる。


「来ましたよ〜!追加人員です〜!」


セシルの明るい声と共に現れたのは、

屈強な男たち、魔力感知用の水晶を持った職人、

そしてーー短躯で筋骨隆々のドワーフたち。


「おいおい‥‥‥」

蓮は目を丸くする。


「どこからこんなに‥‥‥」


「当然だろ?」

エルメスは外套の埃を払う。

「"ミスリルが露出した"なんて情報、独り占めするほど僕は愚かじゃない」


「‥‥‥?」


「信頼できる人間だけを、即座に呼ぶ」

エルメスは淡々と言った。

「金は、信用で掘るものだ」


マーリンはよく分かっていないが、すごいことだけは察している。


「人、いっぱい‥‥‥‥!」


***


ミスリルは硬い。

通常の鉄製工具では、ほとんど歯が立たない。


だがーー


「魔力付与、始めるぞ!」

「削りすぎるな!一塊ずつだ!」


魔法補助を受けた工具が、ゆっくりと鉱脈を削り取っていく。

ドワーフの一人が低く唸った。

「おい‥‥‥魔力、喰われてるぞ」

「こんな鉱脈、伝承でしか聞いたことがねぇ」


ミスリルは魔力に反応する。

高純度のミスリルなら尚更だ

少しずつ、丁寧に削らねばならない。


ゴリ‥‥‥ゴリ‥‥‥‥

青白い鉱石が剥がれるたび、低い音が鉱山に響いた。


「‥‥‥宝石みたいだな」

蓮は思わず呟く。


「宝石より価値があるよ」

エルメスは言った。

「武器、防具、触媒、王権の象徴。

 ミスリルは"戦争と平和の両方"を買える」


マーリンは、転がってきた欠片を拾い上げる。


「きれー‥‥‥」

「これ、杖にしたら強くなる?」


「王城が建つくらい強くなるね」

エルメスは、たとえ話をするが

マーリンには全く理解していなかった。


「‥‥‥???」


***


採掘は半日続いた。


岩床に並べられたミスリルの塊は、すでに人の背丈を超えている。

エルメスは帳簿を広げ、無言で計算していた。

やがて、ペンを止める。


「‥‥‥だいたい、こんなものか」


「いくら?」

蓮が聞く。


エルメスは顔を上げずに言った。


「金貨換算で言うならーー

 "国家が本気で隠したがる額"だ」


「え?どういう‥‥」


「高級奴隷なら、百人以上」

「城なら三つ」

「小国の一年分の軍事費を超える」


蓮は、完全に言葉を失った。

マーリンが、ぽつり。


「‥‥‥お金、いっぱい?」

「ごはん、いっぱい?」


「一生分だ」

エルメスが即答した。


ここからはミスリルの換金の話になった。


「ただし」

エルメスは指を立てる。

「一気に売らない」


「だよな‥‥‥」

蓮はうなずく。

予想はしていた。

これだけの価値の高いミスリルだ。しかも大量に

一気に売ると‥‥‥‥。


「相場が壊れる」


「よく分かっているじゃないか」

エルメスは少しだけ驚いた顔をした。


「市場は"流す量"で操る」


条件はこうだ。


「闇市場と正規市場、半々」

「都市を分ける」

「名前は出さない」


これが条件。


セシルが横から口を挟む。

なぜかマーリンの頭を撫でていた。


「それなら‥‥もう商会、当たってますよ〜!

 "質のいい塊が欲しい"ってとこ中心に!」


「し‥‥仕事が早すぎる」


「エルメス様仕込みですから!」


マーリンが、セシルの頭を撫でた。

「セシル‥‥‥すごい!

 いい子いい子してあげる‥」


「えへへ‥‥ありがとうマーリンちゃん」


(セシルさん‥‥‥ぱねぇ‥)


***


蓮は、山の奥に光るミスリルを見つめた。


「‥‥‥これで、セレシアを迎えに行ける」


エルメスは静かに頷く。


「これは投資だよ、蓮。

 ーー回収率は、命単位になるけどね。

 でもーー」


「金は揃った」

「あとはーー"奪い返す"だけだ」


マーリンは拳を握る。


「助ける」

「絶対」




ミスリルの青白い光が、三人の影を長く伸ばしていた。


それは、

姫を買い戻すための切符であり、

同時に、戦争へ踏み込む合図でもあった。



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