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採掘

 ミスリル鉱山は、キモール・バルティオ男爵の領地にあった。

 かつて蓮がエルメスの試練を受けた、あの男爵である。


領主館の門をくぐった瞬間、兵士が顔をしかめた。


「‥‥‥また貴様か」


応接間に通されると、キモールは椅子をふんぞり返し、蓮を睨みつけた。


「貴様、何の用だ。今度は何を企んでいる」


「そんな男爵!人聞きの悪いことを〜」

蓮は、なだめるように男爵の機嫌をとる。


「お前、俺を馬鹿にしているのか?

 貴様の隣にいる男は、知っている。

 ハイクラスの奴隷商だろ。」


やはり師匠は知られていた。

ハイクラス奴隷商人で顔が広い以上、当然といえば当然だ。


「かなりの"ペテン師"だとも有名だ。

 そんなやつを連れてきたんだ‥‥何か企んでいるのだろ」


男爵の目が細くなる。

明らかに怪しんでいる


エルメスが一歩前に出る。


「単刀直入に言おう。

 土地を売って欲しくてここに来た。

 きみの領地にある、鉱山を‥‥‥ね」


キモールの顔が歪む。


「ふざけるな!

 いくらハイクラス奴隷商とて、我が領地を好き勝手に買えると思うな!」


男爵は、思わず椅子から立ち上がり

唾液をいっぱい飛ばしながら、詰めかける


「思ってないさ」


エルメスは肩をすくめ、懐から一通の封書を取り出した。


「だから、これを持ってきた」


キモールは乱暴に受け取り、封を切る。

手紙の中身を読んだ瞬間、顔色が変わった。


「‥‥‥メルセデス伯爵の‥‥‥直筆?」


キモールの顔に汗が浮かぶ。


「この土地を、彼に売ってやってくれ、だってさ」


「ぐ‥‥‥‥っ」


歯を食いしばり、キモールは蓮を睨んだ。


「‥‥‥貴様‥‥‥また厄介な縁を連れてきおって‥‥‥」


「たまたまですよ」

蓮は苦笑した。


「‥‥‥いいだろう。

 売ってやる。だが安くはならんぞ!!」


「結構。正当な値段で買うさ」


こうして、ミスリル鉱山はエルメスのものになった。


***


ーー翌日。


夜明けと同時に、蓮たちは鉱山へ向かった。


昨日まで男爵の管理下にあったとは思えないほど、鉱山は静かだった。

入口には、すでに人影がある


エルメスの秘書ーーセシルと、数人の男女。

奴隷の首輪はついているが、表情は落ち着いていた。

さすが、ハイクラスが保有する奴隷たち


「エルメス様〜!

 夜のうちに人を集めておきましたよ〜!」


セシルが、手を筒状にして、大きく手を振っている。


「仕事が早いね!」


蓮とマーリンは、エルメスとセシルの段取りの速さに驚く。


「彼女に頼んで、人材を確保しておいたんだ」


「師匠!さすが!!」


すかさずマーリンも合いの手!


「エルメス様‥‥‥すごい!」


エルメスは鼻高く言う。


「そうだろ!そうだろ」


しかし、すべて用意したのはセシルである。


「採掘経験者、魔法が少し使える子、力仕事向きな人。

 バランスよく揃えております!」


「素晴らしい!よし、じゃあ行こうか」


***


鉱山の奥。


湿った空気と

足元には砕けた岩と古い採掘跡。



朝から掘り続けて、すでに昼を回っている

蓮は額の汗をぬぐって、首をひねった。


「前は‥‥‥この辺だったんだけどなぁ。

 もうちょい左だった気もするし‥‥‥」


「記憶、信用していいやつなのかそれ」

エルメスが呆れ顔で話す。

自慢の外套も土と泥で汚れていた


「いや、だいたい合っているはずなんだけど‥‥‥たぶん」


セシルが連れてきた、奴隷達も疲労が顔に出ている。

マーリンはすでに、スコップを置いてダレていた。

しかし、蓮は諦めずツルハシを振っている。


するとーー


コン、という鈍い音。

エルメスが、岩の音の違和感に気づく


「この辺、すこし削られている感じがする。

 たぶん、前の採掘で表層だけが取られて、奥が残っているかも」


「じゃあ、掘り直す必要があるってこと?」

蓮は汗を拭いながらエルメスに聞く。


「そうだな。

 簡単には出てこないと思うな」



そこからが、地道だった。

ツルハシの音が、鉱山に響く。


汗をかき、何度も休みながら、岩を削る。


「くそ‥‥‥硬ぇ‥‥‥」


「ミスリルの近くは、岩自体も魔力を帯びてるんだ。

 普通の岩より、ずっと頑丈になる」



数時間後。


ようやく、壁の奥にーー

わずかだが、青白い光が滲んだ。


「‥‥‥来た」


蓮の声が高くなる。


「間違いない!

 師匠!ミスリルの鉱脈は、この奥です!」


「本当か!?」


だが。岩はまだ分厚い。


「見つけたはいいが‥‥

 人力では、丸二日はかかるかもしれない。」


「くそっ!もう少しなのに‥‥‥」

蓮は悔しがっていた。ここまで頑張ったのに‥‥

人力では限界がある。

もう諦めるしかないのか‥‥



そのときだった。


エルメスの秘書、セシルが、にやぁっと笑ってマーリンの方を見る。

マーリンはすでに疲れて寝てしまいそうな表情だった。


「マーリンちゃん!マーリンちゃん!

 アレ、見せちゃう?」


マーリンが、ぴょこんと顔を上げる。


「‥‥‥アレ?」


「ほら、最近いっぱい練習してたやつだよ!」


マーリンは一瞬だけエルメスを見る。

そして、こくりと頷いた。


「うん!‥‥‥やってみる」


「おや‥新技かい?

 師匠、聞いてないけど?」


エルメスは、少し嫌な予感がしたように眉をひそめる。


「マーリン。

 "ほどほど"という言葉は知っているかい?」


「‥‥‥たぶん」


不安しかない。


マーリンは、魔導書を取り出した。

表紙はやけに豪華だ。


エルメスの目が、わずかに細くなる。


「‥‥‥すいぶん、立派な魔導書だね」


(宮廷魔術師が似たような魔導書を持っていたような‥‥)


マーリンは何も考えず、前にでた。

セシルは、目の前で悔しがる蓮に向かって言った


「蓮さーん!そこに居たら死んじゃいますよー!」


「へ?」


マーリンが小さな杖を構える。

空気が、ぐにゃりと歪んだ。


「赤‥‥‥青‥‥‥黒‥‥‥白‥‥‥」

四つの魔力が、無理やりねじ込まれるように重なっていく。


赤‥‥‥火の魔法。

青‥‥‥水の魔法。

黒‥‥‥闇の魔法。

白‥‥‥光の魔法。


マーリンは全属性の魔法適正がある。

しかも、どれもがオールSクラス。

それどころか、彼女は詠唱を略している。


本来、魔法には詠唱が必要だ。

だが彼女の場合、それは"色"を唱えるだけで成立している。

これは、戦闘では全く役に立たないマスターを守るために

マーリンが必死で考え出した方法だった。

これは、魔法の理論が根底から覆す大発見であり

”詠唱を略する”というのはまさに、前代未聞なのである。


「え、色、多くない?」


「多いね」


「嫌な予感しかしないんだが」


マーリンは、小さな声で言った。


「壊して、削って、燃やして、吹き飛ばす‥‥‥

 ぜんぶ、いっしょ」


魔力が、限界まで膨れ上がる。

マーリンは杖を前に構えた


「穿て!!ーー超重層破壊魔法!<ホール・イン・マウンテン>」


「技名が物騒すぎるだろ!?」


次の瞬間。


ゴォォォォォォッッッーー!!


光の塊が、岩盤に突き刺さった。


一瞬、無音。


そして。


ドガァァァァァァン!!!!!


山が”殴られた”ような音がした。


岩壁だけでなく、

その奥、その奥、その奥までーー

一直線に、巨大な"穴"が開いた。


向こう側の空が、うっすら見えている。


風が、ヒュオオオオオ‥‥‥と、トンネル状の穴を吹き抜けた。


全員、口が開いたまま固まる。


「‥‥‥」


「‥‥‥」


「‥‥‥え?」


蓮が、震える声で言った。


「‥‥‥山、貫通してない?」


奴隷の一人が、腰を抜かした。


「や、山に‥‥‥風穴が‥‥‥」


セシルは、目をキラキラさせて拍手した。


「すごーい!!マーリンちゃん天才!!

 ほら見て、換気まで完璧だよ!!」


「そこじゃないだろ!!」


マーリンは凄く満足そうにドヤ顔している。


(なんて満足そうな顔なの‥‥マーリンさん)


エルメスは、ゆっくりとセシルを見る。

にこやかだが、目が笑っていない。


「‥‥‥セシルくん。

 これは、どういう事かな?」


セシルは、ぴしっと背筋を伸ばしーー


「実はですね!」


満面の笑みで言った。


「マーリンちゃんが可愛くて!

 しかも物覚えが良くて!

 才能の塊だったので!」


親指を立てる。


「エルメス様には黙って、おねぇさんが

 高級魔導書をいっぱい買い与えておりました!

 てへッ⭐︎」


「てへ、で済むと思ってるのかな?キミは」


マーリンは、穴の向こうを見て、ぽつり。


「‥‥‥ミスリル、見えた」


巨大な穴の途中、

青白く光る鉱脈が、はっきりと露出していた。


蓮は、笑うしかなかった。


「‥‥‥師匠、もうツルハシ要らないね」


エルメスは、こめかみを押さえながら言った。


「‥‥‥ああ。

 うちの魔法使いが、鉱山そのものを"道具"にしてしまったようだ」








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